第11話 ガーデンパーティー

 本日は王妃陛下主催のローズガーデンパーティーに出席しております。

 今回は急遽行われることになったのか、招待状が届いたのは二週間前でした。準備にあたふたしましたがどうにか間に合いました。


 会場は国内外から取り寄せられた薔薇が寵を競うように咲き誇っており、白いテーブルとイスが設置されていてビュッフェ形式になっているようです。

 飲み物や料理が並べられているところでは給仕役のバーテンダーやメイドたちがせわしく動き回っています。

 王妃陛下のお名前ローズにちなんで、テーブルや椅子、カトラリーやグラスや食器にも薔薇の意匠があしらわれていて、薔薇づくしの世界で目を楽しませてくれます。


 私はウエルカムドリンクを片手に、次から次へと現れる令嬢たちや令息たちと挨拶を交わします。

 やっと人が途切れたと一息ついていると、


「フローラ。こんにちは、あいさつはすんだようね」 


 ハイスター公爵様にエスコートされたディアナが待ちかねたように声をかけてくれました。


「こんにちは、ディアナ。ハイスター公爵様、お久しぶりでございます」


 カーテシーをして挨拶を致します。


「こんにちは。フローラ嬢。元気だったかな」


 プラチナブロンドの髪にシルバーの瞳。麗しいという言葉がぴったりな美しい男性です。

 ディアナの婚約者様なので、私にも気軽にお声がけしてくださいます。


「はい。おかげさまで、元気にしておりました」


「それはよかった」


 もしかして、私が婚約破棄されたのを知って、気遣ってくださったのかしら?

 衆人環視の元で行われた婚約破棄だったので、社交界にも広がるのも早かったでしょうし、恰好なスキャンダルですから、いろいろな噂が飛び交っているのかもしれません。


 三人で話をしていると、王妃陛下と王太子妃殿下がご入場なさいました。

 すぐに王妃陛下のごあいさつがあり、乾杯を合図にガーデンパーティーが始まりました。

 

 広い庭園では招待客がそこここでおしゃべりの花を咲かせています。

 今回は伯爵家以上の若い世代の貴族たちが呼ばれているようで、同伴者も許されているので、パートナーと出席されている方もお見掛けします。

 私も以前でしたらエドガー様とともに出席せねばならなかったのでしょうが、婚約が破棄されましたので今日は一人で出席しております。一人の方が気を使わなくてもよいし、とても気楽でほっとします。


「来ているわね。あの人たち」


 ディアナが眉を顰めて見つめる方向に視線をはしらせると……エドガー様とリリア様がいました。

 数人で楽しそうに話しているようで、遠目からでもリリア様のはしゃいでいる様子が窺えます。大丈夫でしょうか? あまり騒がしいと皆さんの迷惑になるのではないかしら?


「品のない人たちね。テンネル侯爵家の常識はどうなっているのかしら?」


 ディアナは眉間にしわを寄せています。ハイスター公爵様は変わらず穏やかな表情をなさっていますね。感情を表すことはなさらないのでお気持ちが読めないのです。ポーカーフェイスというのでしょうか。見習いたいものです。


「特別に許可を頂かれたのではないのでしょうか? テンネル侯爵家嫡男の婚約者様ですもの」


「特別にね。それであればよいのだけれども。それよりも、ローズ様がそろそろいらっしゃるのではないかしら」


 あたりを見回すとすぐそばまで来ていらっしゃいました。

 夜会では貴族が並んで言葉を頂くのですが、ガーデンパーティーの時は王妃陛下自らが動いてあいさつをされるのがしきたりになっています。


 そして、いよいよ私の番です。


「フローラ嬢。本日は来てくれてありがとう。久しぶりに会えてうれしいわ」


「本日はお招きいただきありがとうございます」


 私は最上のカテーシーをして挨拶をします。バーミリオンの髪と菫色の瞳が鮮やかでお美しくてその場がぱあと華やぎます。


「最近はどうかしら。研究なども進んでいるの?」


「はい。もう少しで成果が出そうなので頑張っております」


「そうなのね。楽しみにしているわ。でも、無理しないようにね」


「お心遣いありがとうございます」


 それから、王妃陛下は様々なことを聞いて下さり、受け答えしているうちに時間があっという間に過ぎてしまいました。王太子妃殿下からもお声をかけて頂きました。豊かに波打つブロンドの髪にコバルトブルーの瞳。王妃陛下とは違うお美しさで淑やかな顔立ちが印象的な方でした。


「ローズ様、とても楽しそうだったわ」


「だったら、よかったのですけど」


 ついつい、つられて自分の失敗談まで話してしまいました。コロコロと笑ってくださったので大丈夫だとは思いますが。ほぅと息を吐き、やっと緊張感から解放されました。

 

「少し、移動しましょうか」


 ディアナと公爵様が歩き出しました。わけもわからず後ろをついて行くと、エドガー様とリリア様の後ろ姿が見えます。


「ここで、休憩しましょう」


 私達三人は空いているテーブルに着きました。ここから二人の姿がよく見えて、話し声もきこえます。

 知り合いにエドガー様がリリア様のことを自慢しているようです。とても愛していらっしゃるのでしょうね。私の時には隣にいてもいないかのような扱いでしたから。


 少し過去に浸っていると、メイドが料理と飲み物を持ってきてくれました。

 よかった。ちょうど喉が渇いていたので、ジュースを口にしました。寛いでいると、王妃陛下と王太子妃殿下がエドガー様とリリア様のところに行くのが見えました。


 何事もなく終わればいいのですけれど…… 

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