第8話 ランチタイム
今日はとても良いお天気で日差しも暖かいので、庭園のテーブルでディアナと一緒に昼食を取っていました。
「気持ちがよいわね。ここに来て正解だったわ」
ディアナの深紅の髪が風に靡いて揺れています。瑠璃色の瞳と人形のように整った美しい顔立ちに見惚れてしまいます。いつも堂々と自信に満ち溢れていて、まるで大輪の薔薇のような艶やかさ。私の憧れなのです。
「そうね。静かでとても落ち着くし」
教室かカフェテリアで昼食をとるのが普通なので庭園はあまり人はいませんから、たまには人目のないところで昼食をとるのもいいのかもしれません。
あれから一週間経ちましたが、学園内は混乱もなく変化もなく何事もなかったかのように平穏な日常が続いています。婚約破棄された令嬢として奇異な目で見られるかもと心配してましたがそんなことはなく、励ましの言葉や同情的な言葉などを含めて、いろんな方から声をかけていただくようになりました。
せめてクラスメートの皆さんには、ダンスパーティーを台無しにしてしまったことを謝ろうとしましたが、ディアナに止められてしまいました。
『悪いのはあいつらであって、フローラではないわ。その証拠に処分を受けたのはあいつらだけでしょう? だから謝る必要なし』と庇ってくれました。
ブルーバーグ侯爵家とテンネル侯爵家の醜聞に関係のない生徒達や先生方を巻き込んでしまったことに罪悪感を持っていたので、ディアナの言葉に私の心も救われました。
たわいもない話をしているとあっという間に食べ終わり、今は食後の紅茶を楽しんでいるところです。
木陰が程よく日差しを遮り木の葉がさわさわと風に揺れて、心地よい時間が過ぎていきます。
「ねえ、ちょっと気になっていたんだけれど、単刀直入に聞いてもいい?」
「私で答えられるものなら」
どんな内容かわからないけれど改まった口調で言われると、ちょっと緊張してしまいます。
「婚約解消したって言ってたけれど、慰謝料とかそのほかの契約とかも解決したってことよね?」
そこ、突っ込んで聞くんですね。心配なことでもあるのかしら?
「お父様に聞いたのは婚約解消したことだけで、あとは後日みたいな感じでしたわ」
「後日って、そんなことあるの?」
「それはよくわかりませんけれど、あとは任せてくれと言われたので、私にはそれ以上は分かりません」
「そうよね。お家事情があるものね。無理言ってごめんなさい」
ディアナは謝った後、頬杖をついて何やら考え事をはじめました。
「じゃあ、契約は保留ってことよね。これはちょっと……どうしたら……」
とか、あとはよく聞こえませんけれど、小声でぶつぶつ呟いています。気になることでもあるのでしょうか。
ディアナが考え事に耽っている間、私は紅茶を飲みながら時間をつぶしました。
「テンネル侯爵家には兄弟はいるの?」
考え事が終わったらしいディアナの声がしました。唐突な質問ですね。
「いますよ。エドガー様の弟でスティール様ですね。私たちより一つ年下で、今は隣国に留学していらっしゃったかと」
「やっぱり、いたんだ。そうかー。留学、道理で知らないはずね」
「?」
またわけのわからない独り言が始まりました。何かあったのでしょうか?
「で、そのスティール様とは親しいの?」
「いいえ。エドガー様と婚約した時にあいさつしただけで、すぐに留学されましたから」
「そうなんだ」
「スティール様がどうかしましたか?」
婚約破棄と何か関係があるのでしょうか?
スティール様とは一度お会いしただけですから、あまり印象に残っていないのですよね。緊張もしてましたし。ですから、名乗っていただかないと会ってもわからないと思います。
「ううん、なんでもないわ。気にしないで」
気にしないでと言われると気になるのですけれど。聞いたところで教えてはくれないでしょうね。なんとなくですけど、聞かない方がいいのかもしれません。
沈黙がおりた空間に、ガサリっ、足音がしました。
「誰かと思ったら、フローラ、こんなところにいたのか」
停学が解けたのでしょう。
聞き覚えのある、聞きたくない声に振り向くと、エドガー様とリリア様が立っていました。
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