【18-2】




 ふと目が覚めた。カーテンから夜景の光が少し漏れている。


 そっか、ここは私たちのお部屋でもないし。上の方の階だから、外から見られてしまうという心配はなかったけれど。


 隣ではヒロくんが小さくイビキをかいていた。疲れさせてしまった原因の一部は私にもあるんだもの。本当に申し訳ない……。


 体勢を変えようとしたとき、お腹の下の方、いやその奥に痛みを感じた。


 そうだ、そっとベッドを抜けてユニットバスで手鏡を使ってその場所を確認する。


 大丈夫、ちゃんと薬を使わずに自分で傷が止血できている。


 こうなれることをヒロくんが待っていてくれたんだもの。


 まぁ、この少し前に、食事の用意のとき包丁で指を傷つけたことがあって、ちゃんとすぐに出血が止まったのは経験していたし、瑠璃さんも薬をとめてからの血液検索の結果で大丈夫と言ってくれていた。


 それでも怖かった。


 私の気持ちがじゃない。


 『ヒロくんを失望させてしまわないか』そっちの方が私にとっては何よりも大事なこと。


 もう大丈夫だよ。ちゃんと報告できる。


 お互いに初めてだった今回は、本当にゆっくりと二人の繋がりで愛を確かめようと決めていたの。


 それで精一杯だって最初から分かっていたし。


 そんな余裕がない状態でも分かったよ。ヒロくんが私とひとつになれたこと。


 いっぱいこれまでの時間を取り戻すかのように、何度も私の名前を何度も呼んでくれた。


 これがまだ学生だったら許されなかったかもしれない。


 大人の男女になった私たち。そして法律的にも許される関係になれた。なにも後ろめたはない。


『今日は気持ちがしっかり確かめられればいいよね?』


 ヒロくんと二人で話し合って決めた。それだけが私たちの今日の目標だったから。


 だから、後々になって予想外のことが分かって、急いで焦らないための用意もヒロくんがちゃんと用意してくれていた。


 逆にその事も嬉しかった。本当に大事にしてくれていることが分かったんだもの。

 


 ベッドに戻ったとき、後ろから抱き締められた。


「心配だったのか?」


「ちょっとね。でも大丈夫だったよ。もう出血もしてなかった。起こしてごめんなさい」


「気にすんなよ。そうか、よかったな」


「ヒロくんが上手だったんだよ」


「バカ……」


 体の向きを変える。これで向かい合って笑えるから。


「私たち、もう少しちゃんと落ち着いて、みんなに安心してもらえるようになったら……」


「美穂がそれを望むなら、俺は歓迎するし協力するよ」


「私はヒロくんとじゃなきゃ嫌。自分の赤ちゃんを抱くのは私ひとりじゃ叶えられない夢だもの。ずっと……、そんな夢……みてた。もう、私たち、いいんだよね……?」


「美穂、次の検査の時に先生に聞いてみよう?」


 ヒロくんに抱き締められた腕のなかで、私はポロポロと涙を流しながら頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る