第22話 ルームメイトは選べない


「貴重品庫の鍵です。どうぞ」


 なにやら金庫のようなものもあるらしい。

 鍵を受け取った。


 列から外れると「あなたは二号室です」という声が聞こえてきた。

 ミャロが次席だったのか。


 いや、さすがに男しかいないこんな寮にキャロルが入居するのは、いくらなんでもまずいだろう。

 もしそんなことがあったとしたら、王城にいる連中の正気を疑う。

 キャロルは入寮しない可能性がある。

 やっぱり判断はつかないな。


「隣の部屋ですね」

 ミャロはなんだか嬉しそうだった。

「ああ、改めてよろしく頼む」

「こちらこそ。よろしくお願いします」


 そうして、寮の中に入り、二階へと上がった。

 一番初めの部屋に「1」と書いてある。

 ここだ。


「では、お返しします」

「ありがとうな。助かったよ」

 かばんを受け取る。

「いえ、ではまた」

 ミャロと別れて、部屋のドアを開けた。


 中に入ると、新築だけあって木の匂いが香る綺麗な部屋であった。

 ここが旅行先であったなら、思わずウキウキしてしまいそうだ。

 だが、部屋には先客がおり、ベッドの上にどっかりと座っていた。


 そいつは、同級生っぽい、スポーツ刈りみたいな短髪をした子供だった。

 同年齢とは思えないくらい良い体格をしている。

 なぜか怒った表情をして、俺を一心に睨んでいた。


 俺、なんか悪いことしたっけ。

 心当たりはなかった。

 当たり前だ。初対面なのだから。


 部屋の奥を見るとベッドが三つある。

 こっちに足を向けるように、テラスに向かって間隔をあけて三つ並んでいた。

 テラスに面したところにはドアもついている。


 けっこう大きな部屋だ。

 軽く見回すと、壁にくっついて勉強机が左側に二つあり、右側に一つある。

 勉強机1つ分開いた右のスペースに、背の高いロッカーのようなものが三つ並んでいた。

 これが貴重品庫か。


 意を決して右側のベッドへ歩いてゆき、かばんを床に置いた。

 なんといったらいいものか。

 睨まれているから話しづらいし、無視し続けるのもなんだし、困ったものだ。


 スポーツ刈りは、相変わらず俺の顔を、なんだか親の敵のように睨んでいる。

 俺は誰かの親を殺した覚えはないんだけどな。


 ルークあたりがやっちまってたとか。

 可能性はなくもないが、薄い線であろう。


 はあ。


 ため息をつきたくなる。

 だが、こちらから歩み寄りを示さなければ、友情もなにもないだろう。

 ここは挨拶だ。

 コミュニケーションは挨拶から始まる。

 あとから来たのは俺なのだから、俺から挨拶すべきだろう。


「俺はユーリ・ホウだ。よろしく」

 爽やかに言ってみた。


「聞いてねえよ」


 即、ずいぶんなお返事が返ってきた。


 な、なんだこいつ……。

 修羅の国から来たのか?


 ……そして会話が止まった。

 やたらと張り詰めた空気が漂っている。


 はぁ、ミャロとは上手くやれそうだから、こりゃ存外幸先いいぞと思った途端にこれかよ。

 先住民族との交渉からはじめなきゃいけないのか。


 でも、今日は疲れたからいいや。

 荷解きでもするか。

 ちなみに、運ばれてきたらしい荷物は別々に部屋の端に積まれていた。

 俺以外の二人のルームメイトの私物ということだろう。

 俺のバッグ三つは少ない方らしい。


 ロッカーのところへいくと、自分の名前が貼ってあるロッカーに鍵を差し、開けた。

 開けると中は棚状になっている。


 半分は服を吊り下げられるようになっていた。

 俺は適当に荷物を詰め込んでいった。


 一番上段は成長を見越してか、とても高いところにある。

 現状では手が届かないので往生するかと思ったが、そばに踏み台にするための階段みたいな台がちゃんと用意してあったので、それを使った。

 上段には普段使わないものを置くことにしよう。


 かばんからインク壺や王鷲の大羽根をまとめた物を取り出しては突っ込んでいく。

 ついでに、書き終わった日記帳も二冊入れた。

 実家に保管しておこうとも考えたのだが、中を見られても困るので、持ってくることにしたのだ。


 誰かに見られて謎の文字を扱う悪魔崇拝者のように思われてもつまらない。

 一応、帯に鍵をかけてあるので、簡単に見られることはないが、ナイフを使えば帯は切れるので、開けるのは難しくない。


 からっぽになったカバンをベッドの下に突っ込むと、俺は机にインク壺と羽根ペン、鋏などの文房具セットを置いて、最後に今使っている三冊目の日記帳を置いた。

 考えてみれば、王都に居れば文房具屋にはいつでも行けるようになったんだな。

 多少便利になったとも考えられるか。


「てめえ、誰がその机つかっていいって言ったんだ?」


 ??????


 背後から先住民族の声が聞こえてきた。


 言われてみれば誰にも言われていない。

 なぜ俺はこの机を自分のだと思ったのか。


 一つには、みっつある机のうち既に一つの上に荷物が置かれていたから、早いもの勝ちなのだと思ったからだ。

 もう一つは、その机がロッカーのない方だったので、この机を取らなかったら先住民の机と隣り合うことが予想されたから、回避しておくべきだろうと思ったからだ。

 三つ目は、俺のベッドが右側だからだ。

 ベッドが右側で机が左側では、ちょっと暮らしづらい。


「使っちゃだめなんですか?」

「駄目じゃねーよ」


 駄目じゃないんかい。

 何がいいたいんだ、こいつは。


「だが、俺の許可を取れ」


 は??????????


「失礼ですが、お名前は?」

「あんだぁ!?」


 怒鳴るなよ……。


「いえ、王族の方なのかなと思いまして」


 王族なら特権を持っていてもおかしくはない。

 この国は王国だし、ここはホウ家の自治領と違って直轄領なのだから。


 いや、ないか。

 学院の理念として、立場で生徒を区別しないというものがある。

 だから入学式のときも、学院側の教師たちはキャロルのことを「殿下」と呼ばずに、呼び捨てにしたり、キャロルさんと呼んだりしていたのだ。

 王族でも特別扱いはしない。

 この学院の美点である。


「てめぇ、調子に乗るなよ? 首席だかなんだか知らねえが、お勉強ばっかじゃ騎士はつとまんねえんだからな」


 どのへんが調子にのってる感じがしたんだろう。

 だが、彼のいうことも一理ある。

 俺も騎士院の代表をペーパーテストで決定するというのはどうなんだろうと思っていたし。


「まあ、そうですね。確かに机については協議して決めるべきだったかもしれません」

「きょうぎってなんだ」


 思わず吹き出しそうになった。

 ちょっと難しい言葉だったか。


「皆で物事を決めることですよ。机についてはルームメイト三人で決めることにしましょうか」


 確かにそのほうが公平だし、残る一人が誰か知らんが、早い者勝ちで残り物を渡されても不満が残るだろう。


「嫌だね」


 ………。

 嫌なんだって。


 駄目じゃないと言ったり、嫌だといったり、わけのわからんやつだ。

 この先住民はこの机を欲しているのだろうか……。

 そうであれば、なぜ向こうの机に荷物を置いたのだろう……。


 なぜなんだ……。

 謎が多すぎる……俺には荷が重い……。


「俺はドッラだ」

 急に名乗りだした。


 ドッラ。

 ああ、なるほど。

 すとんと胸に落ちるものがあった。


「もしかして、ドッラ・ゴドウィン君ですか」

「そうだ」


 つくづく、ついてねえなぁ、俺って。


 いや、ついてないんじゃなく、最初にミャロと知り合ったのが幸運で、それと相殺してゼロって感じなのか。前向きに考えれば。


 いや、さすがにこいつがルームメイトっつーのはマイナスすぎる気がするぞ。

 十五年。

 早めに卒業できるとして、十年。

 途中で部屋替えとかあることを願うしかない。


 しかし、想像を絶するDQNだな。

 親の顔をみたい。

 いや、片方の親の顔は知ってるのか。

 ガッラの野郎、どういう子育てをしてきたんだ。


「僕はあなたの父上と知り合いなのですが、聞いていませんか?」

「聞いてるが、関係ねぇ。父上と知り合いだからってなんだ? 偉いとでも思ってんのかよ」


 いや、思ってないが。

 そうか。

 ガッラがなんか妙なこと吹き込んだせいで、こんなにしょっぱなから敵対的なのかも。


 元から粗暴なのもあるのだろうが、先入観ゼロでいきなりコレというのはいくらなんでもおかしい。

 ガッラがなにか吹き込んだせいで、俺に対してバイアスがかかっているのかも。

 もともと本格的に頭がおかしい子の可能性もあるが。


「偉いとは思ってませんが。色々と腑に落ちることはあります」

「あぁ!?」


 大声だすなよ……。


「ガリ勉野郎がよ。調子に乗りやがってよ。ふざけんなよ」

 なんなのこの子……。


 ドッラはおもむろに俺に近づいてくると、暫定的な俺の机の上にあったインク壺を払いのけた。

 インク壺が床に落ちて割れ、黒いシミを作る。


 あーあ、やってくれちゃったよ。高いのに。

 弁償してくれんのかよ。


 床も汚れちゃったよ。

 誰が掃除するんだ。


「なんだぁ? びびってんのかぁ?」


 ヘラヘラと笑いながら、威圧的に言ってくる。

 なんだこいつ……。

 ガッラに苦情入れるぞおい。


 そうして、ドッラは俺の書きかけの日記帳を掴んだ。


 あ゛?


 ドッラは俺の日記帳を持ち上げると、見せつけるように俺の目の前で揺すった。


「こんなお勉強の本をわざわざ持ってきやがってよ。何様のつもりなんだよ、てめえ」

「返しなさい」


 このクソガキが。

 それは命の次くらいに大事な本なんだよ。

 さすがの俺も怒るぞ。


「それは大切なものなんです。返しなさい」


 日記帳は俺が少ない小遣いをやりくりして買った本だ。

 汚されたり破かれたりしたら、ちょっと冗談では済ませられない。


「あ? てめえが命令できる立場かよ」


 ドッラは日記帳を床に叩きつけると、靴の裏でふんずけて、グリグリと踏みにじった。


 ………ああ、なるほど。


 なんだ、こいつ喧嘩がしたいのか。

 それなら、そっちのほうが手っ取り早い。


 ああ、それが望みなら、こっちも楽なんだ。


「ふう……犬ですか、あなたは」

「……あ?」

「犬には言葉は通じませんよね。だから、望みなら犬のやり方に付き合いますよ」


 水は低きに流れるとは良くいったものだ、

 低きにいる人間に対して高い次元で交渉をすることはできない。


 交渉できなければ無視するのが賢いやりかただが、ルームメイトではそうもいかない。

 犬コロのやり方に付き合ってやろうじゃないか。


「僕も、反抗的な犬と同じ部屋で暮らすのはごめんですから」

「なんだと……」


 ドッラの目が据わってきた。


「ほら、吠えるだけですか? 弱虫ですか?」


 俺がそう挑発した瞬間、ドッラが先に手を出した。

 喧嘩屋がやるような力任せのフックだった。


 だが、俺もここ三年で、ソイムにしごかれたおかげで、少しは慣れている。

 老練の戦士のふるう槍を目で追うことに比べれば、力任せの拳を見切ることなど、わけはなかった。

 というか、ソイムをエクストラハードモードだとすると、完全にイージーモードだった。


 単に拳を作って殴るだけでも、体重の乗せ方で威力はまるで変わるし、体の使い方で疾さがまるで違うのだ。

 ドッラのは、ぜんぜんなってなかった。


 俺はドッラの拳を避けつつ、袖を取ると、おもいっきり釣り上げて、同時に襟を取った。

 背を丸めて膝を折って、取った袖で腕を伸ばし、襟を取った腕で肩を担ぐ。

 縮んだバネが弾けるように体を伸ばし、一本背負いでドッラを投げ飛ばした。


 床に叩きつけるのではなく、途中で手を離して放り投げる。

 ドッラはドアにぶち当たって、ものすごい音がした。

 子供の体重ではドアは壊れなかったが、上の蝶番が飛んだ。


 すぐに走り寄って、みぞおちのところをボールでも蹴るようにして、思い切り蹴っ飛ばした。

「おぐっ―――――ッッッ」

 声にならない悲鳴を上げて腹を抱え込んでのたうち回るドッラを、肩を掴んで無理やり仰向けにする。


 そのまま、馬乗りになった。

 その際、片腕は突き出されたので取れなかったが、一本は足の下に敷いて自由を奪った。


「おい」

「―――ってめ!」


 殴ろうとしてきた腕を掴んで止める。


「お前、俺に喧嘩を売ったよな?」

「なんだあっ!?」


 俺は小指を下にして拳を握り込み、思い切りドッラの鼻に打ち下ろした。

 ドッと鈍い音がした。

 柔らかい子どもの肉の感触が拳に伝わる。


 ドッラは殴られた経験が殆どないのか、童子どうじのような表情になった。

 鼻から鼻血が垂れる。


「なんだじゃなくてさ。俺に喧嘩売ったよな」

「……っ」


 ドッラは我に返り、俺を力強く睨んだ。


 俺は、自分でも驚くほど頭に血がのぼっていた。

 日本でのことを一つ一つ思い出しながら、手ずから一文字一文字書き込んだ日記帳を、こいつはおふざけで地面に叩きつけ、汚れた靴でふみにじった。


 さすがにツッパるだけあって、折れない心を持っている。

 腕を懸命に動かして俺を殴ろうともしている。


 だが、腕を掴まれたままでは、殴れるわけがない。

 そういうときは、まず振り解くんだよ。

 掴まれたままじゃ、例え拳が顔に届いても、威力がでないだろう。


 そんなことも知らないで、自信満々に俺に喧嘩を売ったのか。


 まあ、仮に腕を振り解いたとしても、体勢的に圧倒的不利だからどうしようもないんだけどな。


「なあ、答えろよ」

 もう一発鉄槌を食らわした。

 ドチュっという鈍い音がして、鼻血が飛び散った。


 ドッラの顔色が目に見えて変わってきた。


 本能的に、現状が圧倒的に不利で逆転の目がないことを察したのだろう。

 怯えの色は見えないが、明らかに気が動転している。


「俺に喧嘩売ったよな?」

「あっ、ああ」

「なら、こうなる覚悟はあったんだよな?」


 鉄槌を振り下ろす。

 ぐちゃりと拳が血でぬめる感じがした。

 ドッラの鼻の周りは流血で真っ赤になっている。


「俺は、大切なものだから返せと言ったよな」


 更に二度三度と殴る。

 ここまできたら一発殴っても十発殴っても同じだ。

 ドッラは血まみれになり、顔の形も変わっている。


「お前は、他人の大切なものを遊び半分で奪った」

「あ゛ッ! ぐっ!」

 殴る。殴る。

「あまつさえ、貴様は俺を舐めて喧嘩を売った」


 これ以上やると前歯が折れてしまうかもしれない。

 そろそろやめておくか。


「殺されても文句は言えないな」

 俺はドッラの首を両手で締めた。

「奪うのは自分の専売特許だと思ったか?」


「あ゛………ガッ………」

 ドッラの片手が俺の腕を掴む。

 精一杯の力だろうが、たいした力ではなかった。


「馬鹿は死ななきゃ治らないっていうよな。お前はどうだ」

「ガギゥ……ゴ」

「死ねよ。俺に舐めた真似をした報いだ」

「アギュ……」


 本格的に窒息する前に、首の締め方を気管を潰す締め方から落とす締め方に変えた。

 すると、ドッラは呆気無く白目をむいた。

 白目をむいてかくんと脱力する。


 落ちたのだ。


 口鼻に手を当てるとちゃんと呼吸をしている。

 よかったよかった。


 いや、よくねえよ。

 俺は我に返った。

 なにやってんだ、俺は。


 次の瞬間、ドアが開け放たれた。

 先ほど受け付けをしていた中年女性がドアを開けて入ってくる。

「なにをやっているの!」


 ドアの向こうでは大勢の子どもたちが、中年女性の背中越しにこちらを見ている。

 振り返ってみると、テラス側の窓からも大勢覗き見がいた。

 大事になっちまっている。


「喧嘩です。今しがた終わりました」


 俺は立ち上がり、鼻血だらけになった手をパタパタと振りながら言った。

 こりゃどうにもいかんな。


 顔面血だらけになって真っ赤な顔したドッラが、苦悶の表情で失神している。

 一見死んでいるようにも見える。


 あーあ、こりゃ退学かな。

 まあ、しょうがないか。


 運が悪かった。

 どのみち、あんな狂犬と何年間も平和的に暮らすなんて不可能だ。

 ルームメイト運がなかったんだよ。


「やりすぎよ!」

 やっぱりやり過ぎだったらしい。

「ちょっと! しっかりして!!」

 中年女性はドッラの肩を持つと、ガタガタと揺らした。


「あんまり揺らさないほうがいいですよ。気を失っているだけですから」


 中年女性は呼吸を確かめると、ドッラをそっと床に降ろした。

「なにかあったんですか!?」

 もう一人、大人の女性がやってくる。

「医務室に行ってお医者様を呼んできてちょうだい」

「えっ……あ、はい!」

 おーおー、大事になってきたなぁ。

 えらいこっちゃ。


「ユーリ・ホウ。なにがあったのか説明しなさい」

 めんどくさいこと言い出した。

 察するに、こいつは寮監かなにかか。


「彼が僕を侮辱して、所有物を損壊したうえ、ひどく剣呑な様子で喧嘩を売ってきたので、喧嘩を買いました」

「……もっと具体的に言いなさい、なにがあったの」


 具体的にって、これ以上どう具体的に言うんだよ。

 ガキの言い分なんてどうせ信用しねえんだろうが。


「具体的もなにも、それだけですよ」

「反省の色が見えませんね」


 すげー怒った顔で言ってくる。


 ああ?

 いい加減イラついてきたぞ、なんだこの学校は。

 昨日から不愉快なことばっかじゃねーか。

 ふざけてんじゃねーぞ。


「反省はそちらがすべきでしょう」

「なんですって?」


 寮監の目がつりあがった。


「理解してくれていないようですから、順を追って話しますね。僕は、あなた方が決めた部屋に入りました。あなた方が決めた部屋にです。そうしたら、そこには狂犬のようなクソガキがいて、しょっぱなから喧嘩腰で僕を侮辱しはじめ、僕の所有物を取り上げ、返してほしいというと拒否し、損壊し、口論になると、向こうから殴りかかってきたんです。それで自衛が終わって一息ついたら、あなたがやってきて、自衛したことを責め、反省しなさいと言う。これって、いくらなんでも理不尽じゃないですか? 僕になんの過失がありますか。たまたま僕が自衛の手段を持っていたからいいものを、本当だったら、僕はなんの過失もなく大怪我をしていたわけです。それを反省の色が見えない? 抗議をしたいのはこちらのほうなのですが?」


 俺がそう言い終わると、中年女性は頭痛を押さえるように頭に手を当てた。

 ああ、期待の優等生から一気に問題児に評価が転落してる感じがする。

 株価大暴落だ。


「……ともかく、こうなった以上、あなたには何らかの沙汰が下る可能性があります。あなたは王都に自宅がありますね。今日はそちらに帰り、追って沙汰を待ちなさい」


 なんだ、家に帰るのか。

 まるっきり問題児扱いだな。

 全く困ったもんだぜ。


 俺は日記帳第三巻をロッカーにしまうと、鍵を閉めて、財布と短刀と鍵だけ持って寮を出て行った。

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