第10話 白い狐亭

「あ、『白い狐亭』の看板見えたにゃ。あそこにゃ。」

白い狐亭のドアをくぐると、古い感じだが丁寧に手入れされており、木のぬくもりを感じる宿だった。


「いらっしゃい。」

 カウンターにいた40代くらいの少しふくよかな女性が、温かな笑顔と共に声をかけてきた。

「あの、セトさんからの紹介できたのですが、一晩いくらでしょうか?」

「あら、あの子の紹介かい。私はあの子の叔母にあたるセシルだよ。宿代は一晩一部屋あたり素泊まりで3銀貨だね。朝晩の食事は一人あたり1.5銀貨だけど、1銀貨にまけとくよ。あとお風呂も無料にしちゃおう。」

「うわ〜。ありがとうございます。ユイナどうする?」

良い条件に感じたが、手持ちが少ないこともありユイナに相談すると、

「うん、良い宿にゃ。食事付きで泊まるにゃ。部屋も一緒で良いにゃ。」

と予想外の答えが返ってきた。

「えっ!」

相部屋の提案に驚き固まっていると、

「うん?嫌にゃ?襲うにゃ?」

「嫌じゃないし、襲わないけど!」

「じゃあ問題ないにゃ。それより訓練できる所あるかにゃ?」

「ふふふっ。裏庭があるから、ある程度はできるわよ。」

「やったにゃ。じゃあ共同の1銀貨と1人2銀貨ずつで5銀貨払って、早速裏庭行くにゃ〜。」

とユイナにさっさと押し切られたのだった。


 そして物理的にもグイグイと押されるような形で裏庭につくと、やる気に満ちたユイナの特訓が始まった。

「さぁ軽く振ってみて…こんな感じで…そうそう。じゃあ実戦形式でいくにゃ〜。」

「えー!早いって!…」

「いつっ!」

「うがっ…!」

「防御で固まってると転がされるにゃ」

「ぐっ!…!」

「立って立って、ほらこっちにゃ!」

「えっ!…!」

「相手を抑えるには攻撃も必要にゃ。そこでこう!」

「うっ!…だぁっ!」

「そんな正直だと、目潰しに砂投げちゃうにゃ」

「ぎゃ…!」

「…!…!」

 こうして日々の日課となるユイナ先生の実戦形式スパルタ教室が幕を開けたのだった。



 特訓を終えて宿の食堂のテーブルに倒れ込むように座ると

「少しの間にボロボロになったけど、大丈夫かい?」

とセシルさんが食欲をそそる良い匂いがする煮込み料理と、香ばしく焼き上げたパンを持ってきてくれた。

「おー!美味しそうにゃ!…パクッ!、これ肉がトロトロで凄いうまいにゃ!」

ガツガツガツ!目を輝かせて凄い勢いで食べ始めたユイナの横で、

「ハハハッ…大丈夫です。訓練ですので。」

と答えながら、一口食べると、口の中に濃厚な味わいが広がり、肉がとけるようになくなっていった。

「あっ!おいしい!」

思わず声を漏らして、食べ進めると、

「フフッ、いい顔して、いい勢いで食べてくれるねぇ。おかわり自由だから、しっかり食べてね。」

とセシルさんが微笑みながら声をかけ、戻っていった。

「ふぁり、がとう、にゃ〜」

「ありがと、ござい、ます」

そして2人は幸せそうな顔で食べ続けたのだった。



 満腹になり、お風呂で疲れを癒やした2人は、こうして冒険者1日目を無事に終えたのだった。



・・・

 いや、眠れないって・・・。


ベッドに横になっていたが、疲れているにも関わらず、隣のベッドにいるユイナの存在感とほのかな女性の甘い香りが気にかかり、先程見たユイナの湯上がり姿も思い出されて、ドキドキして眠れずにいた。


 するとしばらくして、ユイナのベッドから、寝息が聞こえてきた。思わず上半身を上げてユイナの方を見たが、信頼して寝ているユイナを見て、その気持ちをありがたく感じ、この信頼を大切にしようと思い、

「ユイナありがとう。おやすみ。」

と言って、仲間ができた喜びを噛み締めながら眠りに落ちていった。


 一方ユイナは、ライルが眠りに落ちた後、しばらくすると起きてきた。一応何かあれば直ぐに起きれるような浅い眠りで寝ていたユイナだったが、ライルが幸せそうに寝ているのを見て、

「うん。やっぱり信頼できるにゃ。私の目に間違いないにゃ…ふふ。おやすみにゃ〜。」

と言って、これからの二人での冒険にワクワクしながら、今度は熟睡するのだった。

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