第5話 遭遇してつかまる?

 次の日の朝、僕(ライル)は前世の記憶を取り戻して以来憧れでもあった冒険者ギルドを、緊張気味に訪れていた。


 重厚なレンガ造りの冒険者ギルドは2階建てで、それなりの大きさがあり、1階には受付カウンターや依頼掲示板、併設された食堂もあった。


 依頼掲示板の前で依頼を吟味したり仲間と相談する冒険者や、出発前の準備や打合せをする冒険者の熱気にあてられながら奥に向かう途中、なぜか「グゥ〜〜〜」という音が聞こえた気がしたが、興奮状態の僕はそちらに注意を払う余裕もなく、カウンターに向かっていた。


 カウンターには3人の受付嬢がいて、なぜか1人の前が列もなく空いていたので、僕は深く考えずにそちらに進んでいた。声をかけようと受付嬢を見ると、黒いオーラが全開であった。しかも

「何で私がアレの担当にされて、何とかしろとか、苦情処理とかしないといけないのよ!……まぁ確かに魅力的な女性が無一文でいたらほっとけないけれども。

 昨日の金ピカローブのくそ野郎にはお灸をすえられてスカッとした面もあるけど…アイツに目を付けられたら困る低ランクの人達は危険を感じて近寄って来ないし、多少のトラブルは関係ない高ランクの人達は低ランクの人と組むメリットないし……パーティーを紹介するのは難しいな。

 ……それにしても、何も食べてないだろうからそろそろやばいかも。

 女性一人は危ないから勧めたくないけど、実力はありそうだし、最終手段は登録料を貸してあげて隣町までいけるぐらい稼いで貰うことかな……そうするとギルド長説得するの私か……くっ、貧乏くじ…」

とブツブツ言っていた。


 うっわ、ヤバいところにきた。今からでも別の列に行くかと少し後ずさると、黒いオーラの受付嬢と目が合ってしまった。


…僕は覚悟を決めて

「すいません、魔の森に同行してくれる人を探しているのですが、どうしたら良いでしょうか?」


と尋ねると、受付嬢はどんよりとした雰囲気をまといつつ、


「あ〜それなら護衛依頼ですね〜。あと、自分も戦えるなら冒険者になって、同じ場所に向かう仲間を募る手もありますね〜。あの森だとなかなか探すのは難しいかもせれませんが。どうされます?」

と答えてきた。


 うーん。戦闘は得意じゃないんだけど…。でも仲間を探すなら自分も冒険者になった方が良いのかな…


判断に迷った僕は

「護衛依頼っていくら位でしょうか?あと冒険者ってどんな手続きが必要ですか?」

と再度尋ねた。


 この時僕はジリジリと迫りくるものに気付いていなかった…。


 受付嬢は応答していて落ち着いてきたのか、少しまともな感じに戻りつつ、


「護衛依頼は冒険者のランクによりますが、1日1人当り1金貨くらい必要ですね。冒険者登録は16歳以上であれば、犯罪歴がなければ誰でもなれますが、登録に2銀貨必要ですね。」


と答え、ここで僕をじっくり見ながら


「でも戦えたり特技がないと、パーティー組んでくれる人も見つかりにくいかも。…あっ!」


受付嬢が何かを思いつき、


「今なら冒険者になろうとしていて実力のありそうな方を紹介できますよ。ランクは最低ランクとなるので護衛としてなら実力のわりに格安です。一人なので無理はできませんが。」

と紹介してくれた。


 へー、格安で実力のある人に頼めるなら良いかも。どんな人だろうか?仲間となりパーティーを組める可能性もあるのならもっと良いんだけどな~。一人ってことは何か特殊な人なのかな?ちょっと興味が湧いたので詳しく聞いてみよう。

 なお話に集中していた僕は、視界の隅っこに赤色のものがぴょこっと現れたことを気にしていなかった。


「何か良さそうですね。ちなみにその人に頼むといくら位になりそうですか?あと、その人と僕がパーティーを組んで仲間としてやるのは難しいでしょうか?」


「護衛として雇うとなると1日5銀貨くらいでしょうね。ただその人には最初に登録料…もとい手付金として2銀貨が必要となります。」


ん?登録料って言った?もしかして2銀貨が無いのだろうか?いや、まさかね。でも安くて良いかも。


「次に、パーティーを組むときの仲間としてですが…人と人ですので相性もあると思いますが…えっと、つかぬ事をお伺いしますが、貴方はこの街の魔術学院と関係が深いですか?」


 やっぱ会ってみてだろうけど、なんで魔術学院?もしかして同級生とか?それだと微妙にやり辛いんだけど…。


「魔術学院ですか?そこを卒業したばかりですが…」


「え?ホントですか!?自信なさそうな感じなのに実は凄い優秀な方だったんですね!あーでも今回は逆に駄目かも……魔術学院の伝手とか縁を使えなくなると困りますよね?」


 実はユイナが大事なところを潰した金ピカローブの冒険者は、魔術学院の学院長の息子であった。デントナの街は魔術学院卒業生の魔道具工房をはじめ、学院関連事業が大きな産業になっているため、魔術学院学院長の影響力はかなり大きく、受付嬢はその影響の全く受けない者しかユイナと組ませることはできないと考えていた。


「優秀じゃないです…魔術学院とのつながりは…卒業して無職だし、特に困らないかな?」


「え?身内に例えば学院長の邪魔が入ったら困る人とかはいないですか?(あっ意外な言葉に思わず学院長って具体名で聞いてしまった;by焦る受付嬢)」


身内と聞いて思いついたのはシン教授だけだけど…シン教授はあの学院でピカイチだから、シン教授に何か不都合ができて出て行かれると困るのは学院長の方だろうし…


「うーん、学院長なら困る人はいないかな」


そう答えると受付嬢は目を輝かせて、

「ホントですか!!あぁ!貴方ならパーティー組めるかも!」

と気勢を上げ、


それと同時に、ライルに赤い何かが突貫してきた!


「にゃはは!仲間を探しているのか!私の登録料を払うなら、このくれないのユイナが仲間になってやるにゃ!お前ツイてるにゃ!」


「そうです!お話していた実力のあるこの方が!ツイてますね!」


受付嬢も凄い笑顔で乗っかってきた!


「…」

あまりのことに目を点にしていると、近くからグゥ〜〜と音がなった…


「さらにご飯もくれると一生の仲間になるにゃ!」


「…」


「お願いにゃ〜…」

「私も助けると思ってお願いします〜…」


「はい…」


2人の女性の涙ながらのお願いを断れる力は、僕にはなかったのである。。。



・・・・・

 ちなみに後日、金ピカローブの冒険者が、ユイナと組んだというライルについて調べ、魔術学院の卒業生だと知ると、親である魔術学院の学院長に

「この前学院を卒業したライルという落ちこぼれがいるだろ?そいつが冒険者になって目ざわりだから…」

と学院長の力で邪魔や嫌がらせをしてやろうと相談しかけると、

「ライルだと!!お前はなんて奴を思い出させるんだ!!俺は絶対関わらん!!お前も親にいつまでも厄介事をもってくるな!!屋敷から出て行け!」

と学院長は最も思い出したくない過去(自慢のひげや髪を燃やされ、ずたぼろのオークみたいにさせられた過去など)を思い出し、顔を真っ赤にして激怒し、金ピカローブに殴りかかってきた。

 金ピカローブはあまりのことにほうほうの体で屋敷から逃げだし、これ以降金ピカローブの冒険者は親の援助が受けられず、親の力で好き放題できなくなり、全てが上手くいかなくなっていくのだが、それはまた別の話である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る