第3話 落ちこぼれ魔術士?ライル(2)
今、僕は魔術学院のシン教授の教授室に呼ばれていた。
シン教授は晴れやかな顔で、
「ライル君、卒業おめでとう!やっとだな。」
と声をかけたくれた。
「シン教授ありがとうございます!……ホントにご迷惑をおかけしました。卒業できたのは教授のおかげです。ありがとうございました!」
僕は喜びと安堵をかみ締めながらシン教授に頭を下げた。
ホントに迷惑をかけた…。今の僕があるのはこの人のおかげだよ。
「まぁ卒業式であんな事になったのは初めてだからな。学院長の慌てぶりは面白かったが…。」
シン教授は卒業式やその後の卒業試験の学院長の様子を思い出して苦笑していた。
「しかし卒業証書のキャパをオーバーさせて燃やしたのは初じゃないか?なかなか見ものだったな。」
「もう忘れて下さい」
「ハハッ。しばらく語り継がれそうではあるが…。それよりライル君、これからどうするのかね?」
「えーと、卒業したら魔力をクリスタルに込める作業をしないかと誘ってくれていた所は、この件で話がなくなったので今は何も決まっていません。……とりあえずできることを探そうと思います。」
…卒業にもたついたので予定はなくなり、悲しいくらいノープランであった。
それを聞いてシン教授は、
「私の下で助手でもするかい?」
と言ってくれたが、
「アハハ...僕には無理ですよ。」
さすがに自分には務まらないし、迷惑をかけることが分かっていたので断った。
シン教授は少し考え、「ふむっ」とうなずいた後、
「そうか、ライル君はまだ若く色々な可能性があるから、様々なことを見て、経験して、焦らずにやりたいことや適したことを見つけるのが良いのかもしれないね。……ただ、亡くなった君のご両親には大変世話になったから、困ったことがあったらいつでもきなさい。」
と言ってくれた。そして、
「卒業試験の後預かっていた魔道具を少し改良しておいた。溢れて漏れ出す制限を少し上げといたのと、唱えてから発動までの時間を短くしておいた。これで威力が多少上がり素早く撃てるだろうから、街から出たりしたときに少しは役に立つだろう。
それと、この箱は、ご両親から1人前になった時に渡すように頼まれていたものだから、今封印を解いて渡そう。
では……体には十分気をつけるのだぞ。あと、寮の部屋はしばらく居ても大丈夫だからな。……何かあったら、いや何もなくてもたまには連絡するのだぞ。」
と言って、自作魔道具の改良版と小さな箱を手渡してくれた。
僕はシン教授の心を込めた言葉をかみしめた後、
「はい。今までありがとうございました。シン教授もお元気で。」
と挨拶をして魔術学院を後にしたのだった。
・・・・・
「はぁ〜とりあえず卒業だぁ〜」
僕は魔術学院から寮の部屋に帰ってきて脱力していた。
明日からどうしようかな……。
いや、転生者としてはホントはね、ここで意気揚々と冒険者ギルドに行くと思うのだけど……シン教授が改良してくれたとはいえ、その魔道具だけで戦っていくのは無理だろうし、行き当たりばったりの魔術は即ちゅどーんって自爆するのが目に浮かぶしなぁ……。
シン教授はああ言ってくれたけど、さすがに学院には居場所ないし……これ以上迷惑かけられないし。
もともと仕事先の事故で亡くなる前に仕事の危険性を感じていた両親が、何かあったらライルをよろしくと託していたのがシン教授であり、教授は天涯孤独となったライルを小さい頃は男手一つで、魔力量極大で奇跡的にも魔術学院に合格できてからは、落ちこぼれても嫌な顔一つせずに育ててくれたのであった。
う~んとうなりながら考えてみたが、そんな直ぐに良い考えが浮かぶ訳もなく、
「とりあえず、父さん母さんの箱を開けてみるか!」
と問題を先送りして、気になっていた箱を開けることにした。
しっかりとした少し重めの蓋を開けてみると、中には地図とブレスレットが入っていた。
「これは…地図?えーと、うわっ!?」
いきなり箱が光ったと思ったら、父さんと母さんの立体映像が浮かんでいた。
「ライル、これを見ているということは、立派に成長したのだな。
おめでとう。シン君には感謝してもし足りないな。
その姿を見ることが叶わなかったのは残念だが、勇姿が目に浮かぶようだ…
勇姿…勇姿…うーむ、魔力の暴走癖が直らずやらかしてそうな気もする…
イテッ母さん何をする!?」
「そんなコトないわよね〜カッコよくなってるって。ね!私達のライルだし!」
……すいません。やらかしてます…。
「あ〜。
さて、その地図の場所には、父さん母さんが育った村の者が、成人した時に儀式として訪れた洞窟がある。ブレスレットを付けて行くことで入ることができ、そこから帰ってくると1人前に認められる聖なる場所だ。」
「でもその村は今は無いし、母さんと父さんが一緒に行ったのが最後だから、20年位使われていないのよね〜」
「そうだな、興味があったら行ってみると良い。
そこで何があるかは自分で確かめてくれ。
あ、一人で行く必要はないぞ。
信頼できる仲間を見つけるのも力の一つだからな。」
「詳しいことは言えないけど、行ってみたらきっと面白いと思うわ。
ホントは帰ってきたライルから旅路の話を聞いて祝ってあげたかったんだけど、ゴメンね。
そうそう、私達のシン君みたいに、良い仲間は一生の宝になるから、焦らず良い人見つけなさいね〜」
「話足りないが時間がないので、ライル!健やかに幸せに暮らしていくことを願っている!」
「二人はいつも見守っているからね!」
「「良い人生を!!」」
その後にこやかに手を振る二人の姿はスゥーっと消えていった。
「…うわ〜、こんな仕掛けが、あるなんて……父さん母さん、懐かしいな…。
…これもう一回見れないかな?…無理か」
少し水分量が増した目をこすりながら、箱を何度か開け閉めしたが立体映像が再度浮かぶ事はなかった。
父さん母さん、日本人の記憶を取り戻した僕から見ても凄くいい人で最高の両親だったな…。魔力量馬鹿で制御できない問題児の僕を大切に育ててくれた。ホントに感謝だよ…。
気持ちが落ち着くのを待って、とりあえず入っていたブレスレットを手にはめ、地図を広げた。
どうせやることはないので行くことに決めて、地図を眺めると
「えーと、この赤丸の所だよね。えー!魔の森の中だ!」
そんな奥じゃないけど一人じゃ絶対無理なのは分かった。
どうしよっかな。父さん母さんは仲間と言っていたけど〜…当てはないなぁ。
う〜ん、そうだ!ここはやっぱり、明日冒険者ギルドに行ってみるか!
自分が無双できなくても良い仲間に出会えるかもしれないし、魔道具でのフォローや魔力量、あるいは隠れた才能?とかで奇跡的に役に立つことがあるかもしれないし!
こうして僕は冒険者ギルドでの出会いに思いをはせ、不安と期待を感じながら明日に向けた準備を始め、次の日、新たな一歩を踏み出すことになるのだった。
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