第9話

「申し訳ない、指導まで手伝って貰って」

 矢取の合間、空良は涼子に声を掛けた。

「気にしないで、教えるのは好きだし」

「そうそう、結構新鮮で勉強になりますよ」

 隣に居た佐倉美奈(さくらみな)が話を続けた。

「有難う」

「いえいえ」

「・・・指導の事もだけど」

「え??」

「感謝してる・・・全力で、戦ってくれて」

「不器用なものですから」

 涼子は頭を掻いて、たははと苦笑した。

「いや、いいんだ」

 空良は、清々しい顔を向けて言った。

「それが、今のあいつらに一番必要なものだから」

「そっか」

 彼の意図を読んだ涼子は、うんと頷いた。

「いい後輩達だね」

「ああ」



 駅前にあるミスターK。

 目の前に並べられたホリデーセットに全く手を付けず、3人娘はテーブルに顔を埋めていた。

「全く相手にならなかった」

「全射皆中」

「これが、全国準優勝校の実力」

 手も足も出ないとは、正にこういう事を示していた。

 彼女達も持てる力を出したのだが、本気を出した啓西女子レギュラー陣には遥かに及ばなかった。

「止まって、られないね」

 佳乃はポツリと呟いた。

「私達、立ち止まっているヒマ無いよ。もっともっと強くなって・・・」

 その先は、自然と言葉が出ていた。


「里香先輩と空良先輩が作った香里館を、必ず日本一の弓道場にしてみせる」


「おっ、言ったなよしのん」

「夢は大きくね、一口乗った」

 ようやく3人娘にいつもの笑顔が戻った。



「うん、それでいい」

 その様子をガラス越しに見ていた空良は、フッと笑った。

 目指すものが見付かれば、人は強くなれる。

 でも・・・

「・・・俺は」

 言葉の先は続けずに口を閉じた空良は、そのまま駅に向かってゆっくりと歩き始めた。

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