第52話 屋上

それから唯斗は孤立していった。心のどこかで唯斗を信じたい気持ちもあったのかもしれない。


俺は唯斗を疑い、傷つけた。確証もない話や周りに流されていったのだ。


しかし、真実は違った。唯斗が佐藤芽衣に告白をしてから数ヶ月。俺は真実に辿り着いた。


下校中、唯斗が女を連れて歩いていた時のこと、俺は芽衣から全ての真実を聞かされた。


唯斗に関する噂は全て捏造だと。そんなことは全くの虚偽だと。


幼なじみである芽衣が言うなら違いないだろう。


やはり唯斗の噂は噂に過ぎなかったという事だ。俺はそれを聞いた瞬間、背筋が凍った。


そして、それと同時に悔やんだ。唯斗に謝らなければいけないとも思った。でもタイミングがなかった。


俺はチャンスをうかがい続けた。そして、ついに、やっと見つけた。


昼休みの屋上、行くしかない。俺は意を決して口を開いた。



♢ ♢ ♢



「構わないよ、どうしたの……?」


妙に深刻そうな表情を浮かべる馬場。今更どうしたと言うのだ。


ぼっちになり屋上で昼を済ませる俺を笑いに来たのだろうか。


……なんて考えていると、馬場が深々と頭を下げ始めた。


「っ、今更許してくれないと思うが…………今まで本当に悪かった」


そう言って、見たこともないような表情を浮かべた馬場は、頭をあげて続ける。


「唯斗が許してくれなくても、言わなきゃいけないと思ってな。やっぱり、噂は全部嘘だったんだよな」


「それなのに、それなのに、俺は……」


そう言って馬場は再び頭を下げる。


ということは、気付いたということか……? 噂の真実に気付いたということか……? 思い返してみればそうだ。


月城と芽衣と馬場との修羅場をくぐり抜けた時、芽衣と馬場はなにやら会話をしていた。


そして、あの時から馬場は、なにかと俺の様子を伺うようになっていた。恐らく芽衣から噂についてを聞かされたのだろう。


信じがたい話だが、それしか考えられない。


「……そういう事か。分かってくれたなら良かったよ」


俺は安堵した。もちろん、馬場を憎いと思う気持ちがないかと聞かれれば、なくはない。


だがそれ以上に俺は安堵した。俺にとって大切だった人たち……俺は信じ続けていた。


すると、馬場は俺の目をじっと見つめる。


「昔のようには言わない、だが、俺はまた唯斗と仲良くやりたい」


「……本当に自分勝手なのは分かってる、でも」


「…………」


俺は思わず口ごもってしまう。馬場はさらに続けた。


「俺は何があっても唯斗を信じる。だから唯斗も──」


──キーンコーンカーンコーン


馬場が言いかけると、それに被さるようにチャイムの音が学校中を響いた。


だが、俺に対する馬場の思いは十分に伝わった。


もう一度、信じてみるのも悪くないな。


俺たちは屋上から立ち上がる。


「さて、戻ろうか」


「ああ。そうだな」

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