第13話 必死の弁明

視野が暗順応してきて、俺に笑いかける月城の姿が目にはいる。


彼女は暴れるな、などと言っているが拘束されてお仕置き部屋に連れ込まれた俺に暴れるな、なんてのは無理な話だ。


「──っ?! お仕置き部屋?!」


驚く俺に、平然と月城は相槌を打った。


「うん。お仕置き部屋」


咄嗟に聞き返す俺を他所に月城は冷静に受け答えする。


しかし、お仕置き部屋と言われても、極力月城を刺激しない方法をとってきた俺に罪などないだろう。


「お仕置きったって俺がなにかしたのか?」


ひとまずこういう時には冷静に。恐る恐る俺が聞くと月城は自分のポケットの中を漁り始め、遂に俺の携帯を取り出した。


「ゆーくん、これ」


月城は単調な声で、そう言うと俺の携帯で開かれたメッセージアプリを見せつける。


「おまっ、なんでそれをッ」


つい月城が俺の携帯を持っていることに思わず聞き返してしまう。それに、月城が開いているのはロック画面ではない。


メッセージアプリの画面だ。月城の奴……勝手に指紋認証でもしたのだろうか。


「朝、私の方が早く起きちゃったから、試しにゆーくんの携帯をみてみたの」


月城は抑揚の無い淡々とした声で事の経緯を話し始めた。


「そしたらさ、コレ。新着メッセージの通知が来てたけど? 私という愛人がいるのに違う女とも連絡とるんだ?」


月城は俺に向かって佐藤芽衣と書かれたユーザーを見せつける。


「いや! 違う!」


俺は咄嗟に弁明を試みるがそんな事はお構い無しに月城は続ける。


せめて此方の言い分くらいは聞いて欲しいものだ。


「ほら見てよ。こんな女はいるのに私の連絡先は消したの?」


月城は俺に問いかける。


しかし、因みに俺は月城の連絡先など消していない。元々月城の為だけに別垢を作って、『月城以外の友達を消す』という命令をどうにか撒いていたからだ。


「お前と連絡先を交換したのなんてとうの昔だろ……?」


俺は恐る恐る月城に問いかける。


だが、月城は揺るがない。表情は変わらずのまま、状況のせいか月城の目は見ているとひき込まれたそうな程に光がないようにみえた。


「私以外の連絡先は全部消してくれたじゃん。見せてくれたじゃん?」


ジワジワと追い込まれていく俺は月城の圧力に耐えられず、口篭ってしまう。


「……」


「携帯を変えたからかなーと思ってトーク履歴見たんだけど、違ったみたい。まさか、別垢でも作って嘘ついてたのかな?」


月城は問い掛けるようにそう言い放つと、思い出したように携帯を指さした。


「ま、今はそんな事どうでもいいんだけど……この女誰?」


疑いの眼差しを向ける月城に俺はハッキリと俺たちの関係を告げる。


……月城は芽衣の事を知らないのだろうか。


「ソイツはタダの幼馴染だ」


月城は「はあ」とため息ひとつ吐き、呆れたような顔をして続けた。


「はい、アウトー! お仕置き決定だね」


「いやまて! 人の話は最後まで聞け!」


俺は間髪入れずに月城に言い聞かせる。俺は芽衣に振られた、にも関わらずその関係を誤解される訳にはいかない。


「なに? 私、そいつのこと覚えてるよ?」


月城は得意そうに続けた。やはり覚えてはいるようだ。


……それなら余計に、なぜわざわざ俺に聞く必要があったのだろう。俺は呆れたように続ける。


「それなら話は、はやいだろ。繰り返しになるがソイツはタダの幼馴染だ」


俺は念を押すように俺たちの関係を言い聞かせる。


「だ、か、ら。私という愛人がいながら幼馴染とイチャイチャする訳?」


死んだ魚のような目で俺を問いつめる月城。しかし、俺たちはイチャイチャなどしていない。


俺は振られたのだ。


「よーく聞いてくれ月城。もう俺達はそんな関係ではない──」


月城の誤解はこのまま解けそうになかったので、仕方なく俺は素直に屋上であった出来事を月城に話すことにした。

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