大塚家vs夏休み(2)
「ただいまー」
「じーちゃーん、ばーちゃーん、来たよ〜」
「おお、歩美、麻由美。おかえり、上がれ上がれ」
「こんにちはー」
「友美ちゃん達も来てくれたの。嬉しいわあ」
私は久しぶりに、ママが父さんと結婚するまで暮らしていたママの実家へ遊びに来た。父さんは仕事なので、私達の他は友美と友樹、それに──
「どうも、お久しぶりです」
「お邪魔します」
「あうっ」
「ぶう」
──と、美樹ねえ&友にい、さらに正道と柔も一緒である。
「あらあ美樹ちゃん、お久しぶり。去年の秋以来ねえ」
「ごめんね〜、なかなか顔出せなくて」
「忙しいのは頑張ってる証拠だ、偉い偉い。ほら、みんな上がりなさい」
というわけで全員で居間へ移動する。ばあちゃんの出してくれた麦茶を飲みつつ、玄関での会話で思い出したことを確認。
「美樹ねえは、うちのじいちゃん達と前から知り合いなんだっけ?」
「兄さんが高校生の時、麻由美ちゃんがたまにうちへ遊びに来ててね、その流れで何度かお邪魔したのよ。私だけだったけど」
「センパイは就活で忙しかったから誘い辛くて。一回だけ美樹ちゃんを迎えに来てくれたことがあったけど、あの時も玄関で挨拶だけして帰っちゃったし」
「何言ってるの、私達も会ってみたいから一度くらい連れてらっしゃいって言ってたのに、いつもいじいじ言い訳して逃げ続けて……本当によく結婚できたものだわ」
はぁとため息をつくばあちゃん。ああ、やっぱりママ、そんな感じだったんだ。押しが弱いからなあ。
「豪鉄君には感謝してもしきれん。俺は、麻由美はもう一生結婚できんものだと内心覚悟しとったぞ」
まあそりゃパパがあんなことになったからね……私が俯いて考え込むと、じいちゃんはハッと息を呑む。
「あ、いや歩美、今のは冗談じゃ」
「あなた、それじゃフォローになってませんよ」
ばあちゃんは再び呆れ顔になり、私の顔をじっと見つめる。
「今のは別に雨道さんを責めたわけじゃないのよ」
「うん、わかってる」
それにパパのことが話題になっても別に暗くなったりしないよ。元々そういう話だとは考えてなかったし。
あ、いや、違うかな。
本音ではやっぱりパパがいないことを気にしてたんだと思う。でも今は家族が増えたし父さんもいる。それに時雨さんとのことがあって、本当の意味で吹っ切れた。パパはなんにも悪くないし、時雨さんのことも、うん、きっとそのうち解決できる。
「そうじゃなくて、さっきのはさ、そのうち友美や柔もお嫁さんに行っちゃうのかなって思って少し寂しくなっただけ」
「歩美、ちょっと待ちなさい。ウェイトアミニッツ。ジャストアモーメント」
「まだ小さい二人の結婚より自分のことを考えなさい。いや、もちろんあなただって気が早いんだけどね?」
美樹ねえとママのダブルツッコミが入った。
「友美ちゃん、最近は学校で何しとる?」
「ローズちゃんと悪の魔女ごっこ」
「なにそれ、どういう遊び?」
「好きな悪の魔女になってたたかう。友美は最悪の魔女。ローズちゃんは社会悪の魔女。ざっしについてきた悪の魔女カードでへんしんする」
近頃の小二女子は男子みたいなことしてるな。私も友美のことは言えない小学生だったけど。
「なんだか最近は男女の垣根が下がって来た気がするね」
「少年漫画を読む女の子も、その逆も多いって言うしね」
「ふうむ、そういう時代なのか」
美樹ねえ達の会話に腕組みして頷くじいちゃん。それから「俺の若い頃は」と長い話が始まりそうになったところでばあちゃんが遮る。
「あら、友美ちゃん魔女なの? それじゃあお菓子あげなくちゃね」
「ハロウィンじゃなくてもいいの?」
「今日はOK。もらっときなさい」
「クッキーとおせんべい、どっちがいい?」
「どっちも!」
「おや、友美ちゃんは固いのも食べられるのか? 偉い。ほれじいさんもこの通り、まだまだ頑丈な歯をしとるぞ」
「友美も」
バリバリ。じいちゃんと二人おせんべいを齧り始める友美。その横では友樹もリスみたいに両手でクッキーを持って黙々と食べている。
「かわいいわねえ」
「ばあさん、カメラはどこにやった?」
「ここにあるよ、じいちゃん」
私は持参したデジカメを渡す。スマホでもいいけど、やっぱこっちの方が綺麗に撮れるからね。
「お前のカメラか。よし、後で印刷して送ってくれ」
「うん」
「歩美の性格は確実におじいちゃん譲りね。私も昔は来るたびに可愛がられたわ」
「どうりで、お義兄さんと気が合うはずだよ」
お茶を手にまったりしながら語り合う美樹ねえと友にい。うーん、言われてみれば私の性格はじいちゃんからの影響が強いのかもしれない。浮草の家のじいちゃんも似たような感じなんだよね。会うたびにすっごいはしゃぐ。そんなじいちゃんズに似た上で、さらにあの父さんからも影響を受けてどんどん子供好きになったわけか。
「兄さんはともかく、おじいちゃん達からのそれは影響じゃなく遺伝よ。遺伝子レベルで受け継がれたの」
「遺伝子レベル……」
そういう言われ方をすると、なんだかすごいことのように感じる。
婆ちゃんはというと正道を膝に乗せて満面の笑み。
「八歳に三歳に○歳が二人。ちっちゃい子がいっぱいで幸せだわあ」
ばあちゃんも子供好きだよね、じいちゃん達に比べると落ち着いてるけど。たまのことだし存分に可愛がってやってよ。
でも、ちょっと引っかかった。
「私は?」
「歩美はもう、ちっちゃいことを愛でるより日々大きくなっていくのを喜ぶ歳よ」
なるほど。でも、その境目ってどこなんだろう? 人によるのかな。
「俺にとっちゃ歩美もまだまだ子供だぞ。ほれ、久しぶりにじいちゃんの膝に座ってみい。それとも高い高いしちゃろか」
「いやいや、そんな歳じゃないって」
「なに、まだお前一人くらい持ち上げられる。ほれ、やっちゃろ。立った立った──って、あいたたたたた!?」
ほらあ! 私の歳より、じいちゃんの歳が問題なんだってば! 急に立ち上がったじいちゃんは腰に手を当ててへたり込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「この人、坐骨神経痛を患ってるのよ。まったく、歳も考えずにはしゃぐから」
「く、くそう何も言い返せん。口惜しい……こうなったら友也君、頼みがある」
「あ、湿布か軟膏、買いに行きましょうか?」
「そりゃ家にあるからええよ。それより俺の代わりに歩美を高い高いしてやってくれ」
「え?」
「は?」
することになった。
「えーと、高い高い……楽しい?」
「なにこれ……」
友也さんに持ち上げられて渋い顔になる私。逆にじいちゃんは、とても満足そうな顔で床に寝そべっている。
「孫が来てくれると、やはりええのう」
「そうですね」
ばあちゃんは呆れながらも、じいちゃんのため膝を枕にしてあげる。
その横で美樹ねえが私達にカメラを向け、シャッターを切った。
「良い画が撮れたわ。兄さんに見せましょ」
「そうね」
「やめてよ!」
「同居しない?」
孫と一緒に暮らしたい。それが二人の本音だと知っているママは久しぶりにそう訊ねる。
でも、じいちゃんは天井を見上げながら嘆息した。
「豪鉄君と同じで、この家に愛着があるもんでな。離れがたい」
「まだ二人とも元気だし、しばらくはここにいるよ。ありがと」
「もう……」
来るたびに同じことを訊いて同じ答えが返って来るので、ママも半分諦めている。
「おじーちゃん、かるたしよ」
空気を読まず勝負を申し込む友美。じいちゃんは再び腰を痛めないよう、ゆっくり起き上がった。
「おう、ええぞええぞ。じいちゃんは強いからな、友美ちゃん勝てるかな?」
「がんばる!」
友美のかるた好きも変わんないな。好きこそ物の上手なれって言う通り、会うたび強くなってるのを実感できる。成長を見るのが楽しい歳。ばあちゃんの言ったそれにあの子もだんだん近付いているらしい。
「ともきも」
友美がやることは友樹もやりたくなる。よちよち歩きの頃からお姉ちゃんの後ろを追いかけるのに夢中な三歳児は当然参戦した。
「歩美もやらんか?」
「参加したいのはやまやまだけど」
私は首を横に振る。
「今動いたら、二人が起きちゃいそう」
「あらまあ」
流れでだっこすることになった正道と柔が私の腕の中ですやすや眠っている。あまりに気持ち良さそうなので、この子達の睡眠を優先したい。
「心配しなくてもそう簡単には起きないわよ。座敷に布団を敷いて寝かせましょ。ここはうるさくなりそうだし」
「そ、そうだね、でも」
「あら」
「なるほど」
今度は別の理由で躊躇する私を見て、何かを察したばあちゃん。次の瞬間、美樹ねえに足裏をつつかれた。背筋がぴーんと伸びてしまう。
「んぎっ!? ぐぐぐぐ……」
「足が痺れてるなら素直に言いなさいな。女の子だもの、隙は見せてもいいけど可愛げが無いとこうなるのよ」
こ、この魔女……!
夕飯も食べてから帰ることになった。私達はばあちゃんの手伝いを買って出る。
「ちょっとお、うちの台所にこんなに集まったら見動き取れないわよ」
「いいじゃない、賑やかで楽しいでしょ」
「限度があるわ」
ママの言葉に苦笑するばあちゃん。二人の他にも私と友美、さらには何故かじいちゃんまで加わっていて狭いキッチンは過密状態。
「せめて、あなたは美樹ちゃんや友也さんと飲んでてくださいよ」
「さっき歩美が俺の作った五目チャーハンを懐かしいと言っとったろ。だから作ってやるんじゃい」
「ははは、楽しみ」
「ああもう、おとうさん一人で場所を取って。予定変更よ麻由美、全部焼いちゃいましょ。ホットプレート出して」
「はーい」
肉じゃがを作るという話だったのに、突然焼肉になってしまった。
「これ、焼いて食べてもいいの?」
「構わないわよ。歩美も覚えときなさい、主婦には時に柔軟な対応力も必要になるの」
言いながら、表面を洗っただけのじゃがいもをまな板を使わず器用にスライスしていくばあちゃんとママ。他の野菜も火が通りやすい形に切り揃える。
「まあ、歩美が主婦になるかはわかんないけど」
さっきの話の続きのように呟くママ。
私は目線を上に向けて、そんな未来を想像してみる。でも、相手の顔がどうしても思い浮かばない。
パパみたいな人? それとも父さんみたい? 友にいみたいな人かもしれないし、三人とは全然違う性格の人かもしれない。そもそも結婚なんかするんだろうか?
「ん~……結婚か、よくわかんないなあ」
「だって、安心してお父さん。歩美はしばらく、お嫁さんには行かないみたい」
そりゃ十四歳だし。
「歩美、もしも相手を見つけたらうちに連れて来るんだよ。俺と豪鉄君とで見極めてやるからな」
「なんでみんな同じこと言うの」
さおちゃんといい父さんといい、そんなに私の人を見る目って信用できないのかな?
なんて思っていたら玄関のチャイムが鳴った。
「歩美、ちょっと出て」
「はーい」
言われた通り玄関まで行くと、そこには予想外の顔。
「エプロン? 料理中か?」
「父さん、なんでこっちに」
「麻由美から晩飯はこっちで食うと連絡を受けてな。せっかくだから俺も顔を出すことにした」
そう言って靴を脱いだ父さんは、手に持っていたものを私に渡す。
「なにこれ?」
「寿司だ、買って来た」
「わっ、やった! みんな、父さんがお寿司買って来たよ!」
「おお、豪鉄君よく来た! ささ、入って入って。今な、歩美の将来の相手について話し合っとったところだ」
まだ続いてたの?
「それは是非とも参加したい」
父さんはノリノリで話に加わって行く。ああもう、めんどくさい人が増えちゃったな。
「だから、まだずっと先の話だって! 中学生だよ、そんな相手、一人もいないから!」
「じゃあ歩美、友美と柔はどんな子と結婚すると思う?」
美樹ねえに切り返され、私はあごに手を当てて考え込む。
「そうだなー、友美は美樹ねえに似てるから友にいみたいな人を選びそう。柔は、どんな性格かまだわかんないし想像しにくいよねー」
我が娘 せっかち者の 自覚無し
「ん? 父さん、今何か言わなかった?」
「常に何かを発言しておる」
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