第21話 提案

 早朝。

 朝食を終えて食器を片づけていると、小屋のドアをノックする者が。


「誰か来たみたいだな」


 特に来訪の予定はなかったはずだが――そう思いつつドアを開けると、そこにはいかつい白髪オールバックの大男が立っていた。

 この人は……会ったことがある。


「ス、スミス副学園長?」


 この学園のナンバー2と言える存在であった。そんな大物が、なぜ直々足を運んできたというのか……と、思いつつ、大体の見当はついている。こっそりラドルフへ確認を取りたいところだが、なぜか朝から見かけないんだよなぁ。

ともかく、ここは相手の出方をうかがうためにすっとぼけてみるかな。


「きょ、今日はまたどうしてこんな朝早くに?」

「学園街で騒ぎを起こした者は、君のかつての教え子だったらしいね?」

「え、えぇ……」


 な、なんて威圧感だ。

 背丈は俺と変わらないくらいなのに、なぜか十メートル近い巨竜の前に立っているのかと錯覚するくらいの迫力だ。

 ……正直、キュセロ学園長より学園長っぽい威厳がある。


「どうかしたかね?」

「な、なんでもありません」

「俺に何か用ですか?」


 ドアの前でやりとりをしていると、話題の中心であるリゲル本人がやってくる。


「君か……」


 リゲルを目の当たりにしたスミス副学園長。

 ただでさえ険しい顔つきが、さらに厳しいものとなった。

 一体何を考えているのか……緊張しながら副学園長の言葉を待っていると、


「ふむ、ミアン・ローランズの言う通り、なかなかいい面構えをしているな」

「へっ?」


 予想もしていなかった副学園長のひと言に、思わず間の抜けた声が漏れ出る。


「あ、あの、それはどういう……」

「昨夜、ミアン・ローランズから連絡を受けてな。鍛えれば面白い存在となるかもしれない宝石のような少年がいると、ね」


 ミアンさんがそんなことを……意気投合して、楽しそうに話をしていたのは後ろから見ていたけど、そんな風に捉えていたとは思わなかった。


「そんなに面白い話をした記憶はないのだが……」


 一方、事態を正確に把握しきれていないリゲル。昨日の夜にミアン・ローランズという少女がどのような人間であるのか説明をしたのだが……やはり、あまりよく分かってはいなかったようだな。


 この辺は今後も教育の必要があるのだろうが、それよりも今は副学園長だ。

 明らかにリゲルへ関心を持っている。

 それも……只事ではないほどに。

 気づいた瞬間、俺は次に副学園長が何を言おうとしているのかが読めた。


「リゲルと言ったね。君――学園に通ってみる気はないか?」


 やはり、入学への誘いだったか。

 これに対し、リゲルの返答は、


「それはつまり、ここにいてもいいと捉えて問題ないのか?」

「もちろん」

「ならば入学する」


 即決。

 しかも判断材料がこの場にとどまれるからって……それでいいのか?

 

 ――当然、いいわけがなかった。


「では、これより編入試験を開始する」

「し、試験?」


 思わず変な声が出てしまった。

 ……というか、これも大体予想の通りだ。そう簡単に学園へ入れるわけがない。絶対に試験の類があると思ったが……やはりそうだったか。

 問題は試験内容だ。

 座学メインだったら絶望的だが、その点は向こうも配慮してくれたようで、試験内容は実技のみだという。


「君やミアン・ローランズの話では学習能力が高いようだから、知識的な要素は省く。その代わり――実力を示してもらおう」

「それはつまり……闘技場で他の生徒たちがやっている、実戦形式の鍛錬で行うという意味ですか?」

「その通り」


 よし。

 それならリゲルにもクリアできるかもしれない。

 あと問題なのは――


「リゲルと戦う相手は誰ですか?」


 そこだ。

 話の流れからして、副学園長に話を持っていったミアンさんが最有力か?

 ただ、もしそうだとしたら……さすがのリゲルでも苦戦は必至。勝敗はまったく読めないだろう。


「もしかして……ミアンさん?」

「いや、違う」


 副学園長はミアンさんが相手であることは否定した。

 だったら……フィナか?

 或いはまったく別の生徒かも?


「リゲルの相手は――この私だ」

「なっ!?」


 対戦相手は……まったくもって想定外な人物だった。

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