第7話【幕間】始まる迷走
ルーシャスが【星鯨】を去ってから二週間後。
メンバーが多い【星鯨】では、いくつかのパーティーに分散させ、それぞれ違ったダンジョンを探索し、そこで得たアイテムなどを売って得た金をリーダーであるブリングに納める形をとっていた。
これまでも同じやり方でのし上がってきたのだが、ここ二、三日あたりから少し様子が変化しつつあった。
「どういうことだ……ここのところ稼ぎが減り続けているじゃないか」
高級宿屋の一室で、今日の収入を計算していたブリングが怒りを含ませた声で呟く。同じ部屋には分散したパーティーでリーダーを務めるバランカ、ネビス、アリーの姿もあり、ブリングは三人へ減収の説明を求めた。
三人は特に悪びれる様子もなく実情について語る。
「新しく入れた戦力がことごとく足を引っ張るんだからしょうがねぇだろ」
「バランカのところもそうなの? うちもよ。ホント最悪!」
「どうやら、みんな理由は同じようね」
最後にネビスがため息を交えながら言う。
新しい戦力とは、ルーシャスが育成途中だった若い冒険者たちのことだ。彼らはまだルーシャスから冒険者としてのイロハを学んでいる最中であり、彼の得意とする育成スキルもまだ使用されていなかった。
唯一、他の新人より実力が抜きんでていたリゲルだけはブリングの命令により特別扱いを受けており、優先してスキルを使用し、さらにその力を高めていたのだ。
なので、バランカたちは「足を引っ張った」と主張しているが、そもそも新戦力はまだ成長途中であり、本来であれば実績のある先輩冒険者の三人が面倒を見ていく必要がある。
だが、三人とも他人のために力を使うことには抵抗があった。
一銭にもならない仕事はしたくない。
今までそういう役をやっていたのはルーシャスだったため、すんなりと受け入れられないというのが実情である。
だが、ブリングにとってそんなことは関係ない。
これからもっとパーティーを大きくしていき、やがては【黒猫】や【霧の旅団】といった名のある冒険者たちを凌駕する存在になろうと目論んでいる彼にとって、新戦力の成長が見込めないというのは由々しき事態であった。
「うちのパーティーに名を連ねているヤツがそんな雑魚ばかりじゃ困るな」
「無理言うなよ。ヤツらには俺たちのような才能がねぇんだ」
「そうそう。どうせなら全員クビにして新しい子を捜さない? もっと役に立ちそうなのを」
「わたくしもアリーの意見に賛成ですわね」
四人の中に「若者を育てていこう」と考えている者はいない。
役に立たなければ捨てる――変わりはいくらでもいるのだから。
今や世界的にも名の売れている【星鯨】のメンバーだからこそ言えるのだ。
「でも、こうなってくるとリゲルがいなくなったのは痛いわね」
「そうだな。ヤツは他の新入りより見込みがあったし、ブリングもそれを見抜いていたからこそ、ルーシャスへ優先的に育成するよう命じたんだろう?」
「まあな……だが、今思えばそれは失敗だった。ヤツのような即戦力は、育成するよりも早くから実戦を経験させておくべきだったんだ」
吐き捨てるように語るブリング。
――だが、まだ彼らの心には余裕があった。
今はうまくいかなくても、放っておけばそのうち事態は好転するだろう。
そういう楽観的な態度であった。
それが誤った判断であったと、彼らはのちに痛感することとなる。
◇◇◇
――一方、リゲルのルーシャス捜索は難航していた。
何せ、彼がどこを目指して進んでいったのかという手がかりさえないまま、あちらこちらの町を訪ねては聞き込みを行っていたのである。
そんな日々がしばらく続いたある日。
リゲルはついに有力な情報を手にする。
それは彼の泊まった宿屋で起きた。
「ああ、その人ならうちに泊まっていったよ」
「ほ、ほんとうですか!?」
「ああ。確か、王都にある王立魔剣学園に行くとか言っていたな」
「王立魔剣学園……師匠――いや、ルーシャスさんはなぜそこへ?」
「さあ、そこまでは知らないが……とにかく、美人さんと一緒に馬車へ乗って王都を目指したのは間違いないよ」
「……有力な情報をありがとうございます」
深々と頭を下げてお礼を言った後、宿屋を出たリゲルは手にした地図を眺めながら王都の方角へと向き直る。
「師匠……すぐに追いかけます」
ルーシャスの居所についての情報を得たリゲルは、王立魔剣学園へと進み始めたのだった。
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