第50話野蛮王女の偽悪計画6
そこで私は考えた。彼のこの発言……もしや私に取り入ろうとしているのでは、と。
そうでも無ければ初対面で私に忠誠を誓うとか有り得ない話なのだ。そこまでアミレスにカリスマがあったなら、ゲームでアミレスが簡単に殺されてたのがおかしな話になる。
だからそれは有り得ないと断言出来る。
私は言わば金の成る木、いいカモなのだ。いい感じにゴマをすっておけばおこぼれに預かれると思っているのかもしれない。
もしくは、私に忠誠を誓い、コネでそれなりにいい職につかせてくれと言う魂胆かもしれない。
…どちらにせよ、私が焦る必要は何も無いじゃない。イケメンが突然跪いてそんな事言うから過剰に反応してしまったわ。
「わざわざ私なんかに頭を下げなくてもいいよ。いくら必要があるからってそんな事しなくても、こっちで色々考えてあるから」
「…………何を言って…?」
私に取り入る演技とは言えこうして野蛮王女に跪かねばならないなんて可哀想だな…と思い、私はイリオーデの肩にポンっと手を置いて、もう片方の手で親指を立てる。
そして柔らかく微笑んでみると、イリオーデがスっと顔を上げては眉をひそめていた。
紹介も終わった事だし、タイミングもいいので、わざわざ皆さんをここに集めてもらった例の目的を今から果たす事にした。
「実はね、私──皆を雇う事にしたの! ……本当は騎士として重用したかったんだけど、騎士は騎士団登用試験を通過しないと名乗ってはいけない上、そもそも私は騎士を持つ事が許されてなくて。だからその代わりに、王女の子飼いの私兵って言う名目で皆に安定した給料と名誉を与えたいなと」
パチンッと指を鳴らし、ハイラさんが持つその旨の許可証を受け取り皆さんにお見せする。ちなみに、勿論これもケイリオルさんからもぎ取ってきたものだ。
ディオを始めとした大人の方々がギョッとしながらその許可証を見つめ、困惑したようにザワついていた。
「……ただ、今はまだ私の下にいた所でなんの名誉も得られません。私は出来損ないの野蛮王女ですし。でもいつか必ず貴方達の主として相応しい人間になるから。私を信じてくれた貴方達を裏切らないよう、努力するから」
そして私は、あの夜と同じ様に…ディオに向けて手を差し出す。この話を受けてくれるのなら、私の手を取って。
そう、口にせずともディオは理解してくれたようで…。
「…長い目で見ろって事だな」
「はい。今の私が貴方達にあげられるものは金ぐらいでそれ以外のものは今後の私の頑張り次第と言うか……」
急に自信が無くなってきて、どんどん声が消え入りそうになる。
こうは言ったものの、私には最早頑張る事しか選択肢が無い。何がなんでも彼等に地位と名誉をあげる、これは決定事項なのだ。
だがそれでも未来に対して漠然な不安が残るのも事実。本当にやれるのか…そう怖気付いてしまう。
しかしそんな不安を消し飛ばすように、ディオが歯を見せて笑う。
「じゃあ問題ねぇな。お前等もいいな?」
ディオがそう聞くと、皆さんは息ぴったりに首を縦に振った。メアリードもルーシアンも、躊躇いながら小さく頷いていた。
そしてディオは、力強く私の手を握ってきた。
「お前の手を取った事、絶対に後悔させねぇんだろ? 期待してるぜ、王女殿下」
「──っ! えぇ、勿論よ」
私達は固い握手を交わした。
これにより、私はついに人の上に立ち人を守らねばならない立場となった。もう、私の命は…私と言う存在は私一人だけのものでは無くなった。
より一層死ねなくなった。勿論死ぬつもりも殺されるつもりも全く無いけれど、絶対に死ねなくなったのだ。
私が死ねば彼等の生活も立ち行かなくなる。それではいけない。だからこそ…生き抜いて、彼等に私の手を取ってくれた恩を返していかねば。
私はまた強く決意する。
「……少しだけ口を挟んでも良いだろうか、アミレス」
すると突然、成り行きを見守っていたマクベスタがそう口を開いた。
どうしたのと聞き返すと、マクベスタはディオ達を見ながら言う。
「念の為に彼等の実力を試してみてはどうだ。私兵なのだから、それなりに戦えなくてはならんだろう? ある意味試験のようなものだ。そして、もし良ければその相手はオレにやらせて欲しい」
マクベスタが瞳に闘志を燃やして提案してくる。腰に佩いた愛剣の柄に手をかけて、真剣な面持ちを作っていた。
「それには俺も賛成だ。俺達の実力を知っといてもらった方がいい」
マクベスタの提案を簡単に受け入れたディオは、私達をすぐ近くにある空き地に連れて行った。なんでも、ディオ達は鍛錬の際はここに来ているのだとか。
空き地は普通の一軒家が二〜三軒ほど建てられそうなぐらい広く、地面には土と雑草と小石だけがあった。
ここで腕試しを行うのだが………じゃあ誰から行く? とディオ達が話し始めた辺りで、マクベスタが真顔でとんでもない事を言い出したのだ。
「全員で同時にかかってくればいい。お前達は個々で戦うより集団で戦う戦法の方が慣れていそうだからな」
その場にいた全員が耳を疑った事だろう。驚愕で勢い良くマクベスタへと顔を向けた者も何人かいた。
相手は十一人もいるのに、それを一度に相手するなどと宣うのだ。これには驚きのあまり顎が外れそうになっていた。
シュヴァルツなんかは楽しそうに腹を抱えて笑っていたけども。
「へぇ、本当にいいのかよ王子様。十一対一で」
「ああ。今回は実力を測るだけだからな」
不敵に笑うディオに対し、マクベスタはとても冷静な面持ちとなっていた。
なんとかマクベスタに一泡吹かせてやりたいと、ディオ達の顔つきが本気のものへと変わる。…まぁ、アレではコケにされたようなものだし。
対するマクベスタは愛剣を鞘から抜き──何故かその剣を私に渡して来た。
「…この試験の間、預かっていて欲しい」
「鞘で戦うつもり?」
「剣だと大怪我させてしまうかもしれないからな」
「……貴方も怪我しないように気をつけなさいよ?」
そう伝えると、マクベスタは「あぁ」と小さく微笑んでディオ達の元へと向かった。
ディオ達は皆大人だけど、マクベスタはまだまだ十四歳の子供だ。本当に大丈夫なのだろうか…と心配が腹の底から込み上げる。
この心配が杞憂で終わる事を祈りながら、私は剣術仲間のマクベスタの背中を眺めていた。
そして……真剣な面持ちでマクベスタとディオ達が対峙したので、ごほんっと咳払いをしてから、私は戦闘開始を高らかに宣言した。
「試験開始っ!」
その合図と共に、ジェジとエリニティとクラリスとバドールがマクベスタ目掛けて地面を蹴り疾走する。
「風よ、彼の者達の足となれ──」
その後ろからユーキが風の魔法で四人を支援する。
ユーキの魔法により四人の動きが格段に良くなった。風で四人の体を軽くしたという事か? いや全く意味がわからん、何なんだあの魔法の使い方は、新し過ぎるだろ。
「大地に呑まれてしまえ!」
「大地に囚われてしまえ!」
そこでルーシアンが土属性と思しき魔法を発動し、それによりマクベスタの地面が泥沼のように変化しては彼の足を搦めとる。
その隙にルーシアンの横で同じく土属性と思しき魔法を発動させたメアリードが、その泥沼を一気に乾いた土へと変え、マクベスタの動きを封じた。
おお…と私は感嘆の息を漏らす。まさに完璧な連携。これらを独学でこなしているのであれば本当に天才としか言いようがない。
それぐらい完成度の高い連携だったのだ。
しかしこれで終わりではない。そこに更なる追撃があった。
ラークとシャルが弓を構え、石矢を射る。片やその矢尻が燃え盛り、片やその矢尻が何かによって溶かされ始めたのだ。
…ラークが射った矢が燃えた事から、ラークの魔力は恐らく火の魔力だ。そして…シャルのあれは何だ? 思いつくものとしては毒の魔力だが……魔力の幅が広いな、この集団。
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