【世界異次元旅行記】ミスターロコモーティヴと不死の棺

プロローグ『眠れぬ魂』

　エジプトに生まれたからには、一度はメンフィスに出向くべきだ。が、たとえ生きて辿（たど）り着けなかったとて、決して焦る必要は無い。

　あなたを愛する子供たちは、きっと あなたの亡骸（なきがら）と共に、そこを訪れてくれることだろう。

　そうして、あなたは心安らか。

　ラーの見下ろす空の下（もと）、オシリス見守るこの土地の、死後の世界で目を覚ます。

　しかし、どうやら可笑（おか）しいのは、目覚めたばかりのこのオトコ。

「ここは、死後の世界だろうか？ 」

「いいや、違う。何故かって」

「ワタシの娘は死んでいない」

「ワタシの息子は死んでいない」

「それに、先立つ妻（つま）がいない」

　頭を抱えた そのオトコ。ジブンの“場所”へと這（は）い戻り、ふと、真実に気がついた。

『ワタシは、月に、帰りたい』

　天を仰いだ そのオトコ。地下に掘られた“墓”の中、奇跡が来るのを待っている。