ジャン視点 侵入者
「料理長!何をなさるんですか!? やめてくガッ」
「お前なんてしらねぇよ」
全く、舐められたもんだ。今日急に料理場に入って来やがって。雑すぎるだろ。料理長と呼べば仲間かどうかわからないと思ったのか?
呆れたもんだ。せめて数日前から準備をしておくもんだろう。無計画にも程がある。
「料理長、こちらも終わりました。侍女にも数人紛れ込んでいたそうですが、彼女が一人で全員を捉えていました」
そう言って、連れてきた侍女を見て驚く。昨日、お嬢とローレンが話していたドーラという赤髪の侍女だったからだ。てっきり連れ込んだのが、こいつだと思っていたのだが…それとも、こいつらを差し出して、自分を味方だと思わせるつもりか?
警戒して彼女を見ていると、向こうもこちらが見ていることに気づく。
やっぱり只者じゃねぇな。少なくとも一通りの武術は学んでやがる。隙がねぇ。
「敵ではありません…と言いたい所ですが証拠がないのですよね…」
困りましたという彼女からは本当に敵意を感じない。
「何者だ?」
「王城で侍女としてあるいは影として働いているものです。今は主人より、アリシア様を護衛するよう命を受けていましたが、今日は非番ですので…アリシア様が守りたいものを守るお手伝いをしようかと」
主人…か。王族に目をつけられているのはお嬢らしいが…
「気を付けろよ。お嬢は自分のことなんて気にしてねぇぞ」
「…ええ、わかっています。昨日のことは驚きました。あなたが動かなければ、もう少しで騎士の誰かが手を出していたでしょうし…いつ動くかヒヤヒヤしました」
「よく言う。騎士の誰が動いても、あんたぐらい強ければ気にもならないだろう」
「一人ならそうかもしれませんが、守りながらだと厳しいものがあるんですよ。ですが、あの方は何者なんでしょうね。的確に私を疑っていましたし、敵意をあの小さな子供に集めるのも相当ストレスがたまると思うのですが…」
そう言いながら、彼女が捉えていた奴の一人が抜け出すが、彼女にすぐに捕まる。
「お嬢は自分の居場所がここにはねぇと思ってやがる。お嬢のことをわかってやれているのは、ほんの数人だけだ」
「まあ、あの父親と母親ですからね…その娘ともなると偏見もされるのでしょう」
偏見か。確かにそれもあるが…
「それだけじゃねぇよ。お嬢は的確に使用人たちを煽って、昨日のように味方を見極めてきたんだ。だからこそ、お嬢もお嬢様の敵だと思われてやがる」
「あなたの敬称の違いもですか?正直、私にはアリシア様の方に信頼を寄せているように見えるのですが…」
「そう…かもしれねぇな。だが、お嬢は守る対象じゃねぇ。一緒に守る仲間だからな。敬称はつけてねぇ」
敬称を付けちまうと、あの小さい女の子を一人にしちまうんじゃねぇかと思った。勘だが、間違ってもねぇと思ってる。
「あんたの主人に言付けを頼んでいいか?」
「…ええ、なんでしょうか」
「お嬢を死なせたら、俺が攻め込んでやるって伝えてくれるか?」
「ふふっ、それは困りますね。あなたが本気になって攻め込んできたら少し骨が折れそうです。必ず主人に伝えておきましょう」
お嬢のことはこいつらに任せておけばいいだろう。
「ああ、頼んだ」
なんだか周りが騒がしくなる。侵入者を全員捕まえたか?
「おいっ、誰か止めてこいよ。あいつ、死んじまうぞ」
「嫌だよ!あの二人、ずっと殴りながら話し合ってるんだぞ!巻き込まれたらどうするんだ!」
あっ、やりすぎちまった。
死んでねぇよな。
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