お姉様の秘密
扉が叩かれ、思わず困惑してしまう。両親たちではない。あの人たちならノックよりも先に私の名前を呼ぶはずだから。
「…誰?」
「…シェリア・アースベルト」
聞き覚えがなく、家名がある人物はこの家には一人しかいない。
「お姉様!?」
「お姉様?」
「あ、ごめんなさい。お名前が分からなくて。あっ、とりあえず中に入ってください」
慌てて扉を開けると本当にお姉様がいた。誰も見ていないことを確認して、急いで部屋に招き入れる。
「それでシェリア様。どのようなご用件でしょうか?」
予想できていなかった事態に頭が混乱してしまい、変なことを聞いてしまった。どんなご用件って、この家のことに決まっているじゃない。私のばか!
「少しお話ししたいことがあって、信じて貰えるかは分からないんだけど…」
「はい…」
「私、前世の記憶を持っているの」
「はい…はい?前世?ですか?」
「そうなの!私はこの世界のことを小説で知っていたの!」
「しょう…せつ…ですか?」
「ああー、この世界で言うなら、架空の物語が書かれた本のことよ」
お姉様…違った、シェリア様はこの状況に耐えかねておかしくなられてしまったのでしょうか?どうしよう。私のせい…だよね。どうすれば…
「それでね、こうなることもわかってたんだ。あの父親がお母様を裏切って、浮気をしていたことも、アリシアという私の一つ下の娘がいることも…」
「……」
顔が青ざめるのがわかります。父がシェリア様に私の名前や歳をいうわけがありません。ならば本当にシェリア様は知っているということでしょうか?
「…シェリア様は今、おいくつなのですか?」
「十歳よ。驚いた?言おうか迷っていたんだけど、あなたが小説通りの行動をするから話しておこうと思って」
「な、何をですか?」
「この小説のヒロインはね…あなたなのよ、アリシア。朱色の髪で、目が透き通った空色のあなたがヒロイン。そして、私が悪役令嬢」
「ヒロ…イン……悪役…令嬢…」
「そう。あなたは可憐な女の子、そして私はあなたをいじめる悪女」
「そんな!悪いのは全部父の方で、シェリア様は何も…」
「そう。私は被害者だけど、それに耐えられなくなってあなたをいじめた。そう思われた。この世界の全員に…けどね、違ったの」
「ちがった?」
「ええ、シェリア・アースベルトはいじめなんてしていなかった。全部アリシアが嘘を言いふらしていただけだった。それを全員が信じた」
「それ…は」
「だからね、私はあなたをいじめないことにしたの」
「……は?」
「だからね、私がこれから何も起こらないようにするために、あなたをいじめないことにしたの」
待って、待って、情報の処理が追いつかない。えっ、小説の中では、シェリア様はいじめてなかったのよね。全部私の嘘だったんだから。なら、小説もシェリア様はいじめてないってことよね?
「…シェリア様、その…小説でもシェリア様はいじめてはいなかったのではないでしょうか?それなら、シェリア様が今言ったことは小説と同じになるのでは…」
「……」
「も、もちろん、私は嘘をついてシェリア様に罪を着せようとは考えていませんよ!それだけは信じてください!」
そう言っても信じてもらえないだろう。結局同じ状況になっているのであれば、前世というもので見た物語が正しかった証明でもあるでしょうし…
それに、物語の私はなんてことをしているのでしょうか。シェリア様を嘘を言ってまで咎めるだなんて。シェリア様から散々奪っているくせに、それ以上に何を奪うというのだろうか?
いいえ、あの悪魔たちの子供です。「今までいい暮らしをしてきたんですから、私に全部ください」とか言ってそうですね。頭が痛くなる。
それにしても、シェリア様が何も言わないのが怖い。結局同じ運命になるのなら私を殺すのでしょうか?
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