第43話:本会議2
城内の会議室に有力な貴族たちが集まると、静かに本会議が始まった。
「まずは俺の口から父上の容態について話そう」
レオン殿下が国王代理という立場なので、グレースが婚約者であったとしても、隣に座ることは許されない。二人とも離れて座っている姿を見て、少しホッとしている。
真剣な表情で話すレオン殿下が、王子らしく堂々と振る舞っているから。
どうやら今日は媚薬を盛られていないみたいね。グレースを負かすなら今がチャンス……と言いたいところだけれど、厄介なことになったわ。
宿敵ともいえるウォルトン家の当主、バルデス・ウォルトンが参加しているんだもの。
お父様でも手を焼く相手に挑まなければならないなんて、気が重いわ。私にはまだ早い相手だし、ロジリーが追い詰めてくれるといいのだけれど。
嵐の前の静けさと言わんばかりに、本会議は流れるように進んでいった。
国王様の容態、国民への情報開示、レオン殿下の即位……。どうしても必要なことではあるので、大多数の貴族が無言で頷き、次々に国の方針が決められていく。
いくら王国とはいえ、王族がすべて独断で決められるものではない。各貴族の意見を聞き取り、民意を大切にしないと国は荒れるから。
特に、隣国が驚異と呼ばれるうちは、丁寧に反乱の芽を摘み取る必要があった。確実にウォルトン家が悪だと判明していても、証拠がなければ反乱が起こりかねない。この王国はいま、とても不安定な状態にあった。
そして、すくすくと育ち続けた反乱の芽を叩き潰すかのように、一つの嵐がやって来る。
王家の家臣を代表して、ロジリーが立ち上がったのだ。
「グレース公爵令嬢は、婚約者に相応しくありません。王妃不適合としか言いようがなく、多くの貴族たちが反対しております」
すでに王妃反対の署名が提出されているが、まだ過半数は取れていない。この場で中立派の貴族たちを味方に引き入れ、大勢の人を納得させる必要がある。
反対に票を投じれば、ウォルトン家と敵対する意思表示になるため、かなりハードルが高い。しかし、この日のためにロジリーたちは準備を続けてきた。
「たった一ヶ月の付き合いしかありませんが、これほど問題が山積みな貴族令嬢は初めてです。ウォルトン家で礼儀作法を教えているのか疑問に思うほどでした」
ロジリーは軽くウォルトン家を挑発するが、イラッとするのはグレースだけで、当主バルデスは表情一つ変えていない。
その余裕の表情を浮かべる仮面の下では、いったい何を考えているのだろうか。
今となっては、レオン殿下の誕生日パーティーが吉にも凶にもなったように感じる。王妃の器ではないグレースを証明する形にはなったが、ウォルトン家を陥れたことで、本会議にバルデスを引っ張り出してしまった印象があった。
ウォルトン領の仕事を放り出し、一ヶ月近くも王都に滞在しているのだから。
下手に反抗していなかったら、私ももっと甘く見られていただろう。本会議が始まってから、バルデスの視線をチラチラと感じるので、様子を見られている気がする。
まずはグレースを黙らせないと、バルデスも出てこないと思うが。
「はーい。王城の教育は厳しすぎると思いまーす。いくら王妃教育とはいえ、限度がありまーす」
とても緩い感じで主張するグレースは、ロジリーに怖気づくことはなかった。ナタリーの厳しい王妃教育を受けて、怒られ慣れてしまったのかもしれない。
「王妃教育を短期間で終わらせなければならないのなら、厳しくせざるを得ません。考えが甘すぎるのではないでしょうか」
「じゃあ、うちのメイドが失踪したことについてはどう思うんですかー? 王城のメイド業が厳しすぎた影響で、優秀な人材が潰れちゃったんですけどー」
使い捨てようとしていたくせに、いったいどの口が言うのだろうか。王妃教育が厳しいことは貴族たちの常識でもあるので、明らかに話をすり替えようとしている。
王城でイジメられている悲劇のヒロインだと思わせれば、もっと我が儘を言える立場になるため、グレースは責任を押し付けたいのだ。
「メイドには平等に接していますし、国を支える城内の仕事が厳しいなど、当然のことです。王妃教育も同じであり、横暴な態度を取るグレース公爵令嬢は、王妃の器ではありません」
きっちりとロジリーに意図を読まれ、適切な形で反撃されたグレースは、ぐうの音も出ないほど沈黙した。
国王と共に国の顔になる存在が王妃なのだから、妥協など許されるはずがない。
失速したグレースをたたみかけるように、ロジリーの毒舌が火を噴き始める。
貴族としての振る舞いができていなかったり、メイドに横柄な態度を取っていたり、自己主張が激し過ぎたり。実際にあった出来事と一緒にグレースの実態が紹介され、本会議は異様な雰囲気になり始めていた。
正当な理由で王妃不適合の烙印を押され、レオン殿下の婚約者に相応しくないと証明されたのだ。それも、たった一か月で。
三大貴族にもかかわらず、そんな甘い教育をしてきたとなれば、ウォルトン家の看板に傷がつく。さすがに中立派も傍観できない状況に刻一刻と近づいていくが、そんなに甘い家系ではない。
そんなことを考えいているのも束の間、ウォルトン家の当主バルデスが、満を持して重い口を開き始める。
「王家の信頼を得ている貴族たちが反論したくなる気持ちは理解できる。だが、ワシには初めからグレースが拒まれていたとしか思えない」
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