第25話:シャルロットとレオン殿下4
レオン殿下の手紙を読んだ私は、放心状態に陥っていた。
流れ落ちる涙から手紙を守ろうとして、体から離すことしかできない。読み間違えたのではないかと考えてしまうが、もう一度確認するのが怖かった。
どんな事情があったとしても、国を治める王を長期間不在にしてはならない。このままいけば、間違いなくレオン殿下が即位するだろう。
でも、その隣にいる権利は……グレースしか持っていない。レオン殿下が体を許した以上、法で王妃に認められる人物は、グレースだけなのだ。
婚約破棄騒動を解決すれば、また婚約者に戻れると思ってた。王妃の座に興味はないけれど、彼の横で一緒の景色を眺めたいと思い、今日まで頑張ってきた。
それなのに、あんまりよ。結局、グレースの手の上で踊らされていただけじゃない。
「髪まで切って、メイドの仕事までして、グレースを出し抜いて……。私、何やってるんだろう」
自分で感情をコントロールできず、とめどなく涙が溢れてくる。貴族の恋愛は愛を選べないと頭ではわかっていても、一度でも幸せを手に入れた心が受け入れてくれそうにはなかった。
これからどうしようか……とぼんやり考えていると、同室で暮らすソフィアが部屋に入ってくる。
私を見た瞬間、ソフィアが驚愕の表情を浮かべるのも無理はない。親友の彼女にさえ、涙を見せるのは初めてだった。
どんな顔をしていいのかわからないし、なんて話せばいいかわからないので、ひとまずレオン殿下の手紙を差し出す。
「……読んでもいいの?」
「……内緒ね」
国家機密レベルの内容が含まれているため、ソフィアには見せない方がいい。でも、親友にしか打ち明けられないこともあるし、彼女は言いふらすような人ではない。
何より、泣いている自分を誤魔化す方法がわからなかった。何もなかったと言えるほど、私は強くないから。
手紙を読み終えたソフィアが近づいてくると、私の背中をさすり始める。
「変な共通点ができちゃったね。婚約者が浮気して、一夜を過ごしちゃうなんてさ」
数奇な運命とはこの事だろうか。同じような経験をしたソフィアが親友であり、数年前は私が慰める側だった。
「実感が湧かないわ。酷く悲しいことしかわからないの」
「ボクもそうだったよ。いきなり婚約者が謝罪を始めて、平穏が崩れ落ちたから。相手側の反省と後悔が伝わると、気持ちの整理がつきにくくなるよね」
「突き放された方がマシね。どうせならグレースと幸せそうな顔をして、くっついてくれたらよかったのに」
「よく言うよ。そんなことされたら怒るくせに。人のことを言えないくらいに、シャルロットが嫉妬深いことをボクは知ってるからね」
部屋でシャルロットと呼ばないで、と一瞬思ったが、知らないうちに私は素になっていた。
用心するに越したことはないけれど、さすがに気持ちが持たない。今日だけは甘えさせてもらおう。
「私は嫉妬しても、顔にも態度にも出さないもの」
「婚約者を奪い返すために、メイドに変装して乗り込んできた人とは思えない発言だね。まあ、シャルロットの場合は特殊なケースであって、何とも言えないところではあるかな。脅迫された上での出来事だもん」
ソフィアの言う通り、レオン殿下に悪気があったとは思えない。国王様という人質がいて、媚薬が盛られたとなれば、強く責めることはできなかった。
あとは私の気持ちと、王族に適用される法律の問題になる。
媚薬の効果で体を許しても、王妃として認められるのだろうか。お腹に子を宿していたら、取り返しがつかないとは思う。
媚薬を盛られていたのなら、私を求めてくれたらよかったのに。いっそのこと、今からでも子供を作ってしまえば……などと考えてしまうあたり、とても短絡的な思考に陥っていることに気づかされる。
「男って馬鹿だよね。婚約者に手を出さないくせに、他の女に手を出すんだもん。貴族として褒められた行為ではないにしても、普通は婚約者に手を出すでしょ」
貴族の在り方として、結婚する前に子を授かることを推奨していない。領民や周囲の人々に祝福された幸せの証として、子供を授かることが一般的になっている。
それゆえ、貴族のトップである王族は、体を許すのは婚約者のみと決められていた。
「ソフィも私も、色気がなかったのかな」
「一緒にしないでよ。ボクは色気がある方だよ」
「説得力がないわ。結局、ソフィの婚約者だったルイスが手を出したのは……やめましょう。寂しくなるわ」
「それもそうだね。ボクは三年も前の話だけど、まだ根に持ってるもん」
ずっと嫉妬していたくらいだから、言わなくてもわかるわ。でも、結局すれ違っていただけで、ルイスとソフィアは両想いだった。
私とレオン殿下はどうなんだろうか? 相思相愛……じゃなかったのかな。
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