第22話:シャルロットとレオン殿下1
レオン殿下の誕生日から一夜明けると、私は何事もなかったかのようにメイド生活に戻り、グレースの部屋を掃除していた。
急遽、ウォルトン家のメイドが二人行方不明になったので、模様替えを担当した私とソフィアが掃除することになったのだ。
ローズレイ家を押さえ込んでいると慢心していたウォルトン家は、まさか自分のメイドが裏切るとは思っていなかったんだろう。夜間に私兵を動かしてまで、失踪したメイドを探していたと聞いている。
そんなことをするのは想定範囲内だったので、誕生日パーティーが始まる前に身柄を確保した私は、すでに別の街へ避難させた。
この一週間で何があったのかわからないが、冷静に物事を見始めた彼女たちは、ウォルトン家での待遇に多くの不満を持っている。何でも話すくらいには協力的だったので、貴重な情報源になってくれることだろう。
身の安全は約束しているし、ローズレイ家としても丁重に扱う予定だ。これでウォルトン家の黒い噂が証明されれば、最高の形になるのだが、そこはお父様に任せるしかない。
ひとまず、ウォルトン家に大きなダメージを与えられただけでも良しとしよう。まだまだ追加ダメージがあるみたいだし。
「グレース様は、王妃というものを勘違いされているようですね」
仏の教育者ナタリーによって、グレースは朝からコッテリと絞られている。昨日のレオン殿下の誕生日パーティーの振る舞いが、完全にマイナス評価だから。
王妃教育を受け始めた人間が、次期国王よりも目立つ服装を着るなど、前代未聞の珍事だった。
どんな状況であったとしても、レオン殿下より前に出てはならない。お淑やかにさりげなくフォローして、男性を立てなければならないのだ。
「誕生日パーティーの主役を追いやるとは、どういうつもりですか?」
「だ、だって、あれはシャルロットが……」
「言い訳は不要。シャルロット様は場をわきまえ、落ち着いた服装で参加されておりました。ド派手なウエディングドレスを着たグレース様が突っかからなければ、何も問題は起きなかったのでは?」
「……ごめんなたい」
ナタリーはロジリーより優しいとはいえ、怒るときの鋭い目付きはそっくりだ。
さすがに可愛い子ぶって乗り越えられるような相手ではない。
思いっきり懲らしめてあげて、と横目で見守っていると、なぜかナタリーがこっちに視線を送ってくる。
「まあ、シャルロット様にも問題があるようには思いましたが」
当然のように私の存在に気づいているのね。でもお願い、ナタリー。ロジリーのような鋭い眼差しでこっちを見ないで。今は次期王妃から外れたのだし、大目に見てほしいわ。
ただ、それを好機と思ったグレースが目を輝かせるのは、本当に愚かな行為だと思う。
「やっぱりそうでしょ!? すべてはシャルロットが悪いのよ」
「私もようやくわかりました」
「わかってくれたのね。あの堅物クソ女のせいで、どれだけの私が嫌な思いをしてきたことか。本当にネチネチとうるさい女だわ」
「あなたはシャルロット様の百倍は手間のかかるクソガキですね。まずは性根を叩き直しましょう」
「……ん?」
この二人、微妙に会話が成立していない。キョトンとした表情で目をパチパチとさせるグレースを見たら、そのことがよくわかる。
私よりも遥かにネチネチとした女性がナタリーなのだ。仏の顔も三度まで、ということわざもあるように、我慢には限界がある。
「徹底的に厳しい王妃教育でなければ、何も変わることはないでしょう。甘やかしていた私にも非がありますが、今後は心を鬼にして接することにします。いいですね?」
「あの、今までも十分厳しかったような……」
「返事の仕方もわからないのですか? はい、と言いなさい」
「……ひゃい」
聖女として甘やかされたツケが来たグレースは、仏のナタリーの逆鱗に触れてしまったようだ。
王城でグレースの肩身が狭くなるのは良い傾向なので、私はナタリーを応援することにした。
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