第14話:ウォルトン家のメイド6
「どうしてボクがそんなことしないといけないのさ」
王城に帰ってきた私は、見晴らしの良い洗い場でソフィアを説得していた。
ウォルトン家のメイドを釣るために、どうしても協力してほしいことがあるのだ。
「お願いよ。ソフィにしか頼めないの」
「ダメ。ルイスにナンパさせるなんて、絶対にダメだから」
ソフィアの元婚約者であるルイスの力を借りて、ウォルトン家のメイドを釣る作戦がベストだと考えた。
私がシャルロットとして表に出れば、ウォルトン家の警戒も強くなるだろうし、人前で彼女たちと話すわけにはいかない。メイドのシャルのままで話しても、疑われるだけで信用してもらえないだろう。
そのため、まずはローズレイ家の屋敷に引きずり込まなければ、話が進まなかった。大きな問題にはしたくないし、色男の力で誘惑してほしいのだ。
「天然の女たらしであるルイスがベストな人材なのよ。失敗は許されないし、確実な方法で実行したいの」
そして、未練タラタラのルイスに直接頼めば、断られることくらいは容易に想像がつく。だから、ソフィア経由で頼むしかなかった。
「絶対にダメ。ただでさえルイスは女の噂が多いのに、また変な噂が流れちゃうじゃん」
しかし、同じく未練タラタラのソフィアに拒まれている。
二人とも互いのことを思い合っているのは間違いない。でも、どうしても浮気のことが頭をよぎるみたいで、関係が修復できないでいた。
「浮気したルイスを許せとは言わないわ。でも、どうしようもないくらいに好きなら、折れることも必要よ」
「別に。もう好きじゃないもん」
「よく言うわね。ルイスが女性と少し話しただけで嫉妬するし、縁談の話を断ってるじゃないの」
自分でも頭を抱えている内容だったのか、ソフィアはギクッと反応して、罰が悪そうな顔していた。
「ど、どうしてその話を知ってるの?」
「先月、ソフィのお父様から相談されてるのよ。娘が婚約を了承しない理由を探ってくれってね」
一度婚約破棄した経験があるとはいえ、ソフィアは王城で働き続けるメイドであり、王家と所縁のある家系だ。礼儀正しく、愛想もよく、家柄も良いとなれば、婚約していないのが不思議なほど、有望株になる。
それなのに、かなり良い縁談の話が来ても、ソフィアは断っていた。
このまま断り続ければ嫁ぐ先がなくなるため、早めに身を固めるべきだろう。縁談の話を選べるうちに婚約相手を決めないと、大変な目に遭いかねない。ソフィアのお父様も無理に進めたくはないだけに、色々と心配している。
そして、それは正しい判断だ。変な男に嫁ぐことになれば、ろくな目に遭わないし、悪事に加担する恐れが出てくる。
もしものことがあれば、ローズレイ家の人間として、親友を断罪するかもしれない。表には出さないが、ソフィアのお父様は私のことも気にかけて、相談を持ち掛けてくれていた。
「一応、婚約破棄の傷が癒えないから、無闇に進めない方がいいとは言っておいたわ。でも、時間は限られてる。真面目な話、ルイスと婚約したいのなら、あまり意固地になるべきではないわよ」
「……仕方ないじゃん。やっぱり他の女に色目を使ってたと思うと、心が落ち着かないんだもん」
どうりでお願いを聞いてくれないわけね。一度浮気されたことがトラウマになり、浮気の境界線が厳しくなっているんだわ。
「重症ね。以前より関りが持てなくなって、嫉妬心だけが強くなっているような気がするわ。少しずつでいいから普通に話しかけて、日常に戻る努力をするべきよ」
「未練がましい女とか、都合のいい女とか思われないかな」
「ルイスの周りにいる人たちは、そう思うかもしれないわ。でも、彼はそういう人じゃない。もう少し信用してあげたらどう? このまま過ごして後悔するのは、間違いなくソフィよ」
「それくらいわかってるけど、浮気の話をされた時に突っぱねたこともあって、今更素直になれないというか……。間に入ってくれる気はない?」
「交換条件を出すようで悪いけれど、今の私はシャルよ。シャルロットでない限り、二人の仲を取り持つことは困難だわ。だから、先に協力してほしいの」
今までだって、何度かこういう話をしたことはある。しかし、ルイスの話を聞こうとしないソフィアはいつも……、
「いや、でもね……」
と、話を濁すのだ。
傷つきたくない気持ちはわかる。私も、またルイスが浮気したら……と考えると、強く背中は押せなかったから。
復縁を勧めた私まで影響が出てくると考えたら、さすがに一歩引いてしまう。ソフィアとの関係が悪化するのが怖くて、踏み込むことができなかったのだ。でも、今は違う。
二人とも未練タラタラだと発覚した以上、もう一度浮気される心配はないだろう。ハッキリ言って、二人とも早く仲直りしなさい、という状況だった。
運がいいのか悪いのかわからないが、洗い場に騎士たちが現れた姿を見て、私はシャルに戻る。
「色んな意味で私には時間がありません。これがラストチャンスです。自分でどうにかするつもりなら、適当に誤魔化してください」
ソフィアに一言伝えた私は、シャルロットでは決して見せないニコやかな笑みを浮かべて、騎士たちに向かって手を挙げた。
「ルイス様ー! 話したいことがあるとソフィアさんが呼んでいますよ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと、シャルロ……シャ、シャルさん? シャルさん!?」
挙動不審になるソフィアだが、彼女はとても押しに弱いことを知っている。二人が両想いとわかった時点で、いつ突き出そうか考えていたところだ。
一方、ルイスと共に歩いていた騎士たちも気遣ってくれて、彼の背中を押してくれていた。
「行ってこいよ。元婚約者なんだろ」
「いい加減に男らしくぶつかれ」
「本命だけ奥手ってどういう神経をしてるんだ?」
彼が本当に浮気を後悔しているとわかっているから、騎士の仲間たちも協力しようとしているのだろう。
今回に関していえば、一番助けられるのは私なのだけれど。
良い年した騎士とメイドがぎこちなく近づいていくと、意を決したソフィアが顔を赤く染め、上目遣いになった。
「ボ、ボクの友達が困ってるの。少しだけ助けてあげてほしいなって思って」
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