第2話
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「ほんと、美味しいココの定食」
食べながら、漫勉の笑みになるひとみ。
「うん、美味い焼きそばの焼き具合と、特にこのソース...有り得ないほど美味い」
「でしょ? コレからハマるわよ~...」
「「ハマるぅ~...」」
さらに ひとみが。
「もうハマりました、雅先輩」
食べてる最中に、雅が話かけてくる。
「ありがとう、でも、お好み焼きも美味しいんだよ、ウチは」
「あ!じゃあ、テイクアウトできます?お好み焼き」
「出来るわよ」
「じゃあ、この(メニュー一覧を見ながら) “はまスぺ” を一つお持ち帰りでお願いします」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、雅はカウンターの奥に消えていった。
3人がそれぞれ食べ終わる頃、由 のスマホが鳴った。
「ちょっといい?」
二人が頷くと、由 が席を立ちながら、画面をタップした。
智也がひとみと はまちゃん のメニューを見て、あ~だこ~だと、次に来た時のメニューを相談していると、由 が電話が終わったのか、戻って来た。
「ごめんね~、長電話で」
「いいよ別に....、しかし、ココ美味しい。だから近いうちに、また俺たち来ようって二人で相談していたところなんだ」
「仲いいんだね」
「ケンカ 殆どしないな~俺たち」
「ホントしないね~、お兄ちゃん」
智也とひとみが見つめ合って言った。
そこへ雅が話に入って来る。
「きっとお父さんとお母さんが仲がいいからよ」
「「いいです!」」
兄妹で即答した。
「あら、揃ったわね。うふふ...でも、コレだけ兄妹仲がいいと、智也くんの彼女が焼きもち焼いてない?」
この反応に 由が智也の顔を真剣に見た。
そして、智也の口から出た言葉は....。
「あはは、今は全くの フリーもフリーの、どフリーです」
この返事に 由 が安堵した気がした。
「智也くん、結構イケてるのにな~...」
「ありがとうございます先輩!」
「でも、私の彼よりは、劣るかな~...ゴメンね」
「先輩、惚気ださないでください、止まらないから」
雅と智也の会話に割って入る 由。
「う...」
「それと、さっきの電話で、友達と待ち合わせしたんで、私そろそろ行きますね」
「あら、そう? また来てよね」
「はい」
「じゃあ俺たちも帰るか?」
「うん」
「それじゃあ、これ “はまスぺ” ね、ありがとうございました」
「はい、とっても美味しかったんで、また来ますね」
「はい。待ってるからね」
その後、おのおの清算を済まし、家路についた。
◇
夕方、家に帰った伊藤兄妹。特に兄の智也は今日一日で、綺麗なお姉さん二人と知り合いになって、なぜか、浮かれる 智也だった。
「あら?、どうかしたの?」
と、聞いてくるのは母親の 伊藤 結子(いとう ゆうこ)だ。
「なに?」
「顔がニヤけてるわよ?」
「え?....、そう?」
「とっても....」
などと、母親と話していると、玄関から。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい たけちゃん。今日は少し早いのね」
帰って来たのは、伊藤家の主(あるじ)の 伊藤 武(いとう たけし)だ。
「何かあったのか? ゆうちゃん」
この夫婦はお互いを ゆうちゃん たけちゃんと呼ぶ、 オシドリ夫婦だ。とにかく仲が良い。 今だにラブラブで、子供たちが目の前に居ようと、平気でイチャイチャする。
「なにか、智也が浮かれているみたいで、ニヤけているの」
「何か良い事でもあったのか?」
夫婦の会話に智也が割って入る。
「父さん、お帰り。 はは....何でもないから、大丈夫だよ」
「そ、そうか? 何かあったら、私達に相談しなさい」
「分かった。ありがとう父さん」
会話が終わったとみて、結子から声が掛かる。
「さあさあ夕ご飯出来てるわよみんな、席についてちょうだい」
父親の 武も着替えて、みんな席に着いた。
「「「「いただきます」」」」
楽しい夕食が始まった。
いつもの事だが、親同士では あ~~ん を子供たちの目の前でやっている。本当に仲の良い夫婦である。それを見ている子供たちも、兄妹で あ~ん をしているものだから、この家族は平和である。
△
晩御飯が済んで、少し経ってから風呂に行こうと、智也は今日起きた出来事を色々と思い起こしていた。
体を洗ってから湯船に浸かっていると。
「お兄ちゃん、いい?」
と聞いてくる、いつものひとみの掛け声だ。
「ああ、洗い終わったぞ」
と答えると。
「じゃあ」
と言って、一糸も纏わないまま、妹の ひとみが入って来た。
「今日は色んな事があったね」
なんて言いながら、かけ湯をして、体を洗い始めた。何のことは無い、この兄妹の小さい頃からの習慣なので、兄妹何も恥ずかしがる事は全く無い。
「しかし、あの食堂の先輩。カワイキレイだったな~」
「あはは、惚れちゃったの? でも、ダメって言ってたね、ラブラブ彼氏さんが居るからって由ちゃんが言ってたから」
「いや、そう言う意味では無くて、なんかエライ美人に出くわしたな~って」
ひとみが体を洗い終わって、今度は髪を洗い出した。
「美人って、雅さんもそうだけど、由さんだって相当の美人だと思うけど?」
「そうだな、確かに 由も美人だけど、何より、二人の飾りっ気が無く、気さくな所が、いいかな」
「なに?お兄ちゃん、由さんに気があるの?」
「う~ん....、はっきり言って、いい感じの女の子だとは思う。久しぶりだし、話すの初めてだし」
髪を洗い流し、トリートメントをする。
「でも、しっかり連絡先、交換してたしね」
「あ、あれは、ひとみが居たから教えてくれたと思うぞ。オレ一人だったら多分教えてくれなかったと思うな」
「どうかな~?....」
ひとみが何か含みのある言い方をして、智也に聞いてくる。
「でもね、なんか 由さんも、時々だけど、お兄ちゃんの事が気になるみたいな素振り(そぶり)が、時々見えたような感じがしたよ、分かってる?」
「まさか、あんな美人が....、彼氏が居るんだろな、とっくに」
「あは! そう言えば、それ聞くの忘れちゃったね。お兄ちゃんからは、フリー って宣言したのにね」
「まあ なるようになるさ...出るぞ」
ザバッ といい、智也が湯船から出る、ひとみはもう髪を洗い流しているので、交代である。
そして。
「相変わらず、胸デカいなひとみ」
「あはは、 えっちぃ」
「なぁに言ってんだ。じゃな」
そう言いながら、智也は脱衣場に出て行った。
(お兄ちゃん......、前の人との事、まだトラウマかな?ちょっと心配だな)
と思う、ひとみであった。
◇
次の日。智也がまた学食で昼食を摂っていると、由が入って来た。
すぐに智也に気が付き、手を振りながら近づいてきて、同じテーブルに座った。
「今日もココにいたんだね。今日はもう終わりなのかな?」
食べ始めた箸を止め、智也は由に向き合った。
「今日はもう終わり。だからこれ食べて帰るところなんだ。由は?」
「私も今日はコレで終わりよ。 友人と待ち合わせる為に、ココに来たの」
「そうなんだ」
「今日はひとみちゃん居ないのね」
「今日ひとみは午後からで、オレとは時間がズレたので、今日はオレ一人でこんな感じなんだ」
「そう....」
そう言って、由は一度立ち、今日は自販機の飲み物を持って戻って来た。
それから暫く、高校時代の事など、懐かしい事などを喋りながら、二人で笑い合っている時に、二人に声が掛かった。
「あ、誰?由 この人」
そこには少し背が低めな、だけど気の強そうな女の子が居た。
「あ、寛子。」
少し困った顔で言う、由。
「彼氏が出来たの? 由。 いつの間に?」
「イヤ、オレ彼氏ではないんだが」
智也が敢えて答え、続けて。
「オレは、伊藤 智也、由と一緒の2回生なんだ」
「そう。 私は 由の友達で、田中 寛子(たなか ひろこ) 2回生だから、同じね。よろしくね」
と、自己紹介された。
「こちらこそよろしく」
「....で、どしたの?このシチュエーションは? 説明しなさい 由」
(な、何かちょっとコワイなこの娘)
智也が思う、寛子に対する初めての印象だった。
◇
智也は去年、短い期間だが、彼女が居た時期があった。ほんの半年にも満たない期間だったが、一気に燃え上がったが、その反面、冷めるのもまた早かった、その終わり方が、智也の恋愛にトラウマを残した。
(もう暫く恋愛はいいかな....。疲れるのがイヤだから、コレから女の子との出会いがあっても、友達ラインで終わらせよう)
そう思い、心にとどめた。
◇
「ねえ智也...」
「ねえ智也、どっか遊びに行こ?」
「ねえ智也、ご飯食べよ?」
「ねえってば...智也...」
あの由との学食から後、最近よく田中寛子が智也に近づいてくる様になった。
あまりにも距離が近く、付き合ってないのに、彼女面もしないでほしいのに、何故かここ最近は、ほぼ毎日声を掛けてくる様になった。
時々腕を組んでくるので、変な意味で ドキドキ してしまう事がある。女の武器をフルに使っているような素振り(そぶり)の連続で、暫くすると智也は呆れててしまうほどだった。
智也からの困惑と迷惑そうな態度に、寛子から苦情が出る。
「何で、私の誘いを殆ど断るの? 私の事がキライなの?」
そう言ってくる寛子だが、智也からは。
「ちょっと度が過ぎるアプローチだとは思わないのか? 寛子は」
少し戒める様に言ってはみるが。
「何言ってるの、彼女が居ない男に、こんないい女が、付き合ってやろうと思っているのに、何も感じないなんて、ホントどういう神経しているの?」
「そもそも、ほぼ毎日オレに付きまとってきて、由の事はどうしたんだ?」
「由はいいの。 今は単位を取るのに必死だから」
「友人を、そんなんでいいのか?」
「だって、私はあなたと居たいもの」
あまりにもストレートな言い方をしてきた寛子に、返事が詰まってしまう智也。
「う........」
さらに追い打ちをかけてくる寛子。
「早く好きになってよ、智也」
(何故そんなに急ぐんだ?寛子は....)
そう思いながら数日間に及び、智也の気持ちを置いてきぼりみたいな告白をしようとしている寛子に、さらに最近はうんざりしてきた。
「今週末、付き合ってよ智也」
「由 と行けばいいじゃん」
「何言ってるの、週末は男の子とデートするのが良いんじゃない」
「オレ以外はダメなのか?」
「何でそんなに私を嫌うの?....」
そして、寛子がキレ出した。
「だったらもういい!!」
「人生 女っ気が無かったくせに、私の誘いをことごとく断って、せっかく童貞を捨てさせてやろうと思っているのに、それならこっちからお断りよ! さよなら!」
「うわ....そこまで言うか」
「知らない、バイバイ!」
「........」
(一人で言い寄って、一人で怒って、勝手にさよならって、何なんだ、寛子は....)
いったい何だったんだこの数日間は。 と思いつつ、何処か ホッとする智也が居た。
(童貞を捨てさせてやる....、か....)
随分酷いことを言われたな、と思った。
◇
夕方、家に帰って来た智也は、変な疲れを覚えた。それを見たひとみが、心配して聞いてきた。
「お兄ちゃん、今日もあの寛子 とか言う女に言い寄られたの? 何か、顔色が良くないよ? 大丈夫?」
「大丈夫だ、今日で終わったからな」
智也が溜息を吐きながら言う。
「ハッキリと断ったの?」
「はは、向こうから 三行半(みくだりはん) を突き付けられた....」
「何よそれ! 向こうが勝手に言い寄って来たくせに、頭きちゃう」
「まあいいじゃないか、向こうから離れて行ってくれたんだからな」
「いいの?」
「むしろ、ホッとしている、やっと離れられて」
「じゃあもう......」
「ああ、そう言う事だから、心配するな」
「うん。じゃあわたしお風呂行ってくるから」
「あいよ」
ひとみが部屋から出て行ってからすぐに、智也のスマホが鳴った。
由 からだった。
「もしもし、由か、何か用か?」
心配そうな声色で、訪ねる様に聞いてくる由。
『智也、だいじょうぶ? さっきすっごい剣幕で、寛子から報告が来たけど』
「ははは、大丈夫だ、むしろ、やっとホッとしている」
『何かごめんね~、あの子、結構突っ走るところがあるから』
「アイツ(寛子)、 フライングかファールするほどに突っ走ってたからな」
『で、結局付き合わなかったんだね』
心配そうに聞いてくる由。
「うん、何て言うか、向こうから一方的に断られた形って言う感じかな....」
『そう....(良かった~....)』
由が結果を聞き、安堵した様に感じられた。
「え? 何か言ったか?」
『あ!いやいや 何も....。ところで、ひとみちゃん 怒っていたでしょう?』
「相当だけど、」怒(おこ)っていたと言うより、怒(いか)ってた」
『重ね重ね、ごめんね。後で、私から謝っとくから』
「そうだな、由が謝るとすぐに許してくれると思うぞ」
『そうなの?』
「だって、由は 俺たち兄妹の お気に入り に入っている、特別な女の子だからな」
『.......』
顔が赤くなって、急に黙る 由。でも、電話なので見ることが出来ない智也。
「どうした? 急に黙って」
『な、何か恥ずかしいかな、 お気に入り なんて言われると。』
「仕方ないさ、俺たちの “特別” なんだからな、由は」
この智也の言葉に、由は胸の奥にあった、何かの感情に気が付いた。......、ついてしまったのだった。
『.......』
「??....、何で時々黙るんだ?」
『う...、嬉しいからよ』
「???....何が?」
『そ....、そんなの言えない、恥ずかしくて』
「だから、なに? 嬉しかったり 恥ずかしかったり、忙しいんだな 由は」
智也には今の 由 の状況を知る由(よし)もない。
『もう知らない!。明日またね』
「おう分かった。会うのちょっとだけ久しぶりだな。じゃな、また明日、ホントだぞ?」
『ええ....、じゃあ』
電話を切ったあと、智也は ? が 頭から消えるのに時間がかかった。
しかし、風呂から出て、暫くしてから智也の部屋に来たひとみは....。
「お兄ちゃん!バカなの?!」
「何を言ってるんだ ひとみ」
「さっき 由ちゃんから電話があって、すごく謝られたけど、 由ちゃんのせいじゃないからって、言っておいたけど、話を全部聞いて、コレは....。と思った訳なの、分かる?」
「寛子の事だろ?」
「と・も・や・さ・ん・の事でしょうが....鈍感!!」
首を傾げた智也だが........、いい加減経ってから気が付いた。
「あ!!........」
「おそ~~~い!! 全然 気が付くのが遅いぞ~、お兄ちゃん」
「ホントか? コレって.....」
「ホントです、間違いなく」
大きく頷きながら、答えるひとみ。
「だって、再会してまだそんなに日が浅いのに?」
「日にち関係ある? 恋愛に」
「一目惚れと言う、日本語がありますが.....」
「正にそうです! 由ちゃんはそれに近い感じです。それに、多分だけど、高校時代からお兄ちゃんの事は気になっていたんだと思うよ」
「まっさか~.....、こんなスタンダードなジャパニーズボーイに?」
(でも、高校時代に時々目線が合っていた気がする...けど、まさかな~......)
と、少し謙遜する。
「いい加減にして、明日聞いてみたら?」
「うわ! 何だか 会うのも恥ずかしくなってきた」
「私もついて行ってあげるから...、ね」
「お願いします、女神さま ひとみさま」
「うふふ、明日が楽しみね~....」
今夜眠れるか心配な智也だった。
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