第48話 嵌められたBS1-52君達

 「はぁ……はぁ……。ここまで逃げて来ればもう大丈夫だろう」


 「はぁ……はぁ……。そうだな。けどここまで来る途中に仲間達も随分もやられちまった。それにしてもあのメノス・センテレオ教団の野郎共……。俺達にあの村を襲撃して神の子・・・を抹殺するように依頼しておきながら本気で俺達を攻撃してきやがって一体どういうつもりだ」


 「恐らく初めから俺達を嵌めるつもりだったんだろう。わざと俺達に襲わせて自分達の手で村を救出することで一気に自分達への信仰を促す……。あくどい宗教系のソウルギルド……じゃなくて組織がよくやりそうなことさ。そもそも神を崇める宗教組織が神の子の抹殺を依頼するなんておかしいとは思っていたが報酬の高さについ乗せられちまった」


 「自分達の崇める神以外が遣わした神の子など我々にとっては悪魔の子でしかないとか言ってたのも全部嘘っ八だったってことかよっ!、糞がっ!。俺達を騙した上に仲間を散々殺しやがってメノス・センテレオ教団の野郎共只じゃおかねぇっ!。こうなったら俺達に襲撃を依頼したことをそこら中で言いふらして奴等の計画を分っ潰してやろうぜっ!」


 「ああ……。だけどあいつ等も俺達を生かしておけばそうなる危険があることは承知のはず……。必ず追っ手を差し向けて来るだろうから今は身を隠すことを優先すべき……」


 「ほぅ……。低能で扱いやすいモンスター共の集まりと思って利用したわけだけど中々察しの良い奴もいるみたいじゃないか」


 「……っ!。お……お前は……」


 【転生マスター】としての持つ持ち前の冷静さを活かして的確に状況を判断し仲間達に説明をするBS1-52君。


 そんなBS1-52君の説明を受けて仲間達も自分達の置かれた状況をある程度正確に把握できたようだ。


 しかし落ち着きを取り戻し始めたBS1-52君の元に森の陰の中から姿を現した1人の怪しげな人物。


 白い十字架の刺繍の入ったコートを着た厭らしい目付きの男。


 ……そう。


 ヴェント達『味噌焼きおにぎり』のメンバーであり、メノス・センテレオ教団の幹部でもあるこの前の夜赤ちゃん部屋で僕達のことをその手に掛けようとしたアズール・コンティノアールことSALE-99がBS1-52君達の前へと意味深な表情を浮かべて立ちはだかった。


 「て……てめぇは俺達に村を襲うよう直接依頼してきたメノス・センテレオ教団の野郎じゃねぇかっ!。散々俺達の仲間を殺しやがって初めから俺達を利用するつもりだったんだなっ!」


 「そうだよ。そしてその秘密を知る君達を全員皆殺しにするところまでが僕達の計画の内さ」


 「ふ……ふざけやがってぇぇぇーーーっ!」


 「やめろっ!。ティノールっ!」


 「ぐはぁっ!」


 「ティノールゥゥゥーーーっ!」


 利用された自分達をあざ笑う態度に怒りを露わにして牛のモンスターがSALE-99へと襲い掛かる。


 しかしBS1-52君の制止する声が響いた次の瞬間、SALE-99の差し向けた手から飛び出た何かが牛のモンスターの腹部を串刺しにした。


 これは何か植物の根のようなものだろうか。


 それにしては濃い灰色のように随分と暗い色合いをしているが。


 SALE-99の右腕を纏わりつくようにして伸びた根の先が針のように鋭利となり牛のモンスターの腹部を背中まで貫いている。


 この根を操るのがSALE-99の持つ魔法の力なのだろうか。


 日の当たらない森の暗がりの中仲間を思うBS1-52君達の悲痛な叫び声が鳴り響いていた。


 「ちっ……ちくしょうっ!。よくもティノールをっ!」


 「やめろっ!。俺達の実力じゃあ全員で束になって掛かったところでこいつには敵わないっ!。とにかく全力でこの場から逃げるんだっ!」


 「く……くそぉぉーーっ!」


 「ふっ……逃がしはしないよ」


 一目でSALE-99との実力差を感じ取ったBS1-52君は強い口調で仲間達に撤退を促しまさに死に物狂いといった表情で森の中を駆け抜けていく。


 SALE-99も【転生マスター】である以上は僕達と同じように隠しスキルからのステータスの恩恵は無いに等しいはずなのにBS1-52君達をこれ程圧倒することはできるとは……。


 予想はしていたけどやはり『味噌焼きおにぎり』のメンバー達は選択した隠しスキルに関係なく相当熟練された魂達の集まりのようだ。


 【転生マスター】によるステータスへの恩恵がなくとも魂自体の成長度が高ければ十分に差を補うことができる。


 流石に相手が同じ隠しスキル。


 ヴェントの【神の子】や【勇者】や【魔王】の転生スキルを取得している者ならばまともに立ち向かうのは難しいだろうけど。


 突如として空に雲が掛かり、その上頭上を枝葉に覆われた暗い森の中でSALE-99から逃げ惑うBS1-52君達は気が気でなかっであろう。


 後ろで仲間達の悲痛な断末魔の叫びが聞こえようとも振り返る余裕すらない。


 森を抜けて崖の前に出たと思った時にはもうRE5-87君を魔法で撃退したあのエリート風のゴブリンのモンスターとBS1-52君の2人だけになってしまっていた。


 「はぁ……はぁ……。ちくしょう……。もう逃げ場がねぇぞ……ウィザーク」


 「くっ……」


 「ふっ……どうやら残りは君達2人だけのようだね。もう逃げる場所もないみたいだし観念するんだね」


 崖の前で追い詰められたBS1-52君の前に森の暗がりの中から姿を現したSALE-99がゆっくりと詰め寄って来る。


 逃げ場を失ったBS1-52君を見てSALE-99は優越感に満ちた表情を浮かべていた。


 対するBS1-52君の表情は引き攣り、SALE-99への敵意を露わにしながらももう為す術がないという雰囲気が滲み出てしまっていた。


 「こうなったら一か八か崖を飛び降りるしかないか……」


 「いや……そんなことしたところでどの道こいつに追い付かれちまうだろう。こいつは俺が死んでもここで食い止めておくからお前は行け、ウィザーク」


 「なっ……何言ってやがるっ!。ゴブリートっ!」


 仲間からの突然の提案にBS1-52君は動揺を隠せない様子だった。


 僕達の村を襲撃し赤ん坊のアイシアまでその手に掛けたとはいえBS1-52君達は本来は仲間思いのとても良い魂のはずだ。


 今回は種族の違いから敵対関係になってしまったけど共に違う形で転生していたらきっと友達になれたに違いない。


 そんなBS1-52君に仲間……それもソウルメイトであるゴブリート君を見捨てて自分だけ逃げるなど到底受け入れられるわけがなかった。


 「ガルーダ種族のお前ならこれくらいの高さの崖からでもどうにか地上に降りられるはずだ。ゴブリンの俺じゃあ飛び降りたところでおっんじまうだけだろうしな」


 「俺だって別に空を飛べるわけじゃないんだしどうなるか分からねぇよっ!。行くならお前が行けっ!。こいつは俺が食い止めておくからっ!」


 「いや……。俺なんかより切れ者のお前が生き延びた方がよっぽど良い。お前は腕っぷしこそ俺達と大差ないが小さい頃から意外な程機転が利く奴だったからな。お前なら必ずこいつ等を出し抜いて俺達の無念を晴らしてくれるはずだ」


 「ば……馬鹿がっ!。そんな風に俺を買いかぶって命を投げ出すなんてとんだ大馬鹿野郎だぜっ!。こうなりゃ2人で最後までこいつに抵抗して仲良く揃ってあの世に行こうぜっ!」


 「ふっ……そいつはごめんだね」


 「なっ……」


 BS1-52君がポンッとゴブリート君の肩を叩いて最後の戦意を高めようとした時、突然ゴブリート君が魔法で突風を引き起こしBS1-52君を崖の向こう側へと吹き飛ばした。


 不意の出来事に驚きを隠せない表情のままBS1-52君は見る見る内に崖の下へと落下していく。


 数秒後にはもう肉眼では姿を捉えきれなくなっていた。


 仲間を見捨てることなど決してできないと胸に誓っていたBS1-52君だがもうこの場に舞い戻ることはできないだろう。


 仮に戻って来たとしてもその時はもうゴブリート君は……。


 「仲間を崖から突き落すなんて随分と酷いことするねぇ。そんなにあの鳥のモンスター君が気に入らなかったのかい?。それにしてもこの追い詰められた状況で自ら戦力を減らすような真似をするなんて愚かとしか言いようがないけどね」


 「あの野郎落ちこぼれの癖にエリートの俺に何かと難癖をつけてきやがってずっと生意気な奴だと思ってたんだよ。それにあんな奴いなくてもてめぇの相手ぐらい俺1人の力で十分だぜ」


 「ふっ……誤魔化して無駄だよ。あの鳥のモンスターを逃がすつもりで崖から落としたことぐらいちゃんと分かっているんだから。捜索が面倒になってしまったけど君を始末した後であいつもちゃんと後を追わせてあげるから安心すると良いよ。最も今頃はもう僕が手を下すまでもなく地面に叩き付けられて死んじゃってるかもしれないどね。その場合は君が僕に変わって彼を始末してくれたってことになるわけだし感謝しないと」


 「くっ……糞野郎がぁぁぁーーーっ!」


 SALE-99の言動に耐え兼ね……。


 そして何よりBS1-52君が逃げ延びる為の時間を少しでも稼ぐ為ゴブリート君は必至の思いでSALE-99へと立ち向かって行く。

 

 けれどゴブリート君自身も覚悟している通り戦う前から既に結果は見えていた。


 ここでBS1-52君達の身に起きたこと。


 そしてこれまでのBS1-52君達の言動が指し示す僕達の村の襲撃の真相などこの時の僕達は知る由もなかった。

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