第34話 転生スキルの固有権

 「LA7-93の今回の獲得ソウルポイント、37572。その従者、アイシアの獲得ソウルポイント、23541……ほほぅ。今回は『地球』の世界程ではないにしろかなり良質な人生を送ることができたようじゃの。『ソード&マジック』の世界への転生はまだ2回目じゃというのにやはりお前という奴は大した魂じゃ」


 『ソード&マジック』の世界の5回目の転生でバージニアさんと打ち解けることができたあの夜。


 あれから更に【ヴァーバイン洞窟】を奥へと進み無事メルトラン鉱物を採取することができた僕はその後もハーディンさんやドン兄さん、それからバージニアさん達として冒険者として順風な人生を送ることができた。


 最終的に僕は冒険者ランクがA、アイシアは冒険者ランクがCにまで到達し、今閻魔大王から聞かされた獲得ソウルポイントからも分かる通り見事『ソード&マジック』の世界への転生のリベンジに成功する。


 しかしあくまで上手くいったのは僕の体の細胞として転生したベルとベルルの協力が得られた5回目の転生だけで、6回目の転生は普通に父さんの店の手伝いをするだけの人生で終えてしまった。


 やはり単独で冒険者としての人生を送るだけの実力は今の魂の成長度の僕達にはないようだ。


 「それじゃあ人生の査定も終わったしもう天国の部屋に帰っても良いぞ」


 「うん……。でも帰る前に閻魔のおっちゃんにちょっとだけ聞いておきたいことがあるんだけど……」


 「うんん?、なんじゃあ?」


 「今回の5回目の転生で僕と一緒に冒険者をしていたバージニアさんって人がいるんだけど……。その人に転生していた魂について教えて貰える?」


 「そいつの名前くらいなら構わんぞ。えーっと……お前が5回目の転生の時にバージニアという奴に転生していたのは……ほほぅっ!、GGZ-72かっ!。こいつは『煙草魔法シガレット』の魔法で有名な超実力派の魂ではないか。このような奴を連れにしていたのならお前が冒険者としてまともな人生を送ることができたことにも納得じゃわい」


 「『煙草魔法シガレット』の魔法で有名ってことは……。やっぱりバージニアさんに転生していた魂は他の転生でも『煙草魔法シガレット』の魔法の習得に成功していたのっ!」


 「ああ。もう1000回以上、20種類以上の世界への転生でその魔法の習得に成功しているようじゃぞ。【煙草魔法シガレット】の転生スキルの『固有オリジナル権』の取得も認められた程じゃ」


 「転生スキルの『固有オリジナル権』っ!。それって一体何なのっ!?」


 「転生スキルの『固有オリジナル権』というのはの……」


 転生スキルの『固有オリジナル権』。


 閻魔大王によるとそれは複数の世界への転生で特別な同系統の能力を習得することに成功した魂に与えられる権利であるとのことだ。


 どういった権利であるかを端的に説明すると転生先で常時習得することが可能になる程ルーティン化された特別な能力。


 今回の話題であるバージニアさん、正確にはGGZ-72さんという魂ではあるがその例でいくと彼女が転生中に習得していた『煙草魔法シガレット』の魔法を【煙草魔法シガレット】の転生スキルとして取得できるようになる。


 その転生スキルの効果は他の転生スキルの同じようなもので……。


煙草魔法シガレット

 スキルのLvに応じて転生先の世界での『煙草魔法シガレット』の魔法の習得が容易になりその威力、技量が上昇する。


 っというものだ。

 

 しかし僕達のソウル・マネジメントの欄に【煙草魔法シガレット】などという名称の転生スキルは何処にもなく、【煙草魔法シガレット】の転生スキルを習得できるのはあくまで『固有オリジナル権』を持つバージニアさんことGGZ-72さんだけだ。


 『固有オリジナル権』を持つGGZ-72さんの許可さえ得れば他の魂であっても取得が可能となるようだが、その場合は【煙草魔法シガレット】の転生スキルの必要取得ポイントだけでなく規定された手数料となるポイントをGGZ-72さんへと支払う必要が出てくる。


 また『固有オリジナル権』を獲得した魂によって新たに創り出された転生スキルのことを固有オリジナル転生スキルというそうだ。


 固有オリジナル転生スキルを持つ魂達は他にもいるようだが、基本的によっぽど仲が良い魂でなければその固有オリジナル転生スキルの取得を許可して貰うことはできない。


 折角得た自分の魂だけの特別な転生スキルなのだからそう簡単に安売りできないのは当然のことだろう。


 僕は【煙草魔法シガレット】の固有オリジナル転生スキルの取得を許可して貰えないまでも、自身も固有オリジナル転生スキルを創り出す参考ヒントを得られればと思い早速GGZ-72さんの元へと向かって行く。


 今回の『ソード&マジック』の転生ではバージニアさんとそれなりに打ち解けることができたし霊界に帰って来たGGZ-72さんにも快く接して貰えるといいんだけど……。


 ピン……ポ~ンっ!


 「バージニアさん……出て来てくれるかな」


 「先程の『ソード&マジック』の世界での5回目の転生では最後まで共に冒険者業を営んだ仲ですし快く迎え入れてくれるのではないでしょうか。しかしまだバージニアさんも閻魔大王の査定を受けている可能性もあります」


 バージニアさんに転生していたGGZ-72さんの天国の部屋の前へとやって来て呼び鈴を鳴らす僕達だけど中々出て来てくれない。


 もしかしたらまだ閻魔大王の査定を受けているかもしれないと思いつつもめげずにももう一度呼び鈴を鳴らしてみる。


 ピン……ポ~ンっ!


 「だぁ~っ!、うるせぇな~っ!。2回も鳴らさなくてもちゃんと聞こえて……んんっ!?」


 「こ……こんにちは、バージニアさん。じゃなくて今はGGZ-72さんだった」


 「アルっ!、それにアイシアじゃねぇかっ!。さっき転生が終わったばっかりだってのにわざわざ会いに来てくれたのか」


 2回目の呼び鈴を鳴らした後さっきの『ソード&マジック』の世界でのバージニアさんことGGZ-72さんが玄関を開けて僕達の前へと姿を現してくれる。


 GGZ-72さんの方はバージニアさんじゃなくて恐らくさっきの6回目の転生の時の姿をしていたけど、僕達は向こうに分かりやすいように5回目の転生の時のアルとアイシアの姿だったからすぐに僕達だと認識して貰えた。


 GGZ-72さんは自分の天国の部屋へと僕達を快く迎え入れてくれて、霊界に帰って来たLA7-93として改めて魂の自己紹介をした後でGGZ-72さんがどのようにして【煙草魔法シガレット】の固有オリジナル転生スキルを取得することができたのかを色々と問い質していく。


 「ふーん……。それじゃあGGZ-72さんは『地球』の世界に転生している時に『煙草魔法シガレット』の魔法を思い付いたんだね」


 「ああ。『地球』の世界のアクション物の映画なんかでよくガソリンやガスの溜まった場所に吸い終った煙草を投げて爆発させるシーンがあるだろ。そんなシーンに憧れてた時からずっと魔法の存在する世界に転生したら真っ先に煙草を爆発させる魔法を開発しようって考えてたんだよ」


 「なる程……。つまり『煙草魔法シガレット』の魔法のヒントは『地球』の世界の映画から得たと……」


 「けどよく考えたら別にわざわざ煙草を使わなくたって爆発起こす魔法ならいくらでもあるだろ。そもそも普通に取得転生スキルの中に【爆発エクスプロージョン】なんてものがありやがったし……。それで吸う煙草の種類によって色々な効果を得られるよう改良していったんだ」


 「でもいくら霊界で色々と考えたところでそう都合よく転生先の世界で『煙草魔法シガレット』の魔法を習得できるようになるとは限らないよね。それぞれの世界によって魔力の性質や魔法の術式なんかも変わってくるだろうし……。何より転生中は霊界での記憶はないはずなのにどうやってどんな世界に転生しても毎回『煙草魔法シガレット』の魔法を習得できるようになったの?」


 「そりゃお前……そこはもう根気で頑張るしかねぇよ。どんな時でも煙草魔法シガレット』の魔法を習得することだけを念じて世界に転生するんだ。そうやって何度も根気強く転生している内に次第にルーティン化していったおかげで最後には固有オリジナル転生スキルなんてものを取得することができたんだ」


 「そっか……。まぁ、普通はそうするしか方法はないよね」


 「只私の場合は魂が誕生して初めて『地球』の世界に転生した時から煙草にド嵌りしてずっと吸い続けてきたからな。そのことを考えると自分に合った能力を考えるってのが第一なのかもしれない」


 「自分に合った能力か……なる程」


 GGZ-72さんの話を聞く限り常に『煙草魔法シガレット』の魔法を習得できるようになるのは根気強く転生を続けてルーティン化していくしかなさそうだ。


 只これに関しては僕にとってはGGZ-72さんや他の魂達と違ってそれ程難題にはならない。


 【転生マスター】としての力を持つ僕ならいつ如何なる転生を行った時でも常に自分の思い付いた能力についての記憶を保持することができるからだ。


 勿論転生先の世界で常にその能力を習得できるまで完成度を高めるには同じように相当な努力と根気が必要になるだろうけど……。


 「それで固有オリジナル転生スキルを取得できるくらい自分の思い付いた能力を昇華するには具体的にはどんなことをすればいいのかな。根気と努力が重要なのは勿論だけど只闇雲転生を繰り返すだけじゃ駄目だよね?」


 「そうだな……。まずは転生先の世界じゃなくこの天国の部屋で自分の能力についてのイメージや設計図を固めていくのが重要だ。天国の部屋なら自分の思い描いている能力を何の制限もなしに実現することが可能だろう。例えばこんな風にさ……フゥー……」


 「おおっ!」


 GGZ-72さんは天国の部屋で創り出した煙草を徐に吸い始めると『ソード&マジック』の世界に転生している時に見せたのと同じように吸い終った煙草を前方へと飛ばして爆発させた。


 天国の部屋では転生中の世界のように魔力も魔法を発動させる為の特別な術式を構築したりする必要もない。


 只自分の思い描いた通りの魔法をこの場に実現させることができる。


 「こうやってまずは自分の創り出したい能力の完成形から模索していくんだ。その後で実際にそれぞれの転生先の世界でもその能力を実現させるにはどうしたらいいかを考えていく。只天国の部屋では何の制限もなく能力を実現できる代わりに折角貯めたソウルポイントを消費しちまうことになるから気を付けろよ」


 「なる程……。確かに天国の部屋ならどんな能力だって再現し放題だし自分の創り出したい能力のイメージをグッと固めることができそうだね。色々と良いアドバイスをありがとうっ!。GGZ-72さんのアドバイスを参考にして僕も自分だけの固有オリジナル転生スキルを取得する為に頑張ってみるよっ!」


 「ああ。まぁ、それなりに大変だろうが頑張れよ」


 GGZ-72さんのアドバイスのおかげで固有オリジナル転生スキルを取得する為の大まかな段取りが見えてきた。


 まずは肝心の固有オリジナル転生スキルの元なる自分だけの特別な能力をどうするかだけだけどGGZ-72さんは『地球』の世界の映画からヒントを得たと言っていた。


 映画ではないけど『地球』の世界にはアニメや漫画、それからゲーム等僕にも興味を引く作品が沢山ある。


 ここは僕ももう一度『地球』の世界に転生し色んな作品に触れて自分だけの固有オリジナルの能力のインスピレーションを得ることにしよう。

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