第22話 冒険者試験
「よし……。それじゃあ行ってくるよ、父さん、母さん」
「はぁ~。まさかあなた達まで冒険者なろうと考えていたなんて母さん夢にも思わなかったわ~。試験だから命を落とすようなことはないだろうけど無理はしないようにするのよ~」
「母さんの言う通りだぞ、アル、アイシア。冒険者試験は毎年開かれるんだから無理して今年の試験に受かろうとする必要はない。お前達はまだ若いんだし少しでも実力不足と感じたのなら余計な怪我を負う前にすぐ危険しなさい」
「分かってるよ。僕達だってちゃんと自分達で考えて試験を受けることにしたんだからそんなに心配しないで。……それじゃあね」
「行って来ます、父さん、母さん」
ベル達に体の細胞をパワーアップして貰ってからちょうど2週間後の朝。
僕とアイシアは父さんと母さんに見送られながら冒険者試験を受けに出掛けようとしていた。
父さんと母さんは玄関を出る直前まで僕達のことを心配して声を掛けてくる。
きっと本心では僕達に冒険者など目指して欲しくはないのだろう。
今回の『ソード&マジック』の世界への転生に臨む前PINK-87さんは僕体のことを立派な冒険者に育て上げてみせると意気込んでいたのだが、いざ転生してみるとやはり母親として子を思う気持ちの方が勝ってしまっていたみたいだ。
【母乳】や【遺伝】の系統の転生スキルの力で息子として生まれた僕の肉体のスペックを少しでも上昇させることに協力してくれたが、教育という面では特に冒険者となる為に力を貸してはくれなかった。
それでも愛情一杯でこれまで僕達を育て上げてくれて、父親となったMN8-26も当初の計画通り立派な『ポーション・カフェ』の店をこのダンジョンの中継拠点に開いてくれて僕達に何不自由ない暮らしを提供してくれた。
そんな2人にしっかりと感謝の念を抱きながら僕とアイシアは冒険者試験の会場へと続く道のりを歩いて行く。
2人の恩に報いる為にも何としてもこの冒険者試験に合格しないと。
「すみません。僕達冒険者試験に受けに来たんですけど……」
「畏まりました。ではまずこちらで受験者様のステータスを測定させて頂きます。受験者様のステータスが既定値に達していない場合はこの場で失格とさせて頂きますのでご了承下さい」
冒険者試験を受ける為にはまず事前に告知されたステータスの値をクリアしていなければならない。
ベル達に細胞をパワーアップして貰ったおかげで僕のステータスは既定値どころか冒険者となるに推奨されている値までクリアしているわけだからまず大丈夫だろうが問題はアイシアの方だ。
この2週間アイシアも懸命に努力してここに向かう途中に自分達で行った測定ではどうにか既定値のステータスを上回ることができていたのだが……。
「はい。御2人共既定のステータスをクリアしています。どうぞ会場の方へとお進みください」
どうやらアイシアのステータスも無事既定値をクリアしていると判断して貰えたみたいだ。
この後僕達は会場へと向かい審査員である冒険者達の元冒険者ライセンスを取得する為の試験を受けることになる。
試験の内容は今受付で測定したステータスと僕達の希望する冒険者としての在り方、乃ちジョブによって決められる。
前衛、つまりパーティの先頭に立って直接敵と戦闘を繰り広げる役割を担いたいと考えている場合は剣や槍、斧等近接戦闘用武器全般、とりわけその中で受験者が最も扱いが得意としているものの技量を見られることになるだろう。
後衛なら遠隔武器、もしくは攻撃魔法、
今回の試験に僕は錬金術の扱いを主とする冒険者になりたいとの希望を提出して応募した。
錬金術師でありながら冒険者の職に就こうとする者は珍しいようだが、そういった者達が冒険者として通用するかどうかを評価する為の内容の試験もちゃんと用意されているらしい。
そして今僕は今まさに3人試験官達の前でその内容の試験を受けようとしているわけなのだが……。
「ではこれより受験番号5番-アル・アルティスの冒険者試験を開始します。あなたの志望するジョブは錬金術師ということなので試験はそれに伴った内容になりますが問題ありませんね」
「はい」
冒険者試験は志望する志望するジョブによって異なる会場で行われる。
案内係の誘導に従っていた僕はアイシアと別れて錬金術師志望の受験者専用の会場へとやって来ていた。
「申し遅れましたが私は試験官のメル・メイヤーといいます。両側に座っているのは同じく試験官のバーティン・ウルズとベン・チャンベル」
「バーティンだよ。よろしくね」
「俺はベンだ。よろしくな」
僕が案内されてやって来た会場は大体30メートル四方の広さがあった。
入り口を入ってすぐのところに並べられた座席に3人の試験官が座っている。
座席の中央に座り最初に挨拶をしていたメル・メイヤーというのがこの場で一番の責任者なのだろう。
年齢は恐らく40前後ぐらい。
淡い茶色の髪をしてとても落ち着いた雰囲気の女性だった。
高貴な装飾の施された鮮やかな赤色のローブに身を包み如何にも魔術師、それから僕と同じ錬金術師と思える風貌をしている。
僕から見て彼女の左側に座っているバーティン・ウルズという感じの良い若い男性の試験官も彼女と似た身なりをしていたのだが、反対側に座っていたベン・チャンベルという男性の試験官からは2人とはかなり違う印象が感じられた。
褐色の肌にとても筋肉質で全ての体の部位の厚みが隣にいる2人の倍以上あるかのように見えるガッシリとした体格、重厚な鎧に身を包み背中には巨大な剣を背負い携えている。
察するにメルとバーティンは主に僕の錬金術も含めた魔術の技量の測定、ベンは僕の近接戦闘の技量を測定する役割を担っているのだろう。
っということは錬金術だけでなく実戦における僕の戦闘能力を測定する為の試験も行うということなのだろうか。
「冒険者試験を受ける前にあなたは錬金術師としてまだ我々のギルドの認定資格を取得していませんね。今回の試験においてそちらの認定資格も兼ねて行うこともできますがご希望されますか?」
「あっ……はい。是非お願いします」
錬金術師には冒険者として活動を行う為の資格の他に通常の錬金術を用いての業務をサポートする為の資格がいくつかある。
その1つが各地にある冒険者ギルドからの認定資格だ。
認定資格を取得できたからといって特別な業務を行えるわけではないが当然周囲からは錬金術師として高い評価を得られることになる。
冒険者ギルドからの認定資格ともなればそのギルドに所属している冒険者達の間でも評判も高まり
実は僕の父さんも現在僕が受験中この冒険者試験を取り行ってくれているギルドからの認定資格を取得していて、その影響もあって
冒険者になるに当たりその認定資格がマイナスなることはない。
っというか錬金術師をジョブとする冒険者ライセンスを取得しておいて認定資格を得られていないという方が不自然なことなので僕は当然メルの申し出を承諾する。
恐らくは冒険者ライセンスを取得できずともその認定資格は取得できる可能性があり、無事冒険者ライセンスを取得できた場合には同時に認定資格も得られるということなのだろう。
冒険者ライセンスの取得は認められたのに認定資格は得られないなんてことはまずないはずだ。
「ではまず冒険者が受けることになる依頼の中で最も多いとされている2つのパターン。ダンジョンの探索依頼と討伐依頼に事前に準備するに相応しいアイテムを錬成して貰います。討伐依頼に関しては対象がモンスターである場合と賞金首等我々と同じ人間である2つの場合に分けて。錬成に必要となる機材と素材はこちらで一通り用意させて貰っています。これらを駆使して依頼を達成するに最適なアイテムを錬成して下さい。錬成したアイテムの適正度と品質に応じて試験の評価をさせて頂きます。制限時間は1時間。我々がタイマーを作動させるとともに作業に取り掛かって下さい」
「分かりました」
「……では始めっ!」
メルの合図と共に僕は錬金術の機材と素材がズラリと並べられている会場の奥へと進み作業を開始する。
しかしこれらの作業は自身が冒険に出る為のものではなく他の冒険者達に必要とするアイテムを提供する為のものだ。
まずは僕の錬金術師としての基本的な腕前を判断すると共に先程説明してくれた認定資格の合否の選定を行うつもりなのだろう。
適正度と品質に応じて評価すると言っていたが制限時間の短さから察するに恐らく品質についてはそこまで重点的に考慮されないはずだ。
つまりこの試験に通るには品質より錬成するアイテムの種類をどれにするかということの方が重要となってくる。
試験の内容からしてこれで冒険者ライセンス取得の合否が決定すると思えないしまだ次があるとするならこんな基本的なところで
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