第3話 なんてことないアイテム鑑定

マリーの家でジョフィアと私とマリーはたわいない雑談をしながら夕食を取ることにした。


「残り物のシチューだけど、ごめんね。エル」

「ううん、嬉しいよ。シチューって2日目が美味しかったりするんだよね。具が良い感じに溶けて」

「マリーさん、また、ごちそうになります!」


ジョフィアはマリーの家に入り浸っては、恋愛相談をしていたようだ。

おそらく、昨日も来ていたのだろう。


「で、ジョフィアくん。道具屋って鑑定もできたよね?」

「はい、もちろんです。どんなアイテムですか?」

「これなんだけども……。と小さいのに結構ズッシリして重いなぁ」

と賢者の石を取り出してテーブルの上に置いた。


「不思議な色をした石ですね。7色に鈍く光っている。みたこともない石……」

とつぶやくとジョフィアはしばらくそれを見て黙り込んでしまった。


「エルさん?これはどこで?」

「それは、とりあえずは聞かないでくれると嬉しい……」

「かなり、価値がありそうなモノですね?触ってもいいですか?」

「ええ。調べてみて……」


ジョフィアはおそるおそる、賢者の石を優しく手で触れた。とその時

「きゃぅ、い、いや。くすぐらないで!」

と言う声が頭の中に響いた。


「エルさん!ふざけないでください!腹話術?ですか?」

「わ、わたしじゃないわよ」

「マリーさん?」

「わたしでもないねっ」


「まあ、いいや。ちょっとハンマーで軽く叩いて、反応を見てみます」

と鑑定をつづけるジョフィア。


「な、なんて乱暴なの!ひどい!」


また、同じ声が頭に響いた。


顔を見合わせる三人。


「なあ、ジョフィアこの石がしゃべっているんじゃないか?」

とマリー。


「え?」

「なんか女の子みたい。この石がしゃべっている?」

「確かめましょう……」


「私の名は、サファリアと申します。賢者のサファリア……」

と頭の中に声が響く。


「賢者のサファリア……さん?」

「あ、その名前なら聞いたことある」

とマリーは口を開いた。


「500年前、世界を闇から救ったとされる。女賢者の名前と同じ……ですね」


「そうです、私は石にされ封印されて来たのです……」

とまた頭のなかに声が響く。


ジョフィアは

「ぼ、僕だって知っていますよ。でも、サファリアって世界を救ったというか、闇の賢者って呼ばれていたぐらいで、どちらかというと悪い話しか聞いてないですよ。僕は……」


剣士である私には、賢者サファリアの話はあまりなじみが無かった。だが言われてみれば、おとぎ話で、時々悪者として出ていた気がする。


「私は、私は……。闇の賢者……と呼ばれていたときも確かにございます……」


「ほら?ね」

と若干得意げなジョフィア。


「前の持ち主とも、こうやって、しゃべっていたの?」

と訊ねると賢者の石、いや、闇の賢者サファリアは興奮した口調で怒りをあらわにした。


「なんでですか?あの人としゃべることなんて何もありません!」


「あ……。まあ、ひどいヤツだよね!」

と私は石に同調した。

「そうですよ!か弱い女性に強制の魔法をかけて……。ヤツの一族の祖先が私を石の姿に変えなければ……。私は幸せな生涯を送れたのに……」


「たしかに、闇の賢者サファリアは石にされたと聞いていたけど……」

とジョフィアが補足する。

「真偽を知りたいのですが……。サファリアさん。あなたは邪教の信者では?」

「邪教だなんて!、そこの神官と同じ神を信じる敬虔な、世界の神の信者ですよ!」


マリーは頭をポリポリかきながら……。

「うん、教団では聖女としてサファリアさんのことは伝わっているよ。表だっては言いにくいけど秘密裏に」


「秘密裏に?」

とジョフィアが疑問を口にする。


「うん、だって、世間体……。悪くてさ。世間では悪者ってことになっているし」


「そうですよ、サファリアと言えば悪女!、王国の貴族を石化の魔法で殺し、追放されたと聞いています」

「それは……、まあ、事実なんだけどね……」

とサファリアは認める。


わたしもサファリアはなんとなく悪い女の名前という印象はある。


「でも、神官様なら分かっていただけるでしょ?私は悪女なんかじゃない!」


マリーはニッコリと笑って

「もちろんです、聖女サファリア様」

とうやうやしく、石に礼をした。


うーん、この石を信じていいものか?だが、


「ランドルとその一族は本当にひどいわ!」

と石が怒りをあらわにすると。


「そうね。そうかもしれないわね」

と同調をしてしまう私。


「すべての女の敵です!最低な一族の男なんだからぁ」

と石は非常にご立腹だった。


この石と私。仲良くなれるかも?


「うん、分かる気がする」

「わたし、ずっとあなたにも警告したかった……。でもあの男に一族の血の封印の魔力の性でなにもできなくて……」

と石、聖女サファリアは悔しげに謝罪をした。


「あの男が言っていることは……、王女さまに求婚されて、あなたと別れないといけない。って話は……。あの男の常套文句なのです!」

とサファリアは言った。


「そういえば、みんな納得して……」

と悔しそうなサファリア。


でもなんで、そんな賢者の石を手放す気になったのだろうか?ランドルは?


「私は、もう石としてのパワーがほとんどありません。だから、私も用済みってことね……」


そっか、そういうことか……。


「あなたの願いを叶えてあげたくても……、あまり大きなことは叶えられそうもない……」

とサファリアは言った。



「気にしないでサファリア。大丈夫、友達になろう」

「え?」

「だめかな?」


「喜んで!でも、何もできないのに……。いいの?」

とサファリアは喜んでいるようだった。


「もちろん!」


こうして私たちの仲間に、石にされた聖女サファリアが加わった。賢者の石として用済みになった彼女は、私のようにランドルに捨てられたのだ。石だけど、きっと仲良くなれる。と私はサファリアを強く信じた。

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