第104話 国王との謁見②

今にもオルトラークに向けて行きそうな国王を、キャサリンが制す。


「直ぐにって、アンタ無理でしょ。それに、タクヤ君の褒美はどうなったのよん。」


その言葉に、冷静さを取り戻す国王。


「ああ、そうだったな。すまぬ。」


「ゴッホン」と取り繕う様な咳をした国王は、再びソファーへと座る。


「タクヤさん、ごめんなさいね。」


そんな国王を微笑ましく見ていた王妃が、笑いながら俺にそう言って来る。


「い、いえ・・・大丈夫です。」


「ん゛、ん゛。して、タクヤ君。褒美は何が欲しい?」


突然何が欲しいかと聞かれても、咄嗟に思い浮かぶわけがない。

しかも、大体欲しい物はガチャで出て来るし。


「えっと・・・。何が欲しいと言われましても。」


煮え切らない返答をする俺に、キャサリンがまた調子に乗って喋り出す。


「タクヤ君はね、大体何でも持ってるのよねん。お嫁さんも9人居るし、大きな屋敷も持ってるし、服飾関係と食べ物屋さんも経営してるしね。今、オルトラークでは知らない人は居ないんじゃないかしら?そうそう、噂で聞いたのだけれども、アンタ特注でチェスを作ったらしいじゃない?あれも、タクヤ君が考えた物なのよん?」


まあ、ベラベラと要らない事を喋りまくるキャサリン。

俺は止める事すら出来ず、頭を抱えてしまう。


「ほう!あれを考え出したのもタクヤ殿だったのか!」


君から殿に変わったし。


「あれは、いい物だな!毎晩、アレクシスと共に一局差しているぞ。」


ちなみにアレクシスと言うのは、国王の弟だそうだ。


「なるほど。財もある、伴侶もある。無いのは、爵位くらいか?」


「お断りします!」


俺は全力で拒否した。

爵位なんていらねぇ!


「そ、そうか・・・。」


俺の全身全霊を掛けた返答にたじろぐ国王。


「ええ。そもそも、ダンジョン攻略も、別に褒美が欲しくてやった訳では無いので。ですので、褒美など頂く訳にはいきません。」


よし!

今俺は、ハッキリと断る事が出来た自分自身を褒めてやりたい。


「それはならん!それは、国としての面子に関わる。」


しかし、逆に断られた。


「面子ですか?」


「ああ。ダンジョン初踏破と言うのは、全ての冒険者の夢だ。それは国にとっても利のある事なのだ。その夢を最初に叶えた者に、利を受ける国が褒美を出さなかったとなれば、冒険者達は国から去って行くであろう。その様な前例を作る訳にはいかん。欲しい物が無いのであれば、少なくとも報奨金くらいは受け取って貰わねば困る。」


なるほど。国も色々と大変なんだな。


「なら、それでお願いします。」


「わかった。では後程、報奨金を手渡すとしよう。」


やっと終わったよ。

やっと帰れるよ!

そう思ったのも束の間、キャサリンが横から口を開く。


「タクヤ君?何か忘れてるんじゃないかしらん?」


ん?

忘れてる?

俺は頭をフル回転させる。

そして思い出す。


「あ、思い出した。でも、どうすれば?」


直ぐに出してもいい物なのか悩む。


「んっもう。仕方が無い子ね。とりあえず出しなさい。」


「お、おう。」


キャサリンに言われるまま、何の気なしに俺はストレージから例のアレを取り出す。

そして、その瞬間をバッチリと見られる。


「い、今何処から取り出したのだ!」


慌てる国王。

シマッた!と慌てる俺。

ドヤ顔のキャサリン。

何故、ドヤ顔?


「タクヤ君はね、珍しいアイテムボックスのスキル持ちなのよん。容量はそこまで大きくは無いけどねん。」


アイテムボックス?

俺は一瞬首を傾げたが、キャサリンがバチコーンとウィンクの様な目配せをしてくる。それで理解した俺は、キャサリンの言葉に乗っかる。


「そ、そうなんですよ。多少の物なら入れられるんです。」


「ほう、アイテムボックスとな。それは珍しいな。して、それは?」


国王は俺の持つ箱に興味が移ったようだ。

この箱はキャサリンが準備してくれた物なのだが、宝箱の様な形の箱でしっかりと封がしてある。


「こ、これは・・・」


「これはねん。アンタたちに中々子供が出来ないからってタクヤ君に伝えたら、「ダンジョンの宝箱から出た貴重な薬を国王に差し上げたい」って言うもんだから持って来たのよん。効果はギルドで鑑定済み。鑑定書も付いているわ。」


俺はキャサリンの言葉の後に、箱を机の上に置く。

国王はその箱を手に取り封を開けて中を見る。

一緒に同梱されている鑑定書を見た国王の顔が、見る見る間に喜びに満ちた顔へと変貌する。


「こ、これを私にくれると言うのか!?」


国王は鑑定書を王妃に渡しながらそう言って来る。

そして、鑑定書を見た王妃は顔を赤らめる。


「え、ええ。よろしければお納め下さい。」


「何と、殊勝な男よ!気に入った!」


何が気に入られたのかは分からないが、とりあえず喜んでくれたのでいいとしよう。

ちなみに、使い方は鑑定の際に分かっているので、鑑定書にしかりと書いてあるそうだ。これで子供を授かれば、この国も安泰になるはずだ。


その後、「報奨金を準備するのに時間が掛かるから。」と言われた俺は、一旦城を出て宿へと戻った。準備が出来次第、城から連絡が来るらしい。

後、宿代も国が支払ってくれることになり、宿に戻ったら代金を返金された。


つか報奨金を準備するのに、そんなに時間が掛かるのか?

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