第30話
サーヤの眠る部屋で四人は何やら神妙な顔で話をしていた。
「だからさぁ。とにかく東へ行けばいいんだろう? そこに闇の帝王が待っている。そいつを倒せば万事まるく治まるってわけだろ」
ジュペはそう言って早急に解決しようとした。
「そんなに簡単なことではありません。僕たちはこの旅をすることによって、帝王を倒すための知力、体力、精神力。そして仲間を信じる力を身につけなければならないのです」
「しかし、そんな悠長なこと言っている暇はないんじゃないのか? お前だって先を急いでいたじゃないか」
ヤマトの矛盾にすかさず切り込むジュペにヤマトは言った。
「ええ、旅は急いでいます。けれどもその旅の中で人と出会い、仲間と困難に立ち向かうことで力は身につくのです。僕がここでお知らせしたかったことは、皆さんには心構えが必要だということです。ゴドーは闇に対して怒りという負の感情を持っています。しかし、これは闇の策略です。負の感情は捨てなくてはなりません。あなたはサーヤさんを取り戻すために、彼女の悲しみを取り除かねばなりません。その方法はあなたが知っているはずです。残念ながら僕の力ではサーヤさんを救うことは出来ないのですから……。あなたは僕にない力を持っています。あなたの力は悲しみの闇を消し去ることが出来るはずです」
ゴドーはまったく表情を変えることはなかった。そしてまた、フンッと鼻を鳴らし、
「光の子は何でも知っている。お前の言うことに間違いなんてねぇ。そうだろ? 俺がサーヤを救う。とんだヒーローだぜ」
そう言いながらも、彼はまんざらでもなさそうだった。
「もう旅立たねばなりません。ここにいても何も変わらない」
そう言ってヤマトはゴドーの肩に手を置いた。
「ああ、そうだね。ゴドー、彼女にしばしの別れのあいさつをしたいだろう。私たちは外で待っている」
ジュペはシュリとヤマトより少し年上なだけあって、ゴドーの胸の内を察しているようだ。三人は外で待つことにした。何も話すことのできないサーヤに、ゴドーは何を語りかけているのだろうか? しばらくしてゴドーが出てきて、
「さあ、行こうじゃないか」
と言って、東へ向かって歩き出した。三人はゴドーを追うように、光り輝くクリスタの街をあとにして歩き始めた。
クリスタの街から東の方角には西側と同じような広漠地帯があり、その向こうの地平線は深緑色の帯があるように見える。きっとそこには森が広がっているのだろう。
「お前ら、知っているか? あそこに見える森がどんなところか」
ゴドーは後ろを歩く三人を振り返ることなく聞いた。三人は顔を見合わせ、首を振った。
「知らないね。あの森には何があるっていうんだ?」
ジュペが聞くと、
「あれは魔女の森。いったん入ったら二度と出られないっていう噂だ。俺もまだ入ったことがねぇから、その噂が本当かは分からねぇ。まっ、このままいけば、あれを避けることは出来ねぇな。しかし、こっちには光の子がいる。もしかしたら、難なく森を抜けられるかもしれねぇ」
そう言ってゴドーはけっけと笑った。この話に怖気づいているのは、シュリ一人だけだった。彼の表情は曇り、不安でしょうがないというふうだ。
「シュリ、ゴドーはわざと怖がらせているだけだ。魔女なんているわけがないじゃないか。そんなのはただの迷信だ。そうだろ、ヤマト」
「魔女ですか。僕はまだ出会ったことはありませんが、たぶんいると思います。あの森には誰かがいます。それが魔女なのかまでは分かりませんが。あんな広い森の中にたった一人でいるというのは気になりますね」
ヤマトの言うことに、シュリはピクリと反応した。ヤマトがそう言うならば、それが真実だから。あの森の中には確かに誰かがいるということなのだ。
「けっ、魔女ぐらいで怯えてたんじゃ、先に進めねぇよ。俺は行くぜ」
そう言ってゴドーは杖を一振りした。すると、そこには小さな風の渦ができた。彼はその風にひょいと乗って、森の方へと飛び去った。
「あいつはチームプレーが苦手なようだ。私たちも先を急ごう。シュリ、一国の王子たるもの、勇気をもって行動しなければならない。たとえ行く先に魔女が待ち構えていようともな」
ジュペはそう言ってシュリの肩をポンと叩いた。
「わたしが怯えているとでも思ったのか? 魔女が現れようと、ドラゴンが現れようとわたしのこの剣で一太刀にしてくれる」
そう言って、シュリは剣を鞘から引き抜いて空を切った。
「それでこそ光の勇者だ」
ジュペは彼をうまくのせたようだ。これで何とか先に進めるだろう。三人は森へと向かって足を速めた。日が高くなる頃ようやく森にたどり着いた。先に行ったゴドーはどこにいるのやら姿は見えない。
「ゴドーのやつ、もしかしたら、この森も飛び越えて行ったんじゃないだろうか?」
「それはないと思います。この森には何か目に見えない力を感じます。飛び越えるなんて無理です」
「お前が感じ取った力というのはどんあものだ?」
「闇……。もしかしたら違うのかもしれませんが、それによく似た感じのものです。負の感情の塊のようなもの。この森がこんなに暗いのもそのせいです」
「じゃ、ここにいる魔女ってのは闇と関係があるのか?」
「ええ、そうだと思います。ただ、その魔女と呼ばれる人もまた、向こうの世界とつながっているのかもしれません。闇を討つのは思ったより厄介なことのようです」
ヤマトの言ったその言葉に、二人はしばらく口をつぐんだ。闇が生まれるわけ。それは二つの世界をつないでいる人たちの心の闇が溢れてしまったから。向こうの世界の住民は何か大きな負の力によって心を病んでしまっているのだ。
『そうか、ヤマトたちの言っている向こうの世界というのは僕の世界の事なんだ』
心にモヤモヤとしていたものがふっと取り払われて、僕は思わず声を上げてしまった。
「誰? 今、誰かの声を聞いたような気がしたのですが」
ヤマトがジュペとシュリの顔を交互に見た。
「いや、私は何も言っていない」
「わたしも。声なんて聞こえなかったよ」
怪訝な表情の二人に、ヤマトも小首をかしげた。
「そうですか。きっと、空耳でしょう。さあ、ゴドーを探しましょう。あちらの方に彼の光を感じます」
そう言って何事もなかったようにヤマトはこの暗い森を歩き出した。二人は顔を見合わせ、肩をすくめた。不思議な声のことが気になっているのだろう。
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