17.『転移・虚空』
朝になり、水を浴びて支度をした。
結局昨日の晩はあまり収穫が無かった。
せっかく条件の糸口を見つけたのに、あの後すぐ、物体を引き寄せることはできなくなった。
ウィズと握手をした・触れた後すぐでなければできないのだろうか。
これは彼女のスキルの影響なのか。
女性に触れたからなのか。
ウィズだからなのか。
色々考えたが当のウィズが居なければ検証は進まない。
おれは諦めて家を建てる木材の確保に向かうことにした。
「おお、キョウシロウ。朝から行くのか?」
「ああ、早い方が魔獣に邪魔されないからな」
「そうか、よし、ちょっと待ってろ」
なんだろ?
しばらくするとバルトが装備を整え戻って来た。
「行くか」
「いや、え、行くの?」
「当たり前だ。お前一人で村を出せるわけないだろ」
「いや、別にいいじゃん」
「良くない。おれの立場を考えろ」
ああ、おれって村長の客人なんだっけ。
でも、『転移』行かないと半日以上無駄になる。バルトは『転移』できないしな。
ん? 本当にそうか?
生物に触れている間、自分と生物の転移はできない。
でも、普通に生物を転移させるのはまだ試して無かった。
いやいや、バルトでいきなり試すわけにはいかないだろ。
「ちょっと待ってて」
バルトの家の裏に、家畜がいる。
よく知らないが鱗のある二本足の獣。
ダチョウと爬虫類の中間みたいな。
騎獣かもしれない。
コイツならバルトと同じぐらいの体重だろう。
試してみた。
魔力を注ぐ。
すると、ゴワゴワと騎獣が鳴き始めた。警戒されている?
だめか。魔力が途中で直接注げなくなる。
もしかして、生物に触れている時物体しか転移できないのは、魔力の有無か。
よく考えろ、今までおれが転移させてきたもの。
それらに魔力は無かったか?
いや、あった。
霊薬と魔力回復薬。
あれらは高濃度の魔力の水が素になっている。
保管庫から何度も転移している。
それにモンスターベアの体内にあった魔石。
クレーターに移動するためにおれは『部分転移』を使った。
じゃあ、魔力は関係ないのか。
「おい、なんだ、そいつにちょっかい出すなよ?」
騎獣は落ち着いたのかチロチロと瓶の水を飲んでいる。
「‥‥‥そうか!!」
おれは魔力回復薬を取り出した。
「それって、霊薬とは違うやつだよな」
地面に置いて、『転移』を発動する。
移動した。
次に蓋を開けて試す。
「何しているんだ、こぼれるぞ?」
やはり、できなくなった。
液体に魔力が触れるのはダメなんだ。
おれが今まで転移で来ていたのは瓶で蓋もされていたから。
魔石は身体に入ったままだったから。
途中で魔力が注げなくなるのはフォースフィールドの展開のタイミングで魔力が干渉するからだ。
確かめよう。フォースフィールドのタイミングで自分に魔力を込める『転移』。
ガラスと液体がバラバラになって現れた。
つまり、フォースフィールドの保護を考えなければ普通に転移できてしまう。
「ヤバいな」
「高価なもので実験するなよ」
違う。
これは生物を対象にしたら‥‥‥
ひょとしておれは悪魔の発見をしちゃったんじゃない?
気のせい、気のせい!
もう一度試す。今度は割らない。
フォースフィールドをガラス瓶ではなく、もっと外側で覆う。
自分が転移する時のようにちょっと余裕を持たせ、ガラスを覆う大気を覆うイメージ。
「できた‥‥‥」
蓋を開けた状態でもできた。
おれは騎獣に目を向けた。
「ちょっと待て、何か試しているようだがあいつはダメだぞ!! おれの戦友だ!!」
バルトが動くなよと言って隣の家から食用と思われる小さな獣を持って来た。
獣そのものはやはりできない。
獣の周囲を覆うイメージで魔力を注ぐ。
「できた」
今まで、フォースフィールドで覆う感覚は目視だったが、感覚を掴んだ。
そうか、転移させられるのは生物でも物質でもない。
魔力を注いだものはなんでも転移できる。
フォースフィールドで覆ったときのみ安全に空間そのものを転移しているんだ。
小石や砂を使って工夫する間でも無く、何もない空間に魔力を込めればテレショックもフォースフィールドも使える。
これは大きな発見だ。
小石を拾ったり、砂を手に取ったり、物を『転移』するより行動が一個減る。
それに対象が空間なら‥‥‥
「さぁ、行こうぜ」
「いや、なんか不安だな。お前のスキルって荒らし喰をバラバラにした――」
「『転移・虚空』!」
フォースフィールドがおれとバルトを囲い、空間の壁を超えた。
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