桜の騎士の恋①






「ま、待ってよロロ~…」


神子としてこの世界にやって来たセツは。

世界を守るため、毎日ヴィンとお勉強や魔法の訓練をしていて。


そのせいでっていうか…元々、運動不足もあって。

こないだ気分転換にって、ボクとジーナとで追かけっこしてたら…相当キツかそうにしてたんだ。





セツは向こうの世界でまともな鍛錬なんて、したことなかったらしいから。

ちょっと林の中を走っただけで、思いっきりコケちゃって…。


年下のボクらにも全然敵わなかったものだから。

その後メチャクチャへこんじゃってたんだけど。




神子の役目もあるし、少しは体も鍛えなきゃって。

それからは勉強だけでなく、たまにこうして、ボクらの練習に混ざるようになったんだよね。







「セツ、ごめん。ちょっと早過ぎたよね。」


「や…オレこそっ、遅くて…ごめっ…ハァッ…」


ゆっくり走ったつもりだったけど、セツにはまだまだキツかったみたい。気付いたら随分差が出来ちゃってて。


ボクが慌てて駆け寄ると、セツはその場にへたり込んでしまった。







「はぁ~…情けないなオレっ…年下のロロにっ、全く歯が立たないなんて…」


ガックリと膝を付き、肩で息をするセツは。

そう言って、しょんぼりしてしまう。


だからボクは、苦笑しながらも。

その背を優しく擦ってあげたんだ。







「仕方ないよ、ボクらは騎士なんだから。」


そう、ボクやジーナはルーファス達に比べたら、まだまだ子どもだけど。守護騎士になる前は、かなり成績も良かったから。


こう見えて階級も、結構上の方だったんだよ?





そもそもセツの世界とは、文明も何もかもが違うんだし。

いくらセツが年上でもさ。

守護騎士が、護るべき神子相手に…おいそれと負けるわけには、いかないと思うんだよね。






「解ってるけどさぁ~…」


悔しそうに唇を尖らせるセツ。

こう見えてセツは、20歳以上らしいからびっくり。

拗ねた表情とか、あんなに可愛いのに。


不思議だよねぇ?






「けどさあ、ロロ達も相当苦労してんだろ?沢山の騎士の中から、守護騎士に選ばれたんだし。」


「そりゃあね。騎士を目指す人は大体、守護騎士に憧れて上を目指してるから。」


最初はこんな見た目でバカにされたり、からかわれたりしたけど。

そこは実力で挽回したっていうか。


今では子どもだからって、舐められるようなことも少なくなってた。







「オレもさ。たくさん修業したら、ロロ達みたく強くなれるかなぁ~?」


「え!?…セツが修業するの?」


セツが修業とか…今の様子だと、相当頑張らないと無理な気もするけど。


万が一、守護騎士並みに強くなっちゃったとして。

そうなったら、ボクらなんて要らなくなるんじゃあ──…






「そんなのダメダメっ!セツは今のままがいいよ~!」


「ええ~…でもさ、それなりに鍛えといた方が良いと思うけど…。」


そうすれば、いざって時にみんなに迷惑掛けなくて済むし…って。


確かにその通りだけどさ!







「でも、やっぱりダメだよ!セツを護るのが、ボクの使命なんだから!」


必死になってセツに縋り寄れば。

セツは、困ったように笑う。






「ボク、セツの傍にいたい…ちゃんと護りたいんだよ…。」


そのためなら、修業だってなんだって頑張れるよ?

最初は単純に神子のためだって、思ってたけど…。






「セツだから、護りたいんだ。」


「ロロ…」


ギュッとセツの袖を掴めば、セツは慰めるみたく頭を撫でてくれて。

堪らずボクは、大好きなその胸を抱き締める。






「ボクはもっと強くなるよ?体もルー達に負けないくらい、大っきくなってさ。守護騎士として、必ずセツを護ってみせるんだから…」


「ん、そっか…」


なら安心だなって、セツは嬉しそうに微笑む。





「ロロ達が守ってくれるなら、オレも神子として頑張れるよ。」


背中は預けたからなって。

言ってセツは、ボクの頭をヨシヨシって…優しく撫でてくれるんだ。



セツのこの笑顔が、いちばん大好き。






「けど、ロロまでルーファスみたくなっちゃうのかな~。ジーナにも、なんか似たようなこと言われた気がするし…。」


そしたらオレが一番小さくなるなって。

先の姿を想像したのか、セツは忙しくも苦笑交じりに溜め息を吐く。






「今はこんなだけどね。ボクだってルーファスに負けないくらい、カッコイイ大人な男になってみせるんだから!」


だから、





「覚悟しといてね、セツ?」


「ひゃっ…」


不意打ちにチュッてセツのほっぺに、キスをする。





「ロロッ!!お前ソレ抜け駆けだぞ~!」


タイミング悪く、向こうからやって来たジーナとルーファスに見つかっちゃったけど。



好きなんだから、しょーがないよね?






「えへへ~セツの初ほっぺちゅー、いっただき~!」


「もう…こういうの、ルーファスがうるさいんだからな?」


けどセツは優しいから。

笑って許してくれるでしょ?



そういうトコも、





「だって好きなんだもん~!」


「はは、オレも好きだよ。」


「セ、セツ!そ、それは本気なのか…!?」


わかってるよ、それがボクとは違うものだって。


でも今は良いんだ。






(負けないんだから…)


例え勝ち目が無くても、叶わぬ想いだとしても。





「好き好き~だーい好き~!ボクら両想いだね~セツ!」


「あはは、そうだな~!」


「…さすがにあのノリには、ルーファスも敵わねぇな…。」


「むむ…」


ライバルはみ~んな強敵ばっかり。

それこそ1番のラスボスは…

フェレスティナ屈指の、最強騎士様なんだから。



モタモタしてたら、





「汗掻いたし、一緒に風呂でも入ろっか?」


「入る入る~背中流しッコとかしようよ~!」


『風、呂…だと…!?』



セツのいちばん、ボクがぜーんぶ頂いちゃうからね?



…end.

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