【RADIUS≪ラディウス≫】フォルトゥナとたつ

ネヤタニ

プロローグ

 青い空にたなびく雲にも見紛みまがうそれは、超高速で飛ぶ巨大な人型だった。

 地球の上空に向かって飛んでゆく白の機体には、一人の若者が乗っていた。

 少年と青年の狭間の彼を、あえて少年と呼ぼう。

 少年が、全長二十メートルの硬質の体で、目指すは宇宙。

 その先へ。



 少年が目指すその星は、遥か遠く彼方かなたに煌めいている。

 一等明るく、一等大きく、一等燦然さんぜんと輝いている。

 少年はそれを、その目で確認したわけではなかった。

 しかし、確かに知っていた。

 自分の身内みうちから〈声〉がする。

 その声が知らしめる。その星の存在を。そこで待つただ一人を。

「俺はここだ」――と。





 やがて少年と人型は、その星を視認出来る地点に到達した。迷うこともなく、すんなりと。一目ひとめ見れば、すぐにそれだと分かった。

 人の身に比べればあまりに大きな人型でさえ、その星と比較すれば、人間から見た米粒ほどでしかなかった。

 少年は、コックピット内部のモニター越しの自分の視界が、その星の体でいっぱいになってしまってから、やっと人型を停止させた。

 少年は星と対峙した。自分の感覚で、近すぎず遠すぎない距離を保って。



 少年は少し考えた。地球の時間にして数秒の間。

 白い機体の全身が、煌々と発光を始める。

 真っ暗なそらに浮かび、その輝きを増していくさんざめく光。

 そのさまはまるで、新しい星が誕生し、また燃え尽きるときのよう。

 白の機体の輪郭が、あまりのまばゆさに曖昧になる頃。

 その右腕は一際ひときわ強く、激しく光り輝いた。



 瞬きの合間、少年は思いを馳せた。その星のどこかにいだかれた、たった一人の友達に。



 閃光が走った。稲妻の如く、その星に炸裂した。

 ここが地球だったなら、轟く爆発音に耳がしばらく使い物にならなくなったかもしれない。

 代わりに〈声〉がした。その響きは少年の全身を貫いて、細胞の一つ一つを震わせた。



 少年の瞳は煌めいた。

 その胸に覚えたのは変わらぬ思い。

 少年は高揚していた。闘争を目の前にして、心臓の鼓動を高鳴らせた。

 ――あんなに寂しかったのに。

 少年は少しだけ笑った。こんな自分が可笑おかしかった。でも、同時に嬉しいとも思えるのは、今こんな風に胸躍らせているのが、自分だけではないと分かっているからだった。

「随分と待たせて悪かった。……でもそれは俺もおんなじだから、文句はなしな」

 笑顔のままに口にしたそれは、詫びるというより、待ちに待って焦がれてやっと、というような、そんな雰囲気だった。





 ――そう。随分と待った。俺もお前も。

 少年は思い出す。自分たちが初めて出会った日のことや、その前のことや、その後のことなど色々と。

(お前はどうかな。……どうだったのかな。……聞かせてくれよ。なあ)

 瞼の裏に、一度ひとたび光が瞬いた。

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