エルの裏切りとリリアの期待
数日後、朝の食事は毎日一緒にとるよう言われていたのにエルナンドの姿が見えない。
侍女のマチルダが様子を見に行くと言ったがリリア自らエルナンドの部屋を訪ねた。
「エルナンド様は昨夜お出かけされていまして、まだお休みのようです。」
とエルナンドの執事が言う。
「昨夜?」
エルナンドは、リリアを連れずに夜度々出かけていたのであった。そんなことはリリア以外は皆知っているのである。
「さ、戻りましょう リリア様」
カチャ
中から扉が開いた。
寝ぼけた様子で目をこするエルナンドに執事もマチルダもどぎまぎする。
リリアは「おはよう エル」と爽やかに挨拶をしてみせた。
「あ、おはよう リリア どうしたの?」
「朝のお食事に居ないから気になって迎えに来……」
開いた扉の奥に、ベッドからぬくっと起き上がった金髪の長い髪を揺らす女がガウンを素肌にさっと羽織るのが見え、言葉を言い切ら無いうちに扉がパタリとしまった。
「……あれは」
その場に立ったままのリリアをマチルダは連れ、食事の間に向かう。
椅子に落ちるようにぽつんと座ったリリアには悪巧みや復讐心が燃え上がる様子は見られない。
「リリア様、すいません。エルナンド様はあのような習慣がありまして」
「……習慣」
そう言ったリリアは小さく笑った。
「ふふ そう」
(あんなのを見たのに、大してショックじゃない。フィリップ様が私に怒ったり冷たくした日の方がよっぽど……。だけどエルに好かれようとしてる自分が……馬鹿らしいわ)
そこへやって来たエルナンド。大して悪びれる様子も無く、何かを期待してリリアに呼びかける。
「リリア」
「エル いただきましょう」と平然としたリリアに不満げなエルナンドは、席につかず立ったままであった。
「怒らないの?」
と黒い瞳を、じっと向ける。
「怒るべきかしら?」と嘲笑うように視線を向けないリリアに苛立つエルナンド。
「……今、笑ったね?」
「いいえ まさか」
「僕のことなんて愛してないんだ。どうでもいいんでしょ。君が僕を不安にするから、あんなことさせるんだ」
「…………」
リリアは溜息とまではいかないが、鼻から深い息を吐く。
「抱きしめてよ」
「…………」
「僕をぎゅっと抱きしめてよ」
ゆっくりと腰を上げ、立ち、エルナンドを抱きしめたリリア。その冷え切った目は扉の横で立つレオナルドの目と視線がぶつかる。
いつから居たのか分からない彼は口をにっと横に伸ばし眉を上げ下げし席についた。
「おはよう。ブラザー達 朝からお熱いね」
そこへ、朝からハイテンションなビオラ王女もやって来た。
「ヴァロリアから今度お客様達来るわよ〜楽しみたわっ。どこ見せようかしら!やっぱり闘牛?コロシアム?んー」
「ビオラ様、ビオラ様 空気!読んで」とブレンダが注意する。
「なに?うち誰か死んだっけ?」
「二人が痴話喧嘩したみたいだな。ヴァロリアから誰くんの?」
「えっとね、フィリップ王太子とロザリーヌを招待したらまあ、ダミアン騎士からメリア騎士からあと、あの三つ編みそばかすのメイドと〜、あ、忘れちゃいけないキュートなアンリー王子が来るわよ」
「総出かよ。」
「リリア、言いわよね?ちゃんと会えるかしら?」
「ええ もちろん」
エルナンドの顔色を伺う様子なく答えたリリアに違和感を感じるビオラであった。
「きっと、バミリオンに来てまで死刑だ!とは騒がないはずよ。」
「エル、顔色悪いけど。大丈夫か?」とレオナルドが聞くも
「あなたに心配される事は何もない」とリリアを睨みながら返事をしたのだった。
泣きついて私だけを見てとでも言われたかったのだろう。しかし、浮気を問い詰めもせずヴァロリアの話に少し気分が良さそうなリリアを許せないのだ。
食後にビオラは、レオナルドとテラスで朝からワインを飲む。
「あれ、問題かしらね……」
「ああ 多分ね 怪物と怪物の結婚だ。この国終わるな」
「はあ」
「どうする?まっ俺には関係ないけど。フィリップ王太子に返品したら?」
「返品??」
「ああ、エルが怒るか……じゃあさ、俺がリリア寝取るか」
「何をっ!!」
「はははは」
リリアは部屋でドレスを見回す。
手に触れるドレス一着一着にフィリップの思い出が浮かぶ。
(私ったら……何を浮かれて.....私は捨てられたんじゃない。せっかく愛されるはずだった自分の心を踏みにじったの。自分で……。)
コンコンコン
扉を開けると、虚ろげに立つエルナンドがいた。
「エル 何か?」
「…………。」
何も言わないエルナンドに背を向けたリリア。
背後から抱きついたエルナンドは抑揚がない消えそうな声を出す。
「そんなに嬉しい?そんなに楽しみ?……ドレス 選んでたの?」
「いえ」
「どうしたの。僕の愛で満たしてあげるって言ったのに。悪い子にまたなるの?」
「…………」
エルナンドの手がリリアの体を撫でる、その度にリリアはゾッとする。
(無理…………やっぱり私 この人…………無理)
ベッドにリリアを押し倒すエルナンド
「なにその目 僕の嫌いな顔だね」
腹を立てたエルナンドは、いつも身に着けているゴツゴツとした鎧のような指輪の尖った先でリリアの腕を引っ掻く。
「痛い?傷ついちゃうよ きれいな肌に」とぐいっと腕を掴まれる。
リリアはジロリと睨む。
泣きも喚きもしないのである。
「相変わらず気が強いね。まだ足りない?」
この日から
そんないたぶりというより、既に暴力とよべる仕打ちを受けリリアはどんどん心が荒んでいった。
腕にはレースのグローブをするか、長袖のボレロを纏うことが増えていた。
◇◇◇
一週間後
テラスに足を投げ上げ、本を読むレオナルドの隣にリリアがぼーっと立ち外を眺めていたある昼下り。
「まだ 耐える気?」
本から視線を離さずに金髪をかきあげながらレオナルドが問う。
「何をですか」
「言わせる?その腕のこと。他の部分は脱がせなきゃ分かんないけど。」
「ああ」
「そこまでしてこの国で上り詰めたい?」
「いえ。そんな気はありません。」
「そう、じゃ待ってんの?ヴァロリアの御一行を」
「……いえ。私なんて向ける顔がありません」
「そうだろうな。見つかるといいね 顔向けられる場所」
「…………」
パタリと本を閉じたレオナルドは、そのまま知らぬ顔でリリアの横を素通りし立ち去った。
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