ビオラ王女のご到着
「ダミアン、悪かった……。」
フィリップ王太子は直々に謝罪したのだ。
騎士団作戦会議の間で、王太子、第二王子、パルル第二王子、騎士団長、騎士二名、執事一名、元王女とメイドが集まっている。
戦時下でもない、異例の恋煩いの会議であった。
「いえ、大丈夫です。しかしロザリーとの婚約は解消しません。」
「……私から提案だ。婚約式は一年後、この一年はロザリーには王都の教育、貧困対策を担う者として宮殿に居住して欲しい。ダミアン、今まで通り騎士としてここに……居てもらう。正式な婚約は一年以内は認めない。」
フィリップはロザリーヌの元兄として、保護者のように言うのであった。周りは少々おかしいのでは?と混乱するが、とりあえず皆静かに二人のやり取りを聞いている。
フィリップも精一杯譲っているつもりである。
「では、私はロザリーの専属騎士も希望します。」
とダミアンは力強く言う。
「ん……ではメリア騎士と二人で頼む」
どうやら、交渉成立である。
本当は直ぐにでも結婚してしまいたいダミアンだが、フィリップと争わずロザリーヌの志を尊重する為、一年という提案を呑んだのだ。事実王都の改革はアンリーと共にロザリーヌが動くのが確実である。
反対され追放されれば、ただの駆け落ちである。そんな結末はダミアンは望んではいなかった。
宮殿に戻り、フィリップはロザリーヌの部屋を訪ねる。
コンコンコン
「ロザリー、怒っているか……」
「はい。怒っています」
「すまない。もうあんなことはしない」
「なんですかっ。まだ用がありますか?ここに一年住んでダミアンとは一年後に結婚します。それで話は決まりましたでしょ。」
「ロザリー、私にこの一年チャンスをくれ」
「……チャンス?」
「もし、一年で私に心が動けば私のものになってくれ」
「……動かない」
「分からないだろ。一年前ロザリー、君はダミアンにだって嫌われていた王女だ。私はリリアを大事に思っていた。それが一年後これだ。」
しかし、一年のうちにロザリーヌは人が変わっているのである。この先の一年では大して変わることも無いようだが。フィリップは真剣であった。
「はあ……」ため息を落としたロザリーヌをぎゅっと抱きしめ
「そんなに嫌わないでくれ。かわいいロザリー」
「可愛くなんてない……その、これ毎回やめてください」
「これって?」
「これです。」
「どれ?」
「ぎゅっとするこれです!!」
ロザリーヌの困った顔を嬉しそうに見て去っていく。
全く意地悪ロザリーヌの効力は発揮されないようだ。
◇◇◇
それから数日後
見慣れない馬車が宮殿の中へ入り並んだ。
金色の縁取りに赤の鳥を描いた派手な馬車。
騎士団が人の壁を作り警戒する中、一人の男が書状を持ち差し出した。
それは西国バミリオンの王より、我が娘 王女ビオラをフィリップ王太子の婚約者に是非との内容である。
それを確認し、そのままフィリップの部屋へと急ぐマシュー団長。王女ビオラを馬車に待たせてたままである。
書状を見たフィリップは、言葉を失う。
押しかけ女房など要らないと、眉間にしわを寄せる。
「ここがヴァロリア?へー美しい庭に、白い城。お上品な国ね〜ああ、疲れた」
と馬車から降り立ちぐーっと背伸びをした黄色いドレスに身を包んだビオラ王女。
ダークブラウンの髪は細かなクルクルにスパイラルしたロングヘア、天然である。真っ黒な瞳に褐色の肌。少々ふくよかで、高い鼻と大きく真っ赤に塗られた唇、その堂々とした仕草には貫禄がある。
西の国バミリオンでは行き遅れ王女、二十七歳なのだ。
先に走り出てきたのはアンリー第二王子、営業スマイルをきらりと光らせる。
「初めまして。ビオラ王女。私はアンリー、ヴァロリアの第二王子です」
「初めまして アンリー王子。まあなんて愛らしい美しい王子!」
足取り重くフィリップもやって来た。
「初めまして、私が王太子 フィリップです」
「あなたが、フィリップ王太子……」と呟き、ため息混じりに挨拶をする。
「私はビオラよ。疲れたので休ませて下さるかしら」
「ええ、では貴賓室へ」
もうひと部屋の貴賓室から出てばったりと王女御一行に出くわしたシモン王子にビオラは足を止めた。
「あら?あなたも王子?」
「へ あ、はい?私は、あ 南の国パルルのシモンです。あ 第二王子です」
「あなた 大丈夫?その話し方。私はビオラよ。宜しくね。シモン王子」
フィリップは改めて晩餐にビオラを呼ぶことにし、一旦退散する。
「嫌だわあ。あの残念そうな反応っ。見たわよね〜ブレンダ」
「はい。それはビオラ様が歳だから」
と冷めた返事をするのはビオラの侍女ブレンダ。側近であり護衛も務めている。
「分かってるわよ!わざわざ言わないで。リリアったら私に何を望んでるのかしらね。話に聞いたより随分かわいい王子達じゃない。とてもじゃないけどリリアをいじめて追い出すようには見えないわあ」
「元王女のロザリーヌ様は?」
「あ、その子どこにいるのかしらね 会ってみたいわ。そう言えばここの国王は?死んだ?」
フィリップは王の執事、自身の執事と書斎にいた。
「明日、王族貴族が集まります。ビオラ王女との縁談、バミリオンとの国家交流について、摂政を置くと騒がれないためにもしっかりとした持論が必要です。フィリップ様」
「ああ、分かっている」
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