審議の時
フィリップ王太子は地下牢でロザリーヌに全ての経緯を改めて説明した。
「ロザリー……すまない。私が無力であった。あの時直ぐにリリアを罰するべきだった……」
ロザリーヌの牢の前に立つフィリップ王太子は、込み上げる怒りをを押し殺した声で言い、そして肩を落とした。
ロザリーヌは鉄格子に手をつき落ち着いた様子で語る。
「いいのです。お兄様は悪くないです。リリアの哀しみを理解してのことだったと……わかっています。そんなお兄様で、良かったと思います」
「何を言ってる!直ぐにここから出す……ロザリー」
その後、フィリップはリリアの部屋を訪ねた。
バーーーンッ
ノックもせず、勢いよくドアを開け放った。
「フィリップ様、フィリップ様 リリア様はまだ調子が……」
「それのどこが調子悪い?」
リリアは、医師の診断後すぐに毒を止め随分と元気になっていた。
急に咳込みまたベッドに座るリリアを冷めた眼差しで睨んだフィリップは、問い詰める。
「私が何故、黙っていたか。誘拐もパルルの奇襲も、シモン王子の睡眠薬も……何故リリア お前を罰さなかったか分かるか。」
「…………」
「まだ、お前を守りたかったからだ……信じたかったからだ……」
「…………」
「今回の毒、自分で口にしたな?」
守りたかった、信じたかった……という過去形が胸を突き刺し、自分のした悪事を少しは把握されていることは分かってはいたとは言え、いざフィリップに言葉にされると行き場のない動揺と後悔に涙が次から次へ溢れ出した。
「……まさか 王の命まで出るなんて思っていませんでした……。」
「では、毒は自分で飲みましたと証言するか」
「……はい」
「悪いが、信じられん」
「……信じて……私はあなたに振り向いてほしかった。もう一度愛されたかっただけなのです……」
「……審判より前に父上に言うなら、もう一度考え直そう」
「…………」
◇◇◇
その後 聴取や捜査の結果ダミアンとメリアは解放された。
リリアは王を何度も訪ね、やっと話を聞いてもらえた。
全て自分が計画し、嫉妬からここまで大事になるとは思わなかったと言ったのだ。
しかし王の思い込みが激しくなかなか曲げない性格が災いする。
「リリア、あなたはそのような事をする女性ではない。ロザリーヌに何か脅されたのだろう。大丈夫。全てはこの王である私に任せなさい。」
王はリリアを婚約者とはいえ、宮殿にまで住まわせるくらいである。直に王太子妃にさせると大変気に入っていたのだ。
ましてや王にはロザリーヌの変化など知る由もない。
ダミアンはロザリーヌの牢へ行くも審判までは王族以外の面会が許されなかった。
◇◇◇
審議の日
そこにはネイビーの控えめなドレスに身を包んだリリアと、病み上がりのリリアより疲れ切り、やつれたように見えるロザリーヌが離れた席で椅子に掛けて前を向いている。
ロザリーヌは拘束された時のまま地味なマルチーヌからもらったオフホワイトのワンピースドレスであった。
さらに後の席にはポルテ、キャシー、薬師のジュセリアが座る。
傍聴席には王族、公爵家の当主やその夫人、マシュー団長、ダミアン、メリアも居る。
壇上には王、その下にはフィリップ王太子、アンリー第二王子が座る。
ダミアンもメリアも心配の眼差しでロザリーヌを見つめている。
審判官の質問が始まった。
「それでは、薬師 ジュセリア。スズランのハーブを買いに来たメイドはこの中に居ますか?」
相変わらずバッチリの魔女化粧をした女性が前に出る。
「ええ。おりますとも。あの子よ」
と指さしたのはキャシーであった。
前へ呼ばれたキャシーは否定し涙ながら訴える。
「私はそのお店に行ったことすらございません。今日初めて知りました。
ロザリーヌ様は、毒を盛るなど決してしません。いつも人の為世の為を考えて……ご自分の事は後回しで……それに……」
「口を慎みなさい。」
そして、リリアの証言が始まった。
「私は、ロザリーヌ王女が以前とは人が変わったように振る舞い、まるで女神のようで不安を覚えました。……情けないことに女の嫉妬です。スズランの毒を混ぜたハーブティーは自分で口にしました……。
ポルテに舞踏会の夜 無人となったロザリーヌの部屋に隠すよう指示しました。
……全ては気が触れてしてしまったこと……自作自演です。」
それを聞いたロザリーヌは驚いて固まっていた。
同じく、キャシーもポルテも、魔女のような薬師も固まる。
「では、ロザリーヌ王女が今の証言を脅して言わせていない証拠はありますか?」
「なんだその質問は、そんな証拠どうやって出す!」
フィリップが叫ぶ。
「お静かに願います 王太子殿下」
審判官は王と何やら小声で話し出す。
「此度のリリア スチュアート毒殺未遂事件。
証拠不十分により未解決とする。ただしキャサリンウッドは釈放、王宮のメイドとしては継続して従事。
また、ロザリーヌ王女については、これまでのリリアスチュアート様に対する行いを踏まえ、王による審判が下るまで引き続き拘束する。」
「父上、リリアが計画した誘拐、襲撃事件はどう裁くのですか?!調書にかかれていますよね!」とアンリー王子が声を荒げた。
「それも証拠不十分だ。事実ロザリーヌはピンピンしておった。此度のリリアのように床に伏せてなどおらん。」と王は突っぱねるのだった。
「薬師の魔女!!ポルテが睡眠薬を第二王子に飲ませた事はどう説明する!」
「ダミアン騎士 発言権はない。静粛に」
それでもダミアンは続けた。
「私は誘拐犯から逃げ怪我をされたロザリーヌ王女をゲリアンの森で助けました。
ロザリーヌ様は決してリリア様を傷つけようとはしていません。それどころか体調が悪いと聞き、気遣っておられたのです。」
「…………」
どよめきが起こるが王も審判官も口を開かない。
「父上の独裁は認められません」とフィリップが言ったのを見て王が審判官に合図をした。
「では、ロザリーヌ王女 王による審判か、または
(え?審判と審判?王による審判?と審判……どうしよう。意味がわからない)
「あの、後者の審判とは何ですか?」
皆がざわつく。そんな事も知らないのかと王族、貴族は軽蔑の眼差しを向けた。
「神判は神によるジャッジです」
(神……どうやって)
困惑しているロザリーヌにフィリップらは気が気でない。
神判とは鉄の棒を熱したものを握らされ、神が無罪と認めれば熱さも感じず火傷も負わないという無茶苦茶な審判である。
当日神父がこっそり冷えた鉄の棒とすり替えれば無罪だろうが、どの神父がどういった立場で担うかなど分からないのだ。
神に仕えし者に偽りなどあってはならぬのに。
「父上 神による神判を施行するならば王太子である私も同じく、同じ鉄を握ることを宣言します」
(鉄?握る?!)
必死の思いで、我が身を差し出しての発言だったのだが、ロザリーヌには全く理解できない内容であった。
何を言っても無駄な理不尽な審議であった。
ロザリーヌは憔悴してはいるが、リリアの証言に気持ちだけは救われていた。
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