王都の視察後に罠??
(ここが王都。なんて可愛い街なの……ヨーロッパの小道みたいっ。それにしても こんな大行列……大迷惑でしょ)
小さな店が立ち並ぶ細い道、石畳のデコボコした道を一行は二列で行進する。護衛も引き連れまるでパレード状態であった。庶民たちも道の前に並び一行を見守る。
娘たちがキャーっとアンリー王子が手を振ると黄色い声を上げる。
「ったくアンリーは」と笑うフィリップの隣を歩いていたリリアは後のロザリーヌの隣に行く。
「ロザリーっどこか見たいお店はある?是非フィリップ様に何か買ってもらっては?」
すっかり優しく愛らしいプリンセスの振る舞いを見せる。
「あ うん……」
ロザリーヌの視線は狭い路地に向いていた。
店と店の間の路地で薄汚れた服を着た子がゴミに出されたカピカピのパンを取り出していた。
「あれは……」
「可哀想にね。物乞いや泥棒で働く子だわ。」
さらにその奥には売春宿の通りがある。
そちらに目を向けたロザリーヌの手を引いたのはアンリーだった。
「見なくていいものは見ないでよ」
ワクワクしたのは最初だけ、その後はゴマすり商人がフィリップに媚を売るだけの視察であった。
(何だ、この国は階級社会そのものなんだ。貧しい家に生まれ落ちるか、運悪く孤児になれば将来は閉ざされる……対する王族貴族はこんな調子なんて……)
ふと、ロザリーヌは自分の華やかな服や宝飾品が恥ずかしくなった。
そんなロザリーヌをよそに、また娘たちのキャーキャー声がする。振り返るとシモン王子がアンリー王子の真似をしたようであった。第二王子は手を振り愛想を振りまくものであると勘違いをしたのだろう。
帰り際、声をかけてきたどごぞの侯爵家当主と立ち話をするフィリップに皆足止めを食らっていた。
すると、一行の近くで迫力のある女性の声が響いた。
「小僧!あんたっ泥棒か。パンと交換したいだって!?やだよっそんな高そうな真珠あたしが泥棒扱いされるわ!」
ロザリーヌの腕にあったはずのパルルでもらったブレスレットが消えていた。空腹の少年はぶかぶかで盗りやすそうだった為盗みを働いたのだ。
「あ 先程僕が落としたのです。お 王女様へのプレゼントでして。拾ってくれてありがとう。代わりにパンをお礼しよう」
シモン王子は、注目されその場から動けない少年にブレスレットと引き換えに袋いっぱいのパンを買い与えた。
そのままロザリーヌの腕にブレスレットを着け直す。
「あ、ありがとうございます。」
(泥棒しちゃ駄目なんて言えないわよね だって腹ペコだもの……真珠よりパン そうよ真珠なんて彼には意味がない)
ロザリーヌはシモンと微笑み合う。
二人のやり取りを見ていたリリアは何やら目をキラリと輝かせたのだった。
◇◇◇
晩餐の後、リリアがロザリーヌに腕を組み歩いて部屋へ戻る途中、
「ねえロザリー 今夜パルルの話をシモン王子にもっと聞きたいわ」
「ああ そうね」
「じゃポルテに言って準備させるわ。お茶会をしましょう。三人で。ティールームならいいわよね。先に行ってて」
「あ うん」
シモン王子が泊まっているすぐ隣にあるソファが置かれた部屋がティールームである。
言われた通りそこへ向かい、誰も居ないソファに座る。
(わあ、ふっかふか。これ現代なら百万くらいかな……西園寺家のペルシャ絨毯より高そう……)
しかし待てども誰も来ない。
ロザリーヌはシモン王子の部屋をノックする。
応答がない。
(シモン王子には誰も付いてないのかな。あの執事さんは?!シモン王子居ないのかな……)
ドアノブに手をかけるとカチャッと開いた。
そこには椅子に座ったまま背を向けるシモン王子。
不気味な様子に恐る恐る足を踏み入れたたロザリーヌは声をかけた。
「すいません すいませーん シモン様 あ あの」
とカチャッとドアが閉まる。
近づくと紅茶を飲みかけで眠るシモン王子が
「……ん ガ」と小さないびきをかいた。
(え 寝てる……座ったままだし)
紅茶に何者かが眠り薬を入れたのだ。
だがロザリーヌは単に疲れて眠っていると思いそっと出ようとする。
ガチャガチャガチャガチャ
開かないのであった。
リリアは二人が結ばれたというシナリオを作り上げたいのである。ロザリーヌが夜這いしシモン王子が受け入れたと。
ガチャガチャする音に目を覚ましたシモンがロザリーヌの背後から
「あ あれ?どうしました?ロザリーヌ王女」
「…………」
その寝ぼけた美青年を前に、密室に二人きり、シモンの立つ奥にはベッド。ロザリーヌはことの重大さにあたふたする。
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