パルル襲撃
ガエル王太子は部屋に引きこもり不貞腐れて出てこない。
「腹を空かせればそのうちひょっこり出てくる」と王は気にしていないようだ。
「ロザリーヌ様 大変でしたがいよいよ明日ヴァロリアに帰れますね。あ!!」
「どうしたの?!キャシー」
「馬車はありますが、人がいません……」
「あ…… 」
ヴァロリアから同行したのは、キャシーだけであった。その地点で片道切符である事に気づくべきである。
まさか、女二人でゲリアンの森を馬車を引き通過するなど自殺行為。
急に屈伸運動をし、キャシーが大きな声を出す。
「行きますか 私が馬を走らせて」
「いやいや無理でしょ……」
コンコンコン
「あら どなたでしょう。まさかガエル様……」とキャシーが恐る恐るドアを開けた。
「あ、すいません。夜遅く。父上が僕も行けと……ヴァロリアで父上に代わり こ 交渉を……しろと」
とシモン王子が立ったまま話す。
「あ、シモン様 どうぞ中へ」
とキャシーはメイドに紅茶を頼みに飛び出していった。
「ああ、助かりました。シモン様と一緒なら帰れます」とロザリーヌはホッとしてみせた。
(でもこのシモン王子……あのヴァロリアのしっかりした王に、気の強そうなフィリップ王子と交渉なんて……大丈夫?!またあの森で奇襲が来たら……あぁ 不安 こわっ)
シモンは落ち着かない様子ですぐに部屋から出ていった。
彼のソワソワした態度は周囲まで不安にさせる。
心強いような心細いようなロザリーヌはまた荷物を詰め直すのであった。
(あ、この真珠の宝石もらったら駄目よね……どうしよう。)
なかなか戻って来ないキャシーが気になるロザリーヌは部屋から出る。
と、城の厨房前でキャシーと他のメイド達が剣を持った集団に囲まれていた。
「…………」
絶句するロザリーヌ。
(あれは……あの身なりはゲリアンの森の……え)
「ヴァロリアの王女はどこだ!!言わなければ1人ずつ首を飛ばすぞ!!」
「キャーッ」
剣を突きつけられたメイドが叫ぶ。
「わ 私がヴァロリアの王女よ」
とキャシーが声を裏返らせ名乗り出る。
(な 何言ってるの キャシー だめ 今すぐ私が……行かなければみんな殺される……)
ロザリーヌが意を決してそこへ向かう。
「はあ?王女はブロンドだろ 嘘ついたな お前お付きのメイドか」
「やめなさいっ。私よ。私がヴァロリアの王女 ロザリーヌ ヴァロン」
入口からパルルの兵も押し寄せる。
一斉に戦場と化す城。
厨房にいたスカラ族の者がロザリーヌを連れ去ろうと近づいた瞬間、前に立ちはだかったのは剣をもつシモン王子だった。
(うそ……む 無理でしょ 無理よ 騎士じゃなくて王子でしょ どっからその長ーい剣もってきたのー?!誰かーっ)
キ―――ン
鳴り響く剣の重なる音に目を閉じるロザリーヌ、足はガクガクに震えている。
しかし目を開けたロザリーヌが見たのは、勇ましく次々に敵を成敗していくシモン王子だった。
「…………」
シモン王子は、自身の精神の弱さをカバーするため騎士並みの訓練を受けていた。かつてあった奇襲でも何度も敵を返り討ちにした凄腕の剣士だった。
剣を持つと人が変わるようである。
彼は敵を切らず、首の後ろを打ったり腹を蹴る。それを他の騎士が縛り上げていく。
事なきを得、部屋へ戻るよう言われたロザリーヌ、この世界に来てからいくつかの災いを乗り越えているが、流石に目の前で繰り広げられたバトルにぎゅっとシフォンのドレスを掴んだまま放心状態であった。
拘束された者達は、城の庭に跪かされパルルの騎士に鞭を打たれている。
「なぜこのパルルを襲撃した?」
「…………」
「ロザリーヌ王女を探していたな?誰の指示だ?」
「…………」
「答えぬなら、ひとりずつ、首を落とす」
と、騎士が剣を振り上げ勢いよく振り下ろす瞬間
「あああーっ王太子……の」口を開いた者の頭ギリギリを掠めた。
「王太子のなんだ?早く言え!」
「こ 婚約者……婚約者のリリア スチュアート」
「…………」
その頃ロザリーヌとキャシーは部屋でまだ震えが止まらぬ様子である。キャシーも立場を忘れたのかロザリーヌとベッドに共に腰掛けていた。
コンコンコン
報告を受けたシモンがやって来た。
「はっ」と我に返ったキャシーが出迎える。
「だ 大丈夫ですか? お二人とも」
「ありがとうございます。あんなにお強いとは……意外 あ いえ 驚きました」
と答えるロザリーヌの隣でキャシーは目を輝かせた。
こんなに優しく強い王子はヴァロリアには居ないと。キャシーはロザリーヌに厳しく接する王子しか目にしたことがなかったからだ。
「あ 明日朝一番に出発しましょう。予定より兵を増やします。」
「……はい」
(あの襲撃してきた人達は私を探していた……誰が 私に懸賞金でもかかってるの?!シモン王子は何も言わない。知らないのかな……)
ガエル王太子は、騒ぎに恐怖を感じ結局一歩も外へ出ず完全に引きこもりとなっていた。
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