第10話 お家はもうすぐ

「大変だったねー。もうちょっとでナギと委員長、二人と対戦するところだったよ。私一人じゃさすがに敵わないもんね」

 エヘヘと苦笑いしながら話すミコト。振り落とされないように、ミコトの手をぎゅっと掴んでいるノエルは聞く余裕も話し返す余裕もなく、グッと歯を食い縛っている

「ノエル、どうしたの?大丈夫?」 

「降ろしてほしいんだけど……」

 足が浮いている状態が慣れないノエルが不安げに答えると、ミコトが足元を見て少し困った顔で返事をした

「えー?ノエル飛べないでしょ?地面に落ちちゃうよ」

「一緒に降りて!早く!」

「もー……。仕方ないなぁ」

 ノエルの叫び声を聞いて、はぁ。とため息ついて、ゆっくりと下りていくミコト。近くあった公園の広場に着くと、強く掴んでいたミコトの手をそーっと離すノエル。ちゃんと地面に着地した安堵からか、ふぅ。と深呼吸をした

「ノエル、飛行魔術得意だったんだよ。記憶が戻ったら、また一緒に飛べると良いんだけど……」

 しょんぼりとした声で話すミコト。その言葉をノエルは聞いていないのか、返事も振り向くことなく公園をボーッと見つめている

「……怒ってる?」

 恐る恐るノエルの顔を見ながら話しかけるミコト。急に視界に入ってきたミコトと、ほんの一瞬目があってすぐにプイッと顔を背けた

「怒ってない。早く帰りたいだけ」

「じゃあ、早く帰ろう!お家はもうすぐだから」

 グイッと手を引っ張り無理矢理ノエルを立たせると、バタバタと走り出した。そのままノエルを引っ張り続け公園を抜け、街の中も走り続けていく





「ここだよ!ここがノエルのお家!」

「えっ……ここ?」

「そうだよ。ここに長いこと住んでたよ。まだお部屋はあるから入ろう」

 大分走り続けた先にあった、学園から近くにある見知らぬ一軒家に着いた二人。ノエルが家を不安そうに見ていると、ミコトが家の鍵を開け中に入っていった

「ノエルもほら、早く入って」

 手招きをして呼ぶミコトに気づいて、慌てて駆け寄り、恐る恐る玄関の中に入ったノエル

「お邪魔します……」

 と、か細い声で玄関の中を見ていると、ミコトがバタンと勢いよく扉を閉めて、無造作に靴を脱ぎ捨て、うーんと背伸びをしながら家の中に入った

「ただいまー!朝から色々あって疲れたねぇ」

 家の廊下を歩くミコトを見て、また慌てて靴を脱ぎ揃えて後を追うと、ミコトが扉を開け広いリビングが現れた

「ノエル、あのソファーに座ってて」

 と言いながらミコトが指差したソファーに、リビングをキョロキョロと見渡しながら、そーっとソファーに座ると、ミコトがリビングの隣にあるキッチンで何やら探りはじめだした。カチャカチャと音が聞こえる中、ノエルが落ち着きなく、まだリビングを見渡していると、ミコトがお茶の入ったコップを持ってやって来た

「はい、どうぞ」

「……ありがとう」

 お茶を手渡されて、ゆっくりとお茶を飲んでいると、ミコトが向かいにあったソファーに座りお茶を飲み始めた。二人にのんびりとした時間が過ぎていると、お茶を一気飲みしたミコトが前にあったテーブルにコップを置くと、入り口とは違うノエルの近くにある扉を指差した

「そうそう、ノエルのお部屋はあっちだよ」

 と、指差す先を見るとノエルの後ろに扉があった

「……入っても良いの?」

 持っていたコップをぎゅっと強く掴みながら問いかけるノエル。すると、それを聞いたミコトがガタッと音を立てながらソファーから立ち上がると、ノエルの手を取り微笑んだ

「自分のお部屋だもの、もちろん入っても良いんだよ。もしかしたら、何か思い出すかもしれないから、一緒にお部屋に入ろう」

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