第17話 咲のお迎え

 学校の授業を全て終えた俺はホームルーム後すぐに保育園へと向かう。いつも16時40分にホームルームが終わり、それから咲の迎えに行くのだ。



 咲は保育園二年目だが、現在三歳である。


 両親がいた頃は二人が忙しいながら何とか育児休暇を取り育てていたが、咲が一歳半くらいになった時休暇を取れなくなった二人は咲を家に一人にすることなんてできないと、近くの保育園に預けることになった。

 そこの保育園には俺の家のように共働きなどで面倒を見ることができない場合に子どもを預かってくれる特別クラスがある。

 そして保育園に通える歳になったらその特別クラスは卒業となり保育園に入園という形になる。その後も変わりなく降園時間に迎えにくることができない場合は延長保育というものを用する。


 その特別クラスのおかげで両親と俺の心配は少しは減ったが、他の子がいるとはいえまだ幼い咲を一人にするのは心配だった。

 そんな時に両親が亡くなってしまった。

 咲は両親に満足に甘えることもできず、両親から愛されていてもその愛を十分に感じることもできないまま二人を失った。

 その時中学生だった俺は自分の時間をできる限り咲に費やすと決めた。両親の代わりになるために、咲を幸せにするために。

 習い事をやめ、友達と遊ぶのもやめ、できるだけ早く咲の迎えに行き咲と一緒にいる時間を増やしていった。

 そして時は経ち、俺が高校に入学する時くらいにそのクラスを卒業し、現在は年少のパンダ組にいる。


 まだまだ幼い咲に少しでも寂しい思いをさせないためにダッシュで向かう。


 保育園に着くとパンダ組の窓に張り付いてブサイクな顔になっている咲が待っていた。

 部屋に入ると先生に剥がされていた咲がものすごい勢いで突っ込んできた。


「おにーたーーーん!」


 俺は倒れることなくそれを受け止め抱きしめる。


「待たせたね。ちゃんといい子にしてたか?」


「うん! さきいいこだったよ」


 目をキラキラさせてなでなでを待つ咲の頭を撫でてやり、先生に挨拶をする。


「今日もありがとうございました。大丈夫でしたか?」


「ええ、今日もいい子にしていましたよ! 外での運動も頑張ってましたし」


「そうですか。それならよかったです」


 俺と先生は俺の胸に頭をぐりぐりして唸っている咲を見ながら微笑んでいた。


「咲、帰る準備しておいで」


「はーい!」


 咲がロッカーに向かって走って荷物を取りに行っている間に先生と話をする。


「あの咲が窓に張り付くのはやっぱりやめそうにないですか?」


「そうですね。何度言ってももうすぐお兄さんが来るからと張り付いてしまうんです」


 そう言いながら微笑む先生に俺は申し訳ないと苦笑いしてしまう。咲はいつも俺が迎えに来る時間が近づくと窓に張り付いてしまうと以前先生に言われ、俺と先生はそれから毎回のようにやめようと咲に言うのだがやめる気配がない。

 おにーたんをまつの! の一点張りなのでいつかやめてくれるのを待っている。

 朝俺と別れた後見送りする時も同じように張り付いているらしいのだがそれもやめないので先生もすでに諦めているようだ。


「それはしょうがないですかね」


「そうですね。私としてはすごく微笑ましいのでいいんですけど、口を毎回拭くのが大変ですね」


「それはすみません」


 そう言うと先生は笑って構いませんよと言ってくれた。


「かーえーろーー!」


 咲が荷物を持って戻ってきたので二人で先生にバイバイして保育園を出た。


「おにーたん、きょーのごはんはなにかなー?」


「今日はカレーかな」


「かれーたん! やったー!!」


 俺は大好物なカレーにはしゃぐ咲と手を繋ぎながら家へと帰るのだった。

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