クールなクリスティーナはリードされたい

ユキミヤリンドウ/夏風ユキト

第1話 告白したらOKがでた。

「なるほど。ワタシとツキ合いたいノね」


 中間試験も終わった6月15日、放課後の誰もいない廊下。

 廊下の時計は5時を指している。夕方の赤い太陽の光が廊下に差し込んできている。

 遠くからはサッカー部のものらしき声が聞こえた。

 

 僕の前には一人の女の子……概ね完璧な日本語でクリスティーナが言った。

 イントネーションは独特だけど、ほぼ意思疎通には問題ない。


 祖国で日本語を勉強して、お母さんと妹さんと暮らしているらしい。

 らしい。


 つまり僕は彼女のことを良く知らない。

 平々凡々な一男子生徒の僕としては世界が違い過ぎて関心を持ちようがないし、彼女が自分のことを何かしゃべることもない。

 端的に言うと接点が無いから知りようがない。


「ふーん」


 彼女がそう言って僕を見る。

 腰くらいまである美しい金色の髪とすけるような白い肌が夕焼けで赤く照らされている。

 背は僕より少し低めだ。多分170センチ無いくらいかな

 ちょっと冷たい雰囲気の切れ長の青い目。少し彫の深い顔立ちだけど、文句なく可愛い。


 同級生ではあるけど、大人っぽく見える。というか外人さんは何となく年上に見える。

 彼女のことは良く知らないけど、目に見える情報くらいは分かる。


 我が、都立荻久保中央高校の校内一の美少女。近隣の高校にも名前が知れている。

 素っ気ない態度からついたあだ名は氷の姫君らしい……もう少し捻りのある名前はつかないものか。


 モデルしてるとか、いろんな噂もあるけど。スカートから伸びるすらりとした足と形のいい胸は制服越しでもわかる。

 モデルをしていても全く驚かない。


 クリスティーナが小首をかしげた。

 ちょっとしたしぐさも確かにかわいい。


「イイわよ」

「は?」


「ワタシとツキアイたいんでしょ」

「ああ……まあそういうことになるかな」


「だから、イイわよ、と言っているノ」

「ああ……そうなの?」

 

 あまりの予想外な返事に思わずマヌケな返事になってしまった。

 彼女が怪訝そうに眉をひそめる。


「アナタが言ってきたんでしょ?」


 念を押すような口調で言う。

 ピンク色の唇も上目遣いの咎めるような視線もまた可愛い。


「そうです、はい。ありがとう」

 

 我ながら変な返事だけど、クリスティーナが頷いた。


「こちらこそアリガトウ。じゃあ、これからヨロシクね……あなたは、そう、トオル。青羽アオバトオル、そうよね」

「ああ、そうだけど」


 よく知ってるな。正直言って名前を知っていてくれるとは思わなかった。


「連絡先を教えてクレル?」

「ああ……じゃあ、これで」


 通信アプリのIDを教えると、すぐに向こうから承認の通知とスタンプが来た。


「あと、ツキアウにあたってだけど、ヒトツ、いいかしら?」

「なに?」


「私はツヨイ男が好キなの……だからトオルにもそうなってホシイ。イイ?」

「あっ……はい」


「それじゃあね。また明日。トオル」


 そう言ってクリスティーナが歩き去っていった。

 廊下にはさっきと変わらず赤い夕焼けが差し込んでいる。間をおいて教室の中からどよめきが聞こえた。

 ……どうしてこうなった


 

  


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