第26話 ヒーローの敗北1

 今まで幹部クラス以上の怪人、もとい仲間はいなかった。理由はきっと色々ある。私達がまだ発展途上だから。新人類としてまだ未熟だから。負の感情が足りないから。色々だ。


 未熟と言っても、既に世界を変えうる力を持っている自覚はある。我々幹部は戦隊達に負けたことがない。いや、言い過ぎかもしれない。倒されたことはない。ほとんどは自ら帰ることが多い。私のように。


 負けそうになるのはいつもタイタンだ。このタイタンは特別な幹部で、元は下級怪人である。自分では幹部の上、王になれると思っている愚か者だ。幹部最弱のくせによくそんなことを吠えられるものだと思う。


 たまに負けそうになるのがもう一人の幹部、ドラゴン。自分では策士を気取っているけど、たまに自分の策に自分で引っかかって帰ってくるダサいやつ。王が来た時の参謀になるのは自分だと思っており、タイタンは可能性があるからと、時々迎合している。その度に私は呆れていた。あの男のどこに可能性があるというのか。


 私は二人とは違う。過剰でも必ず勝てる布陣で行くし、目的を終えたらさっさと帰る。戦隊ごときに最後まで付き合う必要はない。私は女。王が男なら子どもも産める。王に一番近い存在になるのは私。


 今、王の資質たる存在が二人も来た。どちらかは王になるかもしれないし、もしかしたら二人とも王になるかもしれない。そんなことがあるかはわからないけど。ただ二人とも王にはならずに、私達と同じか私達より上位の存在になるだけかもしれない。そうなると王はまた別の所にいることになる。そういうことを色々加味した上で二人は今この球の中にいる。


 この球で行われていることは英才教育。最高の戦闘訓練と、二人のコントロールを兼ね備えた特殊な球。コントロールと言っても、敵が誰で、味方が誰なのかをはっきりさせているだけ。怪人になる時にあったあの強大な嫉妬と悪夢と絶望と、憎しみ。それを染みこませているだけ。私達がコントロールするわけではない。むしろその逆ね。私達の上に立って欲しいのだから。期待外れにならないと良いのだけど。


 私は二人の様子を確かめてから幹部の間に戻った。




「様子はどうだった。キメラ」




 ドラゴンが開口一番に聞いてくる。




「順調よ。ただまだまだ時間は必要そうね」


「どれくらいだ。俺にも準備がある」




 タイタンが言う。何が準備だ。雑魚め。タイタンの言う準備とは自分が上位の存在になるための準備である。何やら新三大幹部を組織するのだとか。




「あと三ヶ月よ」




 冷たく答えた。




「三ヶ月か、思ったよりも長いな」




 ドラゴンが呟く。




「へへっ、三ヶ月あればこっちのもんよ」




 タイタンが自信満々にそう言った。




「私はもう寝るわ。あんた達といると疲れるから」




 私はさっさと寝床に行くことにする。




「ちょっと待てキメラ。話がある」




 するとタイタンが私を呼び止める。




「良い案があるんだ」




 タイタンが得意気にそう言う。




「私抜きでやって」




 ドラゴンならまだしも、タイタンの案など期待は出来ない。私は構わず部屋に行こうとした。




「三人でやる作戦なんだよ」




 三人という言葉で足が止まる。我々三人は基本的に仲が悪い。三人揃っての行動などもってのほかだ。この前の例の二人を連れて行く時は偶然だった。たまたま三人の行き先が同じだけだったのだ。




「話だけでも聞いてみたらどうだ、キメラ。私も興味がある」




 ドラゴンはタイタンに甘い。とは言え、確かに興味がある。




「良いだろう。話してみろ」




 私は振り返って腕を組んだ。




「ハッハッ。ありがとよ。この前あの二人を連れてきた時のこと覚えているか」


「ああ、覚えている」




 ちっ、回りくどいやつだ。




「あの時はたまたまだったが、俺達三人を前に奴らは手も足も出なかった」


「拙者の夢魔の鏡で返り討ちにしてやった」


「そうだ。ただそれだけじゃない。あいつら完全にびびってた」




 確かに、いきなり最終技を使う当たりそうなのだろう。




「それで、何が言いたい」




 イライラしてきたので突っ込んでみる。




「ハッハッ。簡単なことだ。俺達三人で改めて戦うのよ」




 そんな馬鹿げたことを、と思う。我々三人が連携出来るはずがない。しかし、




「一考の価値はありそうだな」




 ドラゴンが私の考えていることを口に出した。




「我々三人は仲が悪い故に十分に力を出すことは難しい。とはいえ、元々過剰戦力故に、多少の戦力低下など無意味」




 そう、それが一つ。




「それによ。相手の寝床がわかってて何もしねえってのもよ」




 それが二つ。




「そもそも王の誕生の前に露払いをするのも一興か」




 それが三つ。




「なんだ、三人とも乗り気じゃねえか」




 タイタンの案に乗るというのはいささか抵抗あるが、王のためとあらばそれも致し方ないだろう。それにそもそも過剰戦力で戦うのは私の性に合っている。




「拙者は乗ってもいい」


「私もだ」




 こうして、三人の幹部によるシールドガード強襲が決まった。




「じゃあすぐにでも行くか」




 と、馬鹿タイタンが言うが、さすがに大事なのでドラゴンを中心に作戦を練る。


 決行は一ヶ月後に決まった。


 実はワープはそう頻繁に出来るものではないのだ。特に我々強い個体がワープを通る時は、それなりの外的エネルギーがいる。そのエネルギーとは負の力だ。あの二人を連れてきた時はあの二人から強大な負の力があったため異空間で移動出来たが、今回はそういう手がかりがない。つまり今回は異空間を無理矢理作り出すことになる。すると、反動としてしばらく異空間が意図的に作れなくなるのだ(自然発生的には出来る)。万が一のためにも、緊急脱出用のワープは残しておかねばならない。そこで、一ヶ月分の移動制限でその力を溜めておくことにした。緊急脱出はこれで一応出来るようになる。ただ、一ヶ月分は片道の移動分だけだ。そもそも負ける予定ではないから。


 それと、一応連携技の練習をしておく必要はある。仮にも三人で行くのだ。何もなしでは三人で行く意味が無い。と言っても、その練習で成功することはなかった。ただ、それでいい。不満が溜まれば溜まるほど、本番で力が出る。連携技など元々不要なのだ。個の力が強大であればそれでいい。それがドラゴンの意図していることだ。


 そうこうしながら一ヶ月が経った。




 バンッバンッドカーン




「あっはっはっはっはっ、気持ち良いわ。さっさと終わらせてあんたらとも戦隊ともおさらばよ」




 ドドドドドドドドド、ドカーン




「ハッハッ。さっさと戦隊倒して俺が王になってやんよ」




 ドーン、ドーン、ドカーン




「拙者の作った策に抜かりなし。ただこんなにも力が出るとはおもわなんだ」




 私達の破壊の勢いは凄まじかった。戦隊達が来るまでに、シールドガードは半壊していた。




「やめなさい。あなた達」


「なぁー、もうー、シールドガードをめちゃめちゃにしてくれちゃって」


「ってこの前の幹部達じゃん」


「あいつは・・・・・・」


「誰だろうと関係ない。怪人なら倒すのみだ」




 桃色に黄色に緑色に青色に、赤。どうやら戦隊達が来たようだ。


 私は青い子と目が合う。今回の私の標的だ。


 事前の打ち合わせで倒す相手の割り振りがされたのである。私は青い子。タイタンは緑と黄色。ドラゴンは桃色と赤色だ。私の担当が一人なのは、青い子の怪人化を促す事に集中するため。青い子が怪人化すれば四対四、あいつらに勝ち目はない。


 獲物がバラバラになるように攻撃する。




「絶望の大球」


「嫉妬の地割れ」


「悪夢の磁球」




 と、三人とも同じ事を思ったらしい。技が散乱する。私の大球が青い子を飛ばし、タイタンの地割れが二つを分断。ドラゴンの磁球は磁石のように分断された二つを反発させる。思わぬ連携技となった。今日は調子が良いのかもしれない。


 ともかく、私は飛ばされた青い子の所へ行った。




「くっ、俺達を分断してどうするつもりだ」




 すると青い子が立ち上がるところだった。




「敵に作戦教える馬鹿がどこにいるのよ」




 私は嘲笑った。




「それもそうだ、な」




 青い子が不意にレーザーガンを撃ってきた。不意だったので受けてしまう。




「ぐっ」


「敵に撃ちますよって言う馬鹿もいないものだ」


「小癪な」




 更に二発撃ってきたのは何とか防ぐ。しかしその時、視界も閉じたため、相手に隙を与えてしまう。青い子が斬りかかってきた。




「ソードクラッシュ、弐の型」




 素早い斬撃が繰り出された。しかし、素早いと言っても、対応出来ないスピードではない。


 がしっ


 剣を片手で掴み取る。手がヒリヒリするがそんなものだ。そもそも戦隊一人と幹部では格が違う。




「つーかまーえた」




 もう一方の手で青い子の首根っこを捕まえる。そのまま壁に思いっきりぶつけて自由を奪った。衝撃が強かったのか、青い子は武器を放す。落ちた武器は蹴り飛ばしておいた。




「もう一度甘―いキッスをしてあげようか」


「年増のババアにされる口はないね」


「小生意気なガキだね」




 平手打ちを何度か食らわす。青い子はぐふっぐふっっと咳き込んだ。




「まあいいわ。それじゃ、正規の方法をとりましょ」


「ふん。どんな方法でも俺は屈せん」


「さて、どうだか。絶望の杭」




 私はそう言ってエネルギー化した杭を青い子の両手両肩に打ち込む。




「ふぐわっ、ううっ」




 痛みで青い子が呻く。




「その杭はあなたの絶望を増長させてくれる杭よ」




 丁寧に説明する。その方が意識されて効果が高いからだ。




「ほら、ここで仲間達の戦況でも見てごらん」




 そう言って視界から逸れてあげる。そこに広がるのは戦隊達の苦戦だった。

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