第18話 ブルーの憂鬱1

「カナシミ、ウレイ、スベテ、スベテ」




 鏡の怪人が出たと言うことで向かったところ、俺がいの一番に遭遇する。見たところ中級怪人だ。一人で戦うには荷が重い。そこで俺は仕方なく生身で戦うことにする。この怪人化しかけている身体なら実は生身の方がパワードスーツを着ているより力が出せるのだ。怪人化が進んでしまう可能性もあるが、どうせ仲間が来るまでの間だけだ。どうしてもやばくなったらスーツを着れば良い。


腹は決まった。俺は生身で対峙する。




「カナシミ、ウレイ、スベテ、スベテ」




 この中級怪人の身体には鏡のような物が張り付けられている。この怪人は時折人々を捕まえては手で目隠しをしている。すると人々は膝をつき、うずくまり、ブツブツと落ち込んだようになるのだ。そのまま道路に身を投げる者もいる。もっとも、怪人の出現で交通は機能していないが。




「怪人、こっちだ」




 怪人の注意をこちらへ向ける。すると怪人はこちらを向き、そのまま突っ込んできた。




「オマエ、カナシミ、ミセロ」




 怪人が両手を突き出して突っ込んでくるので、俺はその勢いを利用して投げ飛ばした。シールドガードで対怪人戦闘訓練は行っている。多少の心得はある。


 俺は一番得意だったボクシングスタイルになり、相手の起き上がりに合わせて攻める。相手もそれがわかったのか、暴れながら起き上がってくる。俺はそれをギリギリで躱して一気に距離を詰める。


 まずは渾身のボディブロー。相手の身体がへし折れる。そして全力アッパー。顔が跳ね上がり、大きく仰け反った。そこで一度ボクシングスタイルを解き、大きく回転し後ろ回し蹴りを食らわす。怪人は後方に大きく飛ばされた。壁にぶつかると衝撃で壁が壊れる。




(いける)




 そう思った。再びボクシングスタイルになり、近付いていく。すると怪人が崩れた壁の一部を投げてきた。不意を突かれて動きが止まる。しかし、警戒はしていたため、ウェイビングで躱すことが出来た。ただ、それも束の間、第二波、第三波が襲ってくる。




 ドカッ




 最後の一撃だけ食らってしまう。攻撃力はあるが身体は生身のため防御力が無い。ダメージが大きい。腹に食らったのでうずくまってしまう。




「ミラーケージ」




 立て直そうとしたが、相手の方が早かった。どうやら技の射程に入ってしまったらしい。鏡の籠に閉じ込められてしまう。


 しまった。


 一瞬暗くなったかと思ったが、すぐに明るくなる。そこは万華鏡の世界だった。自分が無限に映し出されている。




「オマエノカナシミナーンダ」




 怪人の声がする。しかし姿は見えない。これは精神攻撃だきっと。まずい、そう思って鏡を割ろうとする。が、暖簾のれんに腕押し。全く割れる気配がない。手応えがないのだ。そしてそれを繰り返していくうちに、だんだん暗くなり、鏡に映像が映し出されていく。


 あれは楽しかった頃の、仕事が楽しかった頃の自分だ。会社で生き生きとして働いている。


社長がいて、同僚がいて、笑顔があって、活気がある。懐かしいな。ふとそんなことを思う。あっ、怪人が襲ってきた。全てが壊されていく。全てが、スベテガ・・・・・・。




「オマエノカナシミミーツケタ」




 その声が聞こえた瞬間、ずんっと身体が重くなる。身体の奥から悲しみが溢れ出してくる。鼓動が大きくなり、大きく聞こえる。涙が止まらない。




「あーーーーー」




 一瞬怪人化してしまう。まずい。反射的にスーツを身につける。




「オマエナカマダッタノカ」




 その声が聞こえてくるのと共に、万華鏡の世界から解放された。




「ホウコク、ホウコク」




 そう言って、鏡の怪人は異次元に消えていった。


 その後である。仲間が来たのは。




「守人、大丈夫か」




 帯人だ。一応リーダーであろうとする自覚があるせいか、なんだかんだと一番仲間思いである。




「いや、変身が解けそうにもない」




 我ながら苦しそうな返事をする。実際、かなり苦しい。鏡の怪人の精神攻撃が思った以上に堪えている。




「そうか。無理するな」




 帯人の優しい声だ。




「そうね。まずは犬塚さんに診てもらいましょ」




 玲奈である。的確な指示と判断力が頼りになる。




「達彦と星那は街の復旧と被害報告をお願い。私と帯人で守人を連れて行くから」


「「「ラジャ」」」




 玲奈の指示で速やかに全員が動き出した。






「ふむ、スーツを解くと怪人化が始まってしまうと言うことか」




 犬塚さんだ。このシールドガードの管理者であり。我々の相談役や医者のようなこともする。医師免許を持っているらしい。




「はい、途中試してみましたがダメでした」




 玲奈が付き添ってくれている。




「うーん、しかしスーツも充電しなければいけんしのー。何秒くらいかもたんかね」


「おそらく、三十秒くらいなら持ちます」




 スーツの効力が切れてきたのか少し苦しい。




「うーん持って二〇秒といったところか」




 俺の状態を鑑かんがみて犬塚さんはそう判断する。




「で、再装着にかかる時間は」


「いつもなら一分くらいです」


「補助がついて三十秒といったところか。うーん、危険だがやるしかないの」




 犬塚先生の指示で、準備がされた。




「ともかく、機器の入れ替えのみをすることにする。帯人君は守人君を支えて、玲奈君はつけ外しを。私は機器の受け渡しをする」


「「ラジャ」」




 皆に任せっぱなしで申し訳ない。




「守人君、じっとしていてくれよ。それが一番の協力だ」




 どうやら犬塚さんには気持ちを見透かされているようだ。




「三,二,一,GO」




 皆が手際よく動く。スーツを解除すると途端に発作が起こった。




「うがぁー、ぐー」


「我慢してくれよ」




 機器を受け取った犬塚さんが言う。今ここで自分が怪人化するわけにはいかない。戦隊が四人に減れば、上級怪人を倒せなくなる。つまり自分を・・・・・・。絶対に仲間を傷付けたくない。




「出来ました」


「スイッチを押せ」




 ポチッ。




 スーツが全身を覆い直し、苦痛が和らいでいくのがわかった。間に合った。




「ワンダフル」




 犬塚さんの口癖だ。




「二十五秒じゃ」




 全員がホッとしたのがわかる。




「ありがとう」




 俺はそう言って意識を失った。


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