第16話 調査

 こうして調べていると、色々な情報が出てくる。怪人は宇宙人だ、とか。UFOの正体は怪人の宇宙船、とか。他にもたくさんの都市伝説のような話がある。


 そういう情報は基本的に流し見するのだが、中には興味を引くものもあるのだ。怪人がどこからともなく現れるのはワープ技術によるものである、といったものだ。確かに自分の体験を鑑みてもどこかから移動してきたというよりは急に湧いて出てきたイメージだった。そうするとこの仮説は正しくて、怪人はワープ技術を持っていると言うことになる。


 そうなると以下の二つが気になってくる。ワープ技術なのか、ワープ能力なのかである。前者なら、未来人や高次知能を持った宇宙人。後者なら、新人類か高次能力を持った宇宙人だ。そしてそうなると、知能を持っている生物がハルハルとかバードばかり言うはずがないので除外される。同じように死んだら矛になる特徴から、未来人や新人類である可能性は低い。残るのは高次能力を持つ宇宙人だ。


 矛になる特徴から、矛に宿る亡霊の権化ごんげとか、悪魔の化身とか考えるものがいるが、非科学的なので考えないこととする。


 と、これがネットの見解であった。そうは書いてあったが、個人的には新人類の線は残しても良いと思う。これは体験談に基づくものだ。理由は単純で、普通の人間からなることがあるからだ。個人的にはむしろこの説が一番かと思われる。高次能力を持つ宇宙人なら、生まれた時から人並み外れた身体能力のはずだ。しかし、少なくても自分や力也は違う。


 最後は矛になるのか・・・・・・。何か変な気持ちである。矛になった後に再生するかどうかも含めて感慨深いものである。




「なあこれ、見てくれ」




 ネットカフェで二人並んで調べていたのだが、力也に話しかけられて力也の画面を見る。するとそこには怪人に関する論文があった。




「シールドガードが出している論文だ」




 シールドガードは対怪人組織のトップだ。かなり信頼性が高いと思う。




《「怪人に関する報告論文」 犬塚一護


  昨今は怪人の出現により、各地域至る所にその被害が出て、重大な問題になっていると思います。そこで当対策局では怪人の出現条件、種類、特徴、人間の怪人化に関して、現時点でわかる範囲で報告します。




 ○怪人の出現条件


  皆様のご存じの通り、怪人は突如現れることがわかっております。当局ではそこに法則性がないかを具体的に調べてみました。すると概ね大都市に集中していることがわかりました。また、出現位置に関しては徐々に移っていくと言うことはなく。青森の次に広島で出現するような事が確認されています。


  出現方法に関しては特殊時空間を使っているという報告を得ています。同時多発的に出現することは今のところありません。これは仮説ですが、特殊時空間の使用に制限がある可能性があります(同時に開けない。時間的使用制限がある、など)。


  そして、出現条件に関しては出現被害、目撃のあった人々からその時の状況を詳しく聞いたアンケート用紙による調査を行ったところ、一三二九四〇件の回答が得られ、有効回答数が一三二二一〇件であったため、これを基に仮説を組み立てました。


  質問は


一、怪人に襲われた時の状況を詳しく教えて下さい。


二、怪人に襲われる一ヶ月前からの大きなイベントを教えて下さい。


三、怪人に襲われた後に予定されていた大きなイベントを教えて下さい。


四、他に気になることがあったら教えて下さい。


の四項目を用意し、いずれも自由記述により答えてもらっています。そして、回答内容を不幸な出来事があった(一つの不幸な出来事)。理不尽な出来事があった(二つの不幸な出来事)。大変理不尽な出来事があった(三つ以上の不幸な出来事)。その他(0の不幸な出来事)の四項目に取り纏めたところ、理不尽な出来事(五二%)と大変理不尽な出来事(三七%)の項目で八九%を記録していることがわかりました。


ここから立てられる仮説は、「怪人は理不尽な出来事に引き寄せられている」といったものであります。




○怪人の種類


 我がシールドガードでは怪人の強さの応じて以下の四つ段階分けを行っています。下級怪人、中級怪人、上級怪人、三大幹部(幹部クラス)、の四つである。現行においてこの四つを適用しているが、新種の発見はあり得ると思っており、特に三大幹部の中から、あるいは別から王となり得る存在が発見されることを懸念しています。




○怪人の特徴


 理不尽な出来事の具合と、怪人の出現状況を取り纏めると、以下の事実がわかりました。それは「理不尽な出来事の具合で出現する怪人の強さが変わる」といったものです。これはつまり、より理不尽な出来事に強い怪人が引き寄せられているといったものです。


 また、怪人の見た目の特徴については、


下級怪人→黒いスーツ型の様相


中級怪人→ツルッとした鎧のようなものを身につけている


上級怪人→表皮がゴツゴツした鎧になっている。


三大幹部→極めて人間に近い様相だが、ゴツゴツしたものを装着しており、尻尾のようなものを持っている。


強さは、下級<中級<上級<幹部となっているが、上級怪人までしか撃破した報告を受けていない。


暫定的に戦隊一人の強さを一〇〇とした場合の強さの値は以下の通りです。


下級怪人、三〇


戦隊一人、一〇〇


中級怪人、三五〇


上級怪人、五〇〇


三大幹部、推定七〇〇


因みに一般の女性が八,男性が一〇です。


上級怪人と戦隊五人のパワーが同数値となるが、戦隊は連携技や合体技を使うことで、最大七〇〇相当の力が出るとされている。この値は幹部の推定パワー値だが、これは希望的観測を含む値です。


知能に関しても強さと比例していると思われています。下級怪人は「ハル」と繰り返し、「バード」と叫んで倒れる。中級怪人は片言で、上級以上は普通に発話する。幹部はしばしば策を使うことがあるという報告を受けています。


もう一つの大きな特徴として、怪人は倒されると全員矛に変わるというものがあります。この矛は一般人が触れると危険で、矛に取り込まれて怪人化してしまう。よって怪人撃破後は、すぐにその矛を壊すか、安全な場所に保管する必要があります。また、矛は壊すと蒸発して消えることが確認されています。




○怪人化について


上記のように特定の条件を満たすと怪人化することがあります。以下にそれを簡易的に纏めてみました。


下級怪人化→下級怪人の矛に触れる。幹部の手に触れる。


中級怪人化→下級怪人からなる報告を受けている。


上級怪人化→人間だった者が辛い境遇の中で自然発生的になるという報告を受けている。


幹部化→不明。


また、上級怪人化についてだが、これには兆候があり、身体能力が常人を逸する状態になったり、一時的な怪人化を繰り返すことが確認されています。


  現在、戦隊の中にも一人怪人化しかけている者がいるが、その者の進行はパワードスーツを着ることで止まることがわかっています。パワードスーツには怪人化を抑える効果もあることがここからわかります。その者は怪人化せずに長期の間、戦隊の任務に就いています。


  以上の知見より、怪人が「より理不尽な事件により強い者が現れる」性質を持っていると言えることがわかります。以上で、怪人の報告論文を終えます。




「これは・・・・・・」




 一通り読み終える。




「読んだか」




 すると力也が顔を覗かせ聞いてきた。




「ああ」


「どこが気になった」




 そして何かを期待するようにそう聞いてくる。




「全部だ。全部だが・・・・・・、強いて言うなら、ここの怪人化しかけている戦隊がいるって記述だ」




 俺は自分の思っていることを答える。




「俺もそこだ」




 すると、力也は前のめりになっていた姿勢を戻してそう言った。




「つまりこれは・・・・・・」


「そうだ。俺達も戦隊になれば怪人化せずに済むって事だ」




 力也が力強く言う。




「そうか」




 俺はそう言って、力也の方を見る。と、力也もこちらをしっかりとした目で見ていた。二人で頷きあった。


 俺達は急いで玲奈に連絡を取ることにした。




「もしもし」


「もしもし俺だ。幸治だ」




 俺は興奮冷めやらぬ感じで話しかける。




「うん。どうしたの」




 その勢いに玲奈も不思議そうな反応をした。




「今、論文を読んだ」




 そんな玲奈を気にすることもなく、俺は続ける。




「論文、何の」




 玲奈は訳がわからないといった様子だ。




「怪人に関する論文だ。シールドガードが出している」




 ここまで言えば、少しは状況がわかるだろうと思う。




「ああ、あれか。それでそれがどうしたの」




 玲奈としては当然の返しだ。




「俺達をヒーローに、戦隊にしてくれ」




 俺は結論を先に話す。




「たち、戦隊、どういうこと」




 玲奈はますます混乱してしまう。




「俺達、俺と力也は今怪人化している」




 もう一つの重要な情報を伝えた。




「えっ、怪人化、どういうこと」




 電話越しにかなり驚いているのがわかる。




「この前、夜に来たろ。怪人が出たって。あれは俺だったんだ。力也も同じだ。日向ひゅうが力也だ」


「日向力也・・・・・・。なるほど。そういう・・・・・・」




 ここに来て玲奈も理解し始める。




「なあお願いだ。俺達は怪人なんかになりたくない。玲奈達と戦いたくないんだ」




 懇願するように訴える。




「・・・・・・わかった。犬塚さんに話しておく、ちょっと待ってて」




 受け入れてくれたようだ。




「ありがとう。わかった」




 俺は隣にいる力也と顔を合わせ、満面の笑みを浮かべ合った。もしかしたら、怪人化を防げるかもしれない。つづく。


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