第2話 兆候2

 外に出ると、自販機の横で力也が缶コーヒーを片手に飲んでいた。力也は飲みながら、もう片手にある缶コーヒーを投げて寄こした。俺は受け取って開けて飲む。一足先に飲み終えた力也が言った。




「辞めてやったよ」




 俺も程なく飲みきって応える。




「ああ、社長に聞いた」


「ハルハルハルハルハルハルハルハル」




 と、そんな折に突然ハルバード怪人が襲ってきた。テレビで見たことある奴らだ。黒い姿をしている。少し呆気にとられたが、のんびりしてられない。殺されてしまう。俺らは缶コーヒー投げつけて必死に逃げた。横目で会社を壊しているのが見えたが、もう気にする必要はない。


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。


 俺たちは必死に逃げたが、ハルバード怪人もしつこく追ってくる。身体能力は向こうの方が高い。それでも障害物を使って上手く逃げているため、だんだん数が減ってきている。


・・・・・・。


 しかし、それも長くは続かなかった。逃げた先が悪かった。行き止まりになっている。相手の数は三人。すり抜けるのは路地の狭さもあり難しそうだ。やれるか。いや、やるしかない。攻撃は最大の防御だ。俺が一番近いやつに足払いを食らわすと、力也が間髪入れずにそいつに強烈な膝蹴りをかまして吹き飛ばす。


 これであと二人。数の上ではイーブンだ。しかし、相手もこちらの様子を見て、身構えた。警戒されてしまったようだ。怪人は人間の何倍の力もあると言われている。果たしてイーブンと言えるかどうか。


 今度は力也が襲いかかる。利き足を相手の顔の横に決める回し蹴りだ。しかし、それは躱される。と、思ったら力也はそのまま回転し今度は後ろ回し蹴りを繰り出した。これはヒットする。すかさず俺も同じやつにアッパーを繰り出し顎にヒットさせる。


 これであと一人。さすがに優勢と言っていいだろう。多少武芸の経験があったのが幸いしたようだ。力也との連携も上手くいっている。


 俺らはじり、じり、と最後の一人に詰め寄った。両方から挟み込むようにゆっくりと間合いを詰める。


と、




「ハルー」




 倒したはずの怪人が、俺らの後ろに回り込み二人とも羽交い締めにされてしまう。俺と力也は動きが出来なくなる。押し殺していた恐怖がぶわっと溢れ出てきた。動けない。やばい。殺されてしまう。死ぬ。精一杯暴れるも、それは無意味で振りほどくことは出来なかった。それでも諦めずに、暴れて暴れて暴れた。が、ついに力尽きてしまう。暴れるのが止むと、羽交い締めが強くなり、身体が更に拘束された。苦しい。挟まれていたはずの怪人が生き生きと近づいてくる。怪人が大きく振りかぶってこちらを殴る最中さなか、プツンと切れる何かがあった。だがそんなのは関係ない。今俺は死ぬのだかーー。


 ピンクの閃光とともに、目の前の怪人が吹き飛ばされた。一瞬何がなんだかわからなくなる。




「シールドピンク、見参。この世に巣くう悪どもは、愛の力で滅多打ち。いざっ」




 ピンクのスーツを着た女性がそう言うと、すごい早さで俺たちを羽交い締めにしている怪人に手刀を食らわせる。怪人が怯んで自由になった。




「逃げて」




 ピンクがそう言った。戦隊だ。シールド戦隊が来たのだ。もう安心だ。俺たちは逃げた。




「バード」




 後ろで怪人たちの叫び声が聞こえた。






「怪我はない」




 少し離れたところで休んでいると、ピンクがやってきた。


 玲奈。ピンクは確か玲奈だ。テレビで何度も見かけたことがある。




「って、幸治こうじ




 変身を解いて素顔を見せる。やはり玲奈だ。




「玲奈。元気なのか」




 久しぶりの彼女は、幾分か頼もしさが増したというか、しっかり者になったような気がした。




「元気なのかじゃない。私は大丈夫に決まっているじゃない。それで、怪我は」


「俺は無い」




 力也が応える。




「俺も無いよ。玲奈のお陰だ。ありがとう」




 目を見てお礼を言う。このまま引き留められはしないかと視線の中にそんな欲望を携える。




「もう。怪人相手に無理はしないで。あいつらは雑魚だったけど、それでも普通の人間にとっては超人なんだから」




 玲奈は視線を反らし気味にそう言った。




「まあ、身に染みたよ」




 力也が応える。




「その時はまた、玲奈が助けてくれるさ」




 また会いたい。会ってゆっくり話がしたい。そんな希望を茶化して言う。




「馬鹿言ってないで。でも怪我が無いなら、もう行くから」




 それでも全部振られてしまう。




「もう行くのか」




 ダメ押しの一言だ。




「ごめんね。仕事だから。じゃ」




 そう言って玲奈は行ってしまった。




「あれが幸治の元彼女か」




 力也に話しかけられるも、俺の視線は玲奈の後を追っていた。




「ああ」


「強くて綺麗だな」




 力也も俺に釣られてか、玲奈の後ろ姿を見る。




「ああ」




 別れの理由はわかっている。わかっているが納得は出来ていない。しかし、納得せざるを得ないのだ。




「なあ幸治」




 と、急に力也が真剣な声色になる。さすがに俺も反応した。




「うん。なんだ力也」


「俺たち、仕事が無くなっても親友だよな」




 夢見から覚め、力也をしっかり見た。遠くを見つめている。




「もちろんだ」




 そうか。もう毎日のように会うことは無くなるのか。




「それが聞けて良かった。じゃ、じゃあな」




 そう言って、力也も行ってしまった。その感じがどこか似ていたので、また夢の中に戻る。




「俺たちまだ、恋人だよな」




 ポツリと呟いたその言葉で夢からまた覚めた。一体何を言っているのだろう。夢は所詮夢でしか無い。玲奈のことは忘れよう。そう思った。

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