第10話 見つけたものは
「あーもう。寝たよ……」
揺らしてみたが起きる感じがしない。
このままほおっておいてもいい気もしたが稽古と言い出してやらせたのは自分なので少し責任を感じた。
固い床に溶けるように寝落ちているエータを見るが寝にくそうだ。風邪を引くかもしれない。自分じゃこの程度では頑張っても体調を崩すことができないが、エータはものすごく体力がないしありえるかもしれない。自分を基準に判断してはいけないだろう。
「仕方ないな」
せめて何かかけるものだけでも持ってこよう。
廊下に出るとまっすぐある扉を開けた。
例の部屋――本がある部屋ではなく別の部屋だ。
開かなかったあの扉をエータが開けてくれたあの時からこの空間で見える扉で開けられない扉はなくなった。
エータが出てくる扉だけは見えないが、エータも俺の入ってくるホールが見えないというのだからそういうものなのかもしれない。
この空間は分からないことが多すぎる。グロリアが何か分かればいいのだが。
以前布団をもらった部屋に入る。相変わらず量が多すぎる。
その中からかけるものを一枚。それだけじゃなくて下にも敷いてやろうかと適当に一組選んだ。それとクッションをひとつ。
エータが寝てしまった部屋に戻ったが起きていることはなく寝たままだ。
その隣に下に敷く方を置いてから彼を抱き上げて乗せる。それから上にもかけた。頭の下にクッションを入れれば完了だ。
外で寝たって危険はないみたいなのでこの部屋で寝たって大丈夫だろう。扉の見えない部屋には運べない。
さて、以前気になった部屋があった。パッと見ただ不要なものを押し込んでいる部屋でしかなかったがぐちゃぐちゃしている分何かありそうだった。エータに聞いたって多分何も言わないだろうが勝手に物色しているのを知られるのはちょっと気まずいのでじっくり探すには良い機会だ。
いくつか勝手に持って行ってしまっているものがあるのは気にしない。
その部屋に入るが、奥の窓のカーテンが引かれているため暗い。誰も入っていないせいなのか埃っぽい。
床に散乱しているものを踏まないようにカーテンを開けた。外の景色を何もうつさない、光だけを取り入れる窓。
壊れた食器やガラスの器具。汚れた服に鞄、靴。何に使うか分からない物。
大小ある木箱はしっかりと封がされたままだ。封といっても魔術的なものではなく簡単に破壊できるものだ。……だから多分危険物ではない。
俺はそう判断すると両手で抱えられるサイズの木箱を一つ開けてみることにした。
ただ釘でとめられただけのその蓋を開けた。
「……これは」
中に入っていたのは石だった。灰色のその辺に転がっていても誰も見向きもしないような。
ただひとつだけ透明な石が混ざっている。
知っている。よく知っている。だって、探していたものだから。
「空間石」
きれいな正円で、平たい円柱の角が丸くなった形のそれを手に取った。俺の手に乗るサイズだが今まで見たサイズの中では大きいほうだ。
「……どうしてこんなところに?」
どきどきと心臓が鳴り出した。大きさは容量に関係する。
もしかして開けていない箱に、そのすべてにひとつずつ、入っているかもしれない。
グロリアが今使っているものの容量を気にしていた。
持って帰りたい。ぐっと手のひらに握りこむ。
「1回だけ、借りていく」
誰が聞いているわけでもないが言い訳のように呟いた。
早足でホールの前まで来た。空間石を握ったままだと通れないかと思ったがそんなことはなくするりと入ることができた。
通り抜けるまでの時間がもどかしい。1歩、2歩いつの間にか走っている。
「グロリア!」
抜けた先に薬をつめていたグロリアのそばまで駆け寄った。
「どうしたの? そんなに急いで……あ、何か方法が見付かったのかしら?」
「違うんだ。グロリア、これ」
目の前で手を開く。
グロリアがそれに釘付けになった。
「ケーシャ? これどうしたの?」
「あの中にあったんだ」
「……たくさんあった?」
「いや、これは箱の中に他の石に混ざって1個だけ」
「戻してきなさい」
「え?」
少しむっとしている。喜ぶかと思ったのだが意外な反応だった。
「珍しくないものは持ってきてもいいわ。増えるのだから食材もいいわ。でもそれは駄目よ。持ち出せたのだとしても駄目」
ぎゅと空間石を持ったままの俺の手を上から握らせた。
「もっっっのすっごく欲しいけど返してらっしゃい」
グロリアの拳が震えている。
「怒ってるんじゃないのか」
「悔しい、の! よ! 掘り出したのなら今すぐ加工しちゃうのに〜!」
「箱いっぱいなら?」
「1個ぐらいくすねるわよ!」
「そっか」
グロリアらしい。
「分かった。明日返してくるな」
「そうして。いい大きさだけど」
「ははっ。ここにあったのならきっとどこかで見つかるさ」
「そう願ってるわよ。あ、そろそろ作ってる薬が持てる限界量になるから携帯食作り始めるわね」
「もうか」
「遅いくらいよ。悪いけどどうするか決めてちょうだい。流石にこの森を抜けた先を私とロアじゃ進めないわ」
「そう、だよな」
分かっていたことだったが、どうするか決めないといけない。実質選択肢が1つだとしてもだ。
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