第3話 誰かの書き残し

「やるか」


 起きてから夜とさほど変わらない食事を飲み込むとステンドグラスの部屋を抜けて本と紙のあった部屋に向かう。

 あの部屋なら何かしら分かるかもと思ったわけである。


「あ、明かりがないんだった」


 何故か窓のない部屋だったことを思い出す。みっちり本があったはず。

 家具が押し込まれている部屋を見ればバスケットボール大の光る丸い玉が転がっていたのでそれを持っていくことにする。

 ちょうどいいと思ってから、これ昨日あんなとこにあったか? と考えた。

 よく見なかったしな、と気にしないことにした。


 持ってきた明かりを適当に床に転がす。まあまあの光の強さがあってしっかりと部屋の中が明るくなった。

 本と紙の部屋を端から見ていくことにする。備え付けのはしごを使い上から手に取る。本を開くと飛び込んで来るのは読めない文字。次もその次も。

 開いても開いても読めなくてだんだん疲れてきた。

 眉間を揉む。立っているのも良くない気がしたので家具の部屋から椅子を一脚持ってきて確認作業を再開した。

 が、つい性分で気になってきてしまい、乱雑に積まれていた紙と本の分別を始めてしまう。まず大まかに本、紙。本はついでに軽く中を確かめる。


「よし。読めない」


 よくはないのだが。

 部屋の壁四面全てに本棚が設置してあるため量がすごい。上まであるはめ込みの本棚の量の本だったが、どれを開いても読めないものばかりなので確認が終わるまで思ったほどはかからなかった。

 ……時計がないので体感でしかないが。


 この部屋を作った人間は相当壁を本棚で埋めたかったのか窓は本棚に隠れていた。というより本棚の一部が窓だった。

 もちろんそこにも本が詰まっていたわけで。入れる本のサイズが決まった状態で作ったのだろうかサイズぴったり。隙間なし。


「そりゃ暗くもなるわ……」


 そうして本棚からすべての本が出た。

 何冊かアルファベットのようなものがあったので机の上によけておく。

 紙はといえばこれも大半はだめだったがイラストの入ったものがあったのでそれもよけた。


 少し期待をしていたが、結局アルファベットらしきものも英語ではないようで頑張っても俺の知識の範囲では読めなかった。

 なのでイラストが添えてあったものを見ていくことにした。

 誰かの絵日記のように感じるもので字も書いてあるのだがやはりこれも読めない。


 ぐるりと描かれた丸の外が黒く塗られている。走っている人間の前に矢印。そこにバツ。

 これはここから出ることができない。だろうな。

 体験済みなのでそう読み取れる。あの黒から外には出れない。俺だけでなくこれを描いた人もだめだったのか。


 その他読み取れたもの。


 訪れる人はいない。

 ここに他の人はいない。

 化け物が入ってくる。


 化け物、というか頭と思われる部位に曲がった角が二本生えていて、体は真っ黒に塗りつぶされている。顔には口が大きく描いてある。それが黒の丸の外に描かれているのだが、それから丸の中に矢印が伸びているのだ。

 これはそういう風に感じただけなのか、本当に入ってくるのか。用心すべきな気はするが……昨日寝ていた時に変な音は聞いていないし今のところ分からない。よし、起こった時に考えるか。


 そして、首を吊る。刃物を刺す。水に沈む。

 そしてお墓にバツ。

 どんなに傷つけても死ぬことができない、か?

 試す気はないが、そんなバカな。試した、のか?


 最後に。

 ここからどこか(クエッションマークが描いてある)に行くには代わりが、必要。


 代わり。これが俺か。だからあの子は謝っていたのか。

 クエッションマークのどこかは元いた世界なのだろうか? もしそうならあの子はちゃんと帰れたのだろうか? それとも見たまま本当に土に変わってしまったのか……それは分からない。帰れたのだったらいい。俺が何か役に立てたのなら。


 これを書いた人は相当参っていたようだ。何箇所も濡れて乾いた跡がある。あの子だったのだろうか?


 衣食住問題なくても。

 外のあの黒から出てくるものに怯え、びくびくと暮らすのは精神に良くないだろうと想像できる。


「が、今の所見てないからな」


 そもそも本当にいるのか? 声は確かにするのだが。外に行かないと分からない程度。

 想像力が足りないのかあまり実感がわかない。


 そんなこんなでさほど収穫のないまま本と紙の部屋の探索を終えた。

 はっきりと分かったことはない。

 ここの地名も情勢も分からない。

 というかなんでここに人がいなくてはいけないのかも分からない。

 本当何の説明もないのな。ここはこうなんだよぉって説明が入るとこだろ?? そういう世界線じゃないのか。



 さて暇を持て余した俺はどうせ読めないからと色とりどりの背表紙で美しいグラデーションを作り上げた。

 入りきらずに余った本も色を合わせて美しく積み上げた。

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