僕の相談

 それは就寝時間の間近だった。


「おーい、アスラー! ステラが来てるってさ!」


 寮の部屋で既に横になっていた僕にレオがそう声をかけてくれた。僕は慌てて飛び起きた。僕にはステラに相談したいことがあり、ステラと同じ騎士学科のレオにも、僕が用事があるってステラに伝えておいてくれないかと実は頼んでいたのだ。

 寮の入り口まで出て行くとステラが僕を待っていた。ステラはコートを着て手には剣を持っていたので、騎士団の練習の帰りからそのまま寮まで来てくれたのかと思った。


「ステラ久しぶり! 来てくれてありがとう。」

「アスラ! ううん、こちらこそごめんね。何度か部屋にも来てくれたんでしょう? でも、最近はずっと騎士団の練習が遅い時間まであったの。」

「大変なんだね、ステラ。さあ、中に入って。寮の食堂だったら何か飲み物を出せるから。」

「うん。」


 僕は寮のキッチンでお湯を沸かして紅茶を入れた。

 就寝時間が過ぎて静まり返った食堂で、僕らの座ったテーブルの上にだけ灯りを点けている。


「騎士団の練習はどう? ファーがステラはすごいって褒めてたんだよ。一年生から選ばれるなんてステラが初めてなんじゃないかってさ。」

「練習はキツいけど、確実に力が付いてるのを実感してるよ。やっぱり世の中には強い人がいっぱいいるってわかった。」


「毎日こんな時間に帰ってきてるの? 休みの日もでしょ? ステラ疲れてない? ファーがさ、寮で同じ部屋だった時にメイノがよくステラに回復魔法をかけてあげてたって言っててさ。今は一人部屋でしょ? ファーはステラの体調も心配してたんだ。」

「回復魔法じゃないけど、体調のケアは騎士団でもやってくれているよ。不思議と翌日まで疲労を持ち越さないの。」

「そうなんだ。騎士団はすごいな。」


 僕は久しぶりにステラと話ができて嬉しくなっていた。


「アスラはどうだった?」

「僕? 僕はいたっていつも通りだよ。授業に出て、放課後は図書館で勉強して。毎日そうだよ。……魔法大会の練習してた時が懐かしいな。あの時はみんなでいろいろ作戦考えていろんな魔法を試して、楽しかったよね。」

「うん。楽しかった……。」

「ああ、でも、今の方がファーとゆっくり話をする時間はある気がするなあ。そういえば、ファーがステラに会えてなくて寂しいって言ってたんだ。だから、今度またみんなで遊びに行けないかな?」

「……そうね、私もそうしたいかな。騎士団の練習も今は毎日だけど、春になって基礎訓練が終わったら時間に余裕が出来るはずだよ。」

「春か、ちょっと先だね……。でも、ファーも喜ぶよ!」

「そう……。」


 ステラは紅茶の入ったコップを両手で抱えてそれを見つめている。少し会っていなかっただけなのに、なんだかステラの雰囲気が変わった気がする。強くなったというか、大人になったというか、急に成長したような。


「それで、アスラ。私に用事って? ファーが私に会いたいってこと?」

「ああ、そうだった。いや、そうじゃないよ。ステラに相談したいことがあって、冬休みのことなんだけどさ。」

「冬休み? それなら、騎士団の練習は休みだから大丈夫だよ。」

「うん、それならよかった。冬休みさ、レオもタイムも家に帰るんだ。年越しは家族で過ごすから。もちろん僕らも帰るわけなんだけど……、ファーを僕らの家に招待できないかなと思ってさ。」

「……ファーを家に?」


 ステラの眉間に皺が寄るのを僕は見てしまったが、僕は話を続けた。


「実はね、ファーには言ったんだ、一緒に来ないかって。だって、ファーは年越しも一人で寮に残るって言うからさ。でも、それは断られちゃって……。ねえ、ステラからもファーを説得してくれないかな?」

「……それが私への相談?」

「そうだよ。二人でファーを誘えば、きっと来てくれると思うんだ。」

「……ファーが嫌がってるなら、無理に誘うこと無いじゃない。」

「ステラ?」


 ステラが僕を睨むように見る。まさかステラにそんな眼を向けられるとは思わなくて僕はたじろいだ。


「だいたい、ファーを家に連れていって、お父さんやお母さんになんて紹介したいの? 僕の恋人ですって? まだ付き合って一ヶ月でしょ。ファーと離れたくないからそんなこと思いつくんでしょ。それで一緒の屋根の下で寝たいってことなの?」


 思いもしない言葉をステラに投げつけられて僕は困惑したが、これには僕も反論しないわけにはいかなかった。


「何を言ってるんだよステラ? ファーには身寄りが無いんだよ? ずっと独りだったんだ。僕らの家に呼んで、なんでそれがいけないんだよ? ステラだったらわかってくれると思ったのに。」


 ステラは立ち上がって僕を責めるような態度で言った。


「アスラはさっきからファーが、ファーがって! そればっかりだ! そんなにファーが大事なら、また学校に残ればいいじゃない!」

「なんでそんな急に怒るんだよ!? ステラがそう言うなら、ああ、そうするよ! 僕は冬休みも家に帰らない! お父さんとお母さんにはステラから言っておいてよ!」

「この! アスラのスケベ!」

「はあ!?」


 ステラは捨て台詞を吐くと寮を飛び出していってしまった……。

 なんでステラとケンカになるんだよ!?

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