二人だけの世界
あっという間の一日だった。魔法大会で優勝して、その後あんなことがあって、その後はまた魔法警察の事情聴取があり、夜になってやっと僕らは解放された。ステラの怪我はたいしたことがなくて大事はなかったが今日は体を休めると言っていた。
寮に戻るとレオとタイムが労ってくれた。二人だって会場で避難誘導を手伝って大変だっただろうに。
「でも、優勝はすごいよ。」
「アスラとステラの兄妹で両大会優勝だもんな。やべーぜ。」
それは本当に僕もそう思う。ちょっと前まで学校に通ったこともなかった僕ら双子なのに魔法学校でこれだけの結果を残せたのは奇跡だ。
僕はレオたちの顔を見てホッとして、やっと緊張が解けた気がした。明日からまた日常に戻ろう。そろそろ休もうかと思っていた僕のところへ、ファーが寮に訪ねてきた。
「アスラ、ちょっといいかしら……。」
「うん。」
僕とファーはあの魔法大会があった競技場まで夜道を無言で歩いた。ファーは僕の前を歩く。僕は何も言わないファーの後ろ姿をずっと見ながら歩いた。
魔法大会があった会場は静まりかえり、僕とファーだけがその空間に取り残されるように立っていた。あの興奮高まる時間が今日の出来事だなんて嘘みたいだ。でも僕とファーが魔法大会で優勝したのは紛れもない事実だ。
「ごめんなさい。疲れてると思ったけど、どうしても今日のうちにアスラと話をしたかったのよ。」
「僕もファーと話したかった。大会の後、全然時間が取れなかったから。」
僕は会場に点いた明かりの元で会場から観客席の方を見渡しているファーの様子を見つめた。
「私たち、優勝できたのね。」
「うん。僕とファーの二人で優勝したんだ。」
「夢みたい。」
「夢じゃないよ。」
「アスラと一緒に大会に出られてよかった。」
「僕もファーと一緒にあの光景を見られて嬉しかった。」
僕は優勝した後に大勢の人たちから祝福されたあの景色が胸に焼き付いていた。ファーも今、僕と同じ気持ちだといいなと僕は思った。
「ファー。せっかくの優勝記念パーティーは中止になっちゃったね。」
「仕方ないわよ。あれだけのことがあったんだもの。」
「残念だな。ファーのドレス姿を見たかったのに。」
「な、何言ってるのよ!?」
ファーの顔が赤くなる。こういう顔をしている時のファーは世界一可愛い。
「実は僕、ダンスの練習も少ししてたんだよ。」
「えぇ? アスラ、本気で言ってるの?」
「本気だよ。ほら、僕と踊ってもらえる?」
僕は手のひらをファーに向けて、ファーをダンスに誘う。ファーは僕の手を取って、僕の方に向き直り、もう片方の手を僕の肩に乗せる。僕はファーの腰に手を回して、ステップを踏む。いや、ステップと言ったってちゃんとしたものじゃない。でも僕らはお互いに合わせることができた。
くるくるくるくるとファーと僕は回りながら音楽もない中で二人で踊る。制服姿での不格好なダンスだったと思うけど、僕らにはそれが丁度よかったんだ。
「ファー、上手だね。」
「そう? 初めてだから自信がないわ。」
僕にはファーしか見えていないし、ファーも僕だけを見てくれている。今ここには僕ら二人しかいない。二人だけの世界だ。
「ねえ、ファー。僕はファーに言いたいことがある。」
「……何?」
僕はファーのキリリとした目を見た。ファーも僕の目だけを見ている。
「僕はファーのことが好きだ。僕の恋人になってください。」
僕はどうしても今、ファーに言いたくて仕方なかった。気持ちを抑えられなかった。
僕はファーの返答を待った。ドキドキしすぎて血が逆流しているみたいだ。
ファーはただ僕の目を見たまま、そして微笑んで言った。
「いいわ、アスラ。恋人になりましょう。私もアスラのことが好き。」
やった! 嬉しくて僕はファーを抱きしめた!
「ありがとう、ファー!」
「アスラ、私も嬉しい!」
誰もいない会場で僕らはお互いだけを感じている。僕の心臓の音とファーの心臓の音だけが聞こえる。この瞬間が永遠にも感じられる。
これからもずっと一緒にいよう、ファー! 来年も再来年も、卒業したって僕はずっとファーと一緒にいたい。
もしかしたら今日以上の困難が僕の前には待ち受けているかもしれない。それでもきっと乗り越えられる。僕は今無敵になった。誰にも負ける気がしない。
明日、ステラにも報告しなきゃ!
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