決勝——レオの戦い

 騎士学科一年のレオ・ブレイズは決勝に至るまで既に五戦を戦ってきて、この決勝戦が本日六戦目であったが、全く疲労を感じないほどの高揚を覚えていた。自分がここまでやれるとは思っていなかった。騎士学科の三年生の先輩たち相手でも危なげなく勝ち進むことができた。今日は神がかっている。これならば、ステラにだって勝てる自信が持てる。


 レオはいよいよ決勝の舞台に進み出た。目の前にはステラが一人立っている。決勝の相手はステラだ。一度も勝てたことがない。でも今日は違う。


「ついに決勝まで来たな。ステラ! 今日は負けないぜ!」


 レオはステラに剣を向け宣戦布告をする。ステラは静かに答えた。


「私も、ここまで来たなら負けるつもりはないよ。」


 レオは目の前のステラに集中した。会場の声も何もレオには聞こえていない。この勝負の空間にはレオとステラの二人だけだ。そして試合が始まる。

 レオにはステラがどう動くかわかっていた。今までのステラの試合すべてステラは相手に先制をさせて、相手の動きを見て剣を受けている。その受け方はアスラの剣と同じだ。それなら裏をかくことができる。

 レオはステラが予想通りに受け身の体勢に回るのを確認すると、間合いを詰めてステラに上段から斬りかかった。ステラはそれを受けようとする。が、その動きはレオの想定通り。レオは上段をフェイントとしてステラの胴を狙った。しかし、ステラはレオの一撃を見事に受けた。


「そんなにうまくはいかねーか!」


 レオはステラの反撃の剣を躱し距離を取った。


「ふーん。なるほどね。」


 ステラはそのままレオを追って攻撃を重ねる。レオはステラの連撃を紙一重で躱していく。レオにはステラの次の動きが見えた。これこそアスラとの特訓の成果だとアスラに感謝した。


「やっぱり。これはアスラが協力したのかな。レオの動きは私の剣が見えているみたい。」

「さすがステラ、よくわかったな。」


 ステラの剣を横に流したレオは、ステラの隙を狙う。それをまたステラが受ける。一撃、二撃。今度はレオが押しているように見える。


「いちっ、にっ、さんっ、ね。」

「なに?」

「これ、アスラの悪い癖なのよ。でも、アスラの剣を知っているのなら逆に簡単。」


 ステラの剣のスピードが数段あがった。レオは防戦一方になる。ステラはアスラの動きに合わせていたレオに更に合わせて攻撃を繰り出す。レオはステラに誘導されるように剣を受け続け、ついにはレオがステラの剣を避けた先には既にステラの剣があった。それをレオは紙一重のところで避け、飛ぶように後方に下がり距離を取った。


「くそっ……やっぱり全然違うか!」


「そうよ! 私が本物の『ガラストラスの剣』を見せてあげる!」


 ステラの動きが更に変わった。それこそ奥義に流れる型だった。アスラには習得出来なかった型だとレオはアスラから聞いていた。


「奥義! 黒閃光の舞い!」


 レオにはステラの周囲の空気が変わったのがわかった。飛んでくるようなステラの剣はレオを逃がさない。レオは自分の首が飛ばされた幻を見た。……もちろん本当に首が飛んだわけではない。そう感じさせられてしまったということだ。


「勝者! ステラ!!」


 勝負は一瞬でついた。ステラの勝利。

 レオは自分がどっしりと汗をかいていることにやっと気付いた。


「レオ、なかなか強かったわ。」


 ステラはレオと試合後の握手をすると、慌てるように控室に戻っていこうとしていた。


「完敗だった……。」


 レオは会場から立ち去るステラを見送った。しかし、その時、ステラが観客から見えないところで足を引きずるように歩いていることに気付いた。レオは慌ててステラを追いかける。


「おい、待て、ステラ。その足は?」

「……。」


 ステラはレオの問いかけに答えなかった。

 ステラは無言のまま不器用な歩様で控室まで戻ろうとしていたが、ふと何かに気付いて足を止めた。


「……ミネさん?」


「ステラちゃん。ちょっとその足見せてくれるかな?」


 ステラを控室の前で待っていたらしきピンク色の髪の女性がステラに声をかけた。ステラの知り合いか? レオは訝しがったが、ステラがそのピンク色の髪の女性とその連れの女性の二人と親しそうに話をし始めたので黙ってその様子を見守ることにした。ステラの足は赤く焼けたようになっている。これは怪我じゃないとレオにはわかった。いったい、ステラに何があったんだ? そして、この状態のステラに自分は負けたのか……。レオはステラとの力の差を改めて突きつけられ絶望に近い感情を抱いた。

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