ファーから聞いた話
放課後の図書館では勉強をしている生徒が散見される。それは授業の復習や予習であったり、自主的な勉強であったり、目的は様々だ。図書館では私語を慎むルールになっているのでみんな話をしても小声であり、静かで勉強に集中できる環境なのでファーは毎日ここで授業の復習と予習をしているそうだ。僕も魔法使い学科の授業でわからないところがあったりするとファーに勉強を教えてもらいたくて、図書館に通うことが多くなっていた。ここのところは毎日のように訪れている。
「はい、これで明日の授業の予習は終わりね。」
「ありがとう、ファー。時間ピッタリだ。」
ファーの勉強は効率がよく、わかりやすくて、まるでカミエラ先生に教えてもらっているようだった。周回遅れだった僕の魔法使い学科の勉強は完全に授業に追いついて、この間のテストではついに満点を取れるようになっていた。これは勉強を手伝ってくれたレオやタイム、ファーのおかげだ。
「アスラ、この後何かあるの? 忙しそうね?」
慌てて帰り支度をする僕にファーが聞いた。
「うん。今、毎日レオと剣技大会の特訓をやってるんだよ。あ、ステラには秘密だからね。」
「剣技大会?」
何か引っかかった様子のファーは、僕をもう一度席に座らせると小声で話しはじめた。
「もちろんステラに隠しておきたいなら私からは何も言わないでおくわ。それよりも、ステラも剣技大会に出るってアスラも知ってるの?」
「知ってるよ。それでレオと特訓してるんだから。」
「そう。なぜステラが剣技大会に出るか理由は聞いた?」
「理由? いや、そういえばステラは何も言ってなかったな。」
ファーはそこで口ごもってしまって、続きを話すかどうか迷っているみたいだった。ステラが僕に言わなかった理由をファーが僕に話してしまっていいのかと悩んでいるのだろう。
「ファー。もしも理由を知ってるなら教えて?」
「わかったわ。ステラね、この間、騎士学科の先輩に交際を申し込まれたんだって。」
「え!? そうなの?」
ステラとは定期的に近況を伝え合っていたがそんなことは一言も言っていなかった……。それでステラはどう答えたんだろう?
「でもステラは断ったって。それなのにその先輩はしつこくて、今度の剣技大会で優勝できたら交際して欲しいって強引に言ってきてね。それでステラは自分も剣技大会に出てその先輩を『徹底的に叩きのめすことに決めた』らしいのよ……。」
「ハハハ。それはステラらしいな。」
我が妹君は当然モテるだろうと思っていたが、やっぱりモテていたんだなあ。ステラは全然そんなことは僕には言っていなかったけれど恥ずかしかったのだろうか。しかし、僕はステラに彼氏が出来ることがあるかもしれないなんて想像してもいなかった。今回の騎士学科の先輩はファーから聞いただけでもステラの好みでは無さそうでステラはお気に召さなかったのだろうけれど、もしもステラが好きになるような相手が現れたらどうなるんだろう? 兄として彼氏がいる妹とどう接すれば?
「ごめんなさい、引き留めちゃって。」
「いや、話してくれてありがとう、ファー。それじゃステラには絶対に勝ってもらわないといけないね。」
「そうね。私も応援に行くつもり。」
僕はファーと分かれて図書館を出た後にレオと約束している秘密の特訓場に向かった。ステラが交際を申し込まれていた話を聞いて、まだ僕は少し動揺しているようだった。たいした話じゃない。そんなことはステラなら当然起こりうるし、剣技大会だってステラが優勝するに決まっている。でもそれならなぜ僕はレオと特訓をしているのか。僕はレオにも勝ってほしいと思ってる。僕はステラとレオとどちらを本当に応援してるんだろう? 万が一にもレオがステラに勝って、騎士学科の先輩がレオに勝ってしまったら? いやそうはならない。そうなったらレオが代わりに先輩に勝てばいい。
僕は特訓でレオと手合わせをしてレオの強さがわかっていた。レオは僕よりも断然に強い。それでもレオはステラには適わないと言う。ステラは次元が違う。
「ステラは、こっちが当たると思った剣が当たらないし、避けたと思った剣を確実にポイントに当ててくる。全部クリティカルヒットなんだよな。まるで別世界の存在を相手にしてるみたいだ。」
レオの実力からでもステラはそのように見えるらしい。別世界と聞いた時、僕は自分のスキル『神の手』の能力とステラのスキル、そして校長先生の言ったことが頭をチラついたがすぐにそれを振り払った。ステラのスキルがどのような能力であっても、ステラの強さは本物に違いないのだから。
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