魔法使い学科の首席入学生が可愛い

「アスラが騎士に向いてないって……、どういうことですか? 校長先生?」


 ステラが少し食い気味に校長先生に質問した。そうだ、僕だって聞きたい。自分でも騎士の才能がないことはわかっていたことだが、初対面でいきなり否定されて気分がいいものではない。これでも自分なりに努力してきたのだ。


「いや、いきなり悪かったね。私はね、アスラくんには騎士よりも魔法使いの方が才能があると見抜いたんだよ。それも飛び切りの才能がね。」


 魔法使い?


「そんな……まさか? アスラは魔法が使えないはずです。」

「そうです、僕は……ステラもですけど、僕らの家は代々騎士の家系で、魔法は使えないんです。」


 僕が魔法使いだなんて……。僕とステラは同時にそれを否定した。だって僕は魔法を使えたことがない。家庭教師のカミエラ先生も僕らに魔法の授業はできないと言っていた。それは僕らが魔法を使うことができないからだ。魔法は生まれながらの才能である。確かドラゴンであった父は魔法が使えたはずだが僕らはその才を引き継がなかった。


「え? そんなはずは?」


 しかし、校長先生は僕らの言葉を聞いて信じられないという顔をした。


「んー、いったいどういうことだろう?」


 校長先生はまた宙を見ながら何かを探しているという風にしばらく難しい顔をしている。


「ああ、そうか。君たちはカミエラくんに勉強を教えてもらっていたんだね。カミエラくんは私の教え子だったんだよ。懐かしいな。それで、アスラくんは魔法を封じられているようだね。」


 校長先生が急にカミエラ先生の名前を出したから僕は驚いた。どうしてカミエラ先生が僕らと関係があると知ったのか。あらかじめ知っていたわけではない。今知ったというような言い方だった。どこから?


「どうしてカミエラ先生のことを!?」


 僕は校長先生に疑問をぶつけた。しかし校長先生はそれにまた答えずにそのまま続けて言った。


「どういった理由なのかはわからないけれど、これじゃ不都合があるからこの封印は私の方で解かしてもらうよ。」


 校長先生が細い棒……おそらく魔法の杖を取り出して何かを呪文を唱えると僕の体が光に包まれる。そしてふっと僕は自分の体が軽くなったように感じた。


「さ、これでよし。詳しいことは今度カミエラくんに会った時に聞いてみるといいよ。じゃあ、入学式に行こうか。」

「え、待ってください。カミエラ先生が僕に魔法をかけていたんですか?」

「そういうことになるね。でもカミエラくんは何か悪いことをしていたわけじゃないと思うよ。きっとアスラくんのことを思ってのことだと思うけれど。」

「そ、それって勝手に解いてしまって大丈夫なんですか?」


 仮に本当にカミエラ先生が僕らに内緒で僕の魔法を封印していたとして、それでも僕らはカミエラ先生を信用している。それを勝手に解いてしまったのは良くないことなのではないかと僕は心配した。


「……まあ、遅かれ早かれこの封印は解けていたはずだよ。君の魔法力はこれからどんどん成長することになる。もしも『夢』を見ることがあったらね、その時は私にも教えてくれたまえ。その時にもっと詳しいことを教えてあげるからね。」

「夢?」


 僕は何のことかわからなかった。ふとステラの方を見ると、ステラがずっと青い顔で僕の様子を見ていたことに僕は気付いた。


「大丈夫、ステラ?」

「う、うん……。」


 校長がさっさと魔法で何もない空間に扉を二つ作る。


「魔法学校は異空間にあるから、こうやって出入り口を作るのも自由自在なんだよ。あ、そうだ。アスラくん。君は騎士学科じゃなくて魔法使い学科に入ってくれたまえ。こっちが騎士学科の扉で、そっちが魔法使い学科の扉だから。ステラくんは私とこっちの扉に来ておくれ。アスラくんには案内役を用意しておくから大丈夫、迷わないよ。」


 校長先生はもう時間がないと言って、ステラに扉を開けるように急かした。ステラが騎士学科の扉を開けると、ここは駅の構内のど真ん中のはずなのにその扉の向こうには広く青い空が広がっているのが見える。


「あ、ステラ! じゃ、じゃあまた後でね?」

「うん、アスラも……。」


 僕はステラと校長先生が扉の向こうに行ってしまったのを見送ると、意を決して目の前の魔法使い学科の扉を開いた。



 扉の先はどこかの建物の廊下のようなところに繋がっていた。ピカピカに磨き上げられた木造の建物だ。そして、目の前に一人の女の子が立っていた。僕と同じ魔法学校の制服を着て、茶色い髪を肩の少し上くらいの長さで切りそろえていて眼鏡をかけている。そして僕を睨んでいる……。


「あなたが編入生? 私、ファーよ。魔法使い学科でね、入試の一位だったからいろいろ先生たちに頼まれて嫌になるわ。あなたは?」

「あ、僕の名前はアスラ。本当は騎士学科に入るはずだったんだけど、なんでか今急に校長先生に魔法使い学科に行けって言われちゃって……。魔法使ったことないんだけど。」

「はあ? 何それ、ふざけてるの?」

「はははは。何なんだろう? 僕もよくわからないよ。」

「まあいいわ。私の後についてきて。」


 うう……。これがステラ以外の同年代の女の子との初めての会話か……。ファーと名乗ったこの女の子を僕は第一印象で可愛いと思ったが、なぜかいきなり怒っているようだったので最悪のファーストコンタクトだった。……もっと別の和やかな雰囲気の中で会いたかった。きっとこれから同級生になるはずなのに仲良くなれる気がしない……。


 僕は大人しく黙ってファーの後ろを歩く。今日はいろんなことがあったな。いや、まだ入学式も始まってなかった。まだ今日という日はこれからなのだ。僕が魔法を使えるって本当だろうか? 先を歩くファーが着ている魔法学校の制服は、ふわりとしたローブと女子はスカートである。ファーの後ろ姿を見ていると、ファーが歩くのに合わせてスカートとローブがふわりふわりと左右に揺れる。ファーの背中はピシッと真っ直ぐに伸びていて、その腰から下はボリュームを感じられる。いわゆる安産型である。このお尻は良いお尻に違いない。僕はいつの間にか現実逃避的にぼんやりとファーの後ろ姿について考えていた。


「ここからあっちまでが魔法使い学科よ。……あなた席あるの?」

「え? いや、どうなんだろう……。」


 ファーは僕を広い講堂のようなところに連れてきてくれた。階段のように段々になった机と椅子にたくさんの生徒たちがズラリと座っていた。そして中心の台の上には先ほどの校長先生が立っていて何かを話している。その横には大人が数人立っていてきっとあれが学校の先生たちだろうと僕は思った。

 気付くとファーはもう自分の役目は終わったとでも言うようにさっさと自分の席の方に行ってしまっていた。僕だけがポツンとその場に残された。

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